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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
54/88

51,選択

 


 ――俺の全力で突撃した力をいなされたままの姿勢で、動きが止まっていた。



 俺の戸惑った様子を感じ取ったのか、メイは当たりを付けて続けた。


「こいつらが死ぬまでにはまだ時間があるからゆっくり聞いて、

 あなたは覚えていないかもだけどあたしはね、あなたの為にいろいろな薬を作ったの、無論、毒を無効化する薬もある。あなたがこの人たちを死の運命から救って、気分が落ち着くというなら、あたしはあなたを手助けするわ」


 それは、彼女の美貌も相まって、その甘い言葉は女神の神託かのようだった。



「じゃあ、助けるならそもそも何でこんなことをしたんだよ……」


 その疑問は全くもって抱くはずのものだった。

 一度殺しかけたものをわざわざ救うだなんて、何かの偽善者かと普通は思うだろう。



「だってあたしは、あなたが誘拐されているのかと思ったの。こんなボロ屋で劣悪な環境に置かれているなんて……だからあたしは、そんなことをしたやつを始末しようと思っただけ!」


 さも当然のことをしたかのようにメイは言った。

 その子供じみた様子に毒気を抜かれ、怒る気も失せてしまった。




 俺は安堵してその場に膝から倒れ込んだ。


 二人が助かると分かったからが割合としては大きいが、同時に人を殺めずに済んだから。


 前世で俺は良い人であろうとした。勿論障がいの事もあり、うまくいったことの方が体感では少ない。

 それでも、なるべく善良な一般市民であろうとした。そんな俺が人を殺す?

 性分違いもいい所だった。



 俺は下からメイを見上げながら言った。


「――早くその毒を無効化する薬を渡して」


 メイは不敵な笑みを見せながら俺に一つの容器を渡してきた。




「――はいこれ!もしもトピアが毒を貰った時のために、1人分だけ用意してたの!あたしって用意周到でしょ!」



 その言葉は俺を再び絶望に突き落とした。




 ――は?



 ――1人分?



 ――何?この女はふざけているのか?



 今毒に蝕まれているのは二人、薬は一つ。足りないことくらい猿でもわかる。

 ありえない。それで用意周到とか本当にこいつは言っているのか?



「――これの他には薬は無いの?」



 はらわたが煮え返りそうな思いだったが、まだだ。まだ可能性はある。


「――この場には無いわ!」


 その笑顔から繰り出される言葉はあまりにも無慈悲だった。


 ――でもまだ…



「付近で採れるものから作れたりとかは?」


「珍しいものだから多分ここらには居ないし、あったとしてもここで精製するにはかなり時間がかかるわね!」


 ――まだ……



「この中の薬を二人に半分ずつ飲ませるとか……」


「あら?二人とも助けたかったの?でもお勧めしないわ!死ぬまでの時間がかなり延びるだけで、どっちも最終的には死んじゃう可能性が高いから!」


 ――まだ………





 ……ダメだ。これ以上は逆立ちしても何も考えが出てこなかった。


 メイは俺の様子を見ると、こちらを心配するように言って来た。



「――ええと、なにか、がっかりさせちゃったみたいでごめんなさい。その、もしどちらを助けるか悩んでるなら、どちらも助けないという選択肢もあるわ」



 俺はその言葉を聞いて耳を疑った。そしてメイを睨みつけその表情を見て悟った。

 こいつは頭がおかしいと、なぜそんな結論に至れるのか、甚だ疑問だった。


 俺の睨みつけが聞いたのか、メイは自身の発言を補足する。


「いや!そんな目で見ないでよ!あたしはどちらかを助けられなくて罪悪感に苛まれるくらいなら、どっちも見殺しにすべきだと思っただけよ!」


 メイは何故か俺を嫌そうに見ている。

 その考え方は、無くはないがそれでもまず初めにパッとそれが出てくるところが悍ましい。



 俺はただひたすらに悩んだ。どちらを助けるのか?

 このまま悩んでいるだけでは、猶予が過ぎて二人とも助からなくなるというのに、

 俺は決められずに刻一刻と時間だけが過ぎていく。


 どちらかなんて決められるわけなかった。

 ミーニャは今まで俺を助けてくれたし、彼女がいなかったら俺は生きていない。

 フィアルもあんなことをしたけど、それは悪意があったわけじゃなし、今まで俺を想って動いてくれたわけで……




 そんな事を考えて懊悩に苦しんでいた時、メイが再び俺に甘い声で囁いてきた。


「トピア、もしそんなに悩んでいるなら、あたしにいい考えがあるの……」



 またどうせ、ろくでもない事かと思ったが、それは今のメイにしては建設的な内容だった。


「片方はその薬を飲ませて、完全治癒させてここに置いていく。で、飲ませなかったもう片方はあたしの屋敷に連れ帰って…そこでなら即治療できる。後者は治療まで時間がかかるからの生存は保障しないけど……それならあなたも呑み込めるでしょ?これがあたしの最大の譲歩よ!」



「――両方は連れていけないの?」


 俺が聞くもその返答は俺の望むものではない。


「あたしはあなたの気持ちを優先させて最後に憂いを無くさせたいだけ。助かる奴を連れて行くのはそれに含まれない」



 そしてメイはそう続けると、最後にとんでもない事を言い出した。


「それをする代わりに、あなたお願いがあるの!」


 俺は無言で彼女を見つめて、続きを催促する。


「もう二度とあの屋敷から出ないって約束してほしいの!」


 それは、初めて目覚めた時にも彼女から言われた事だった。

 先程も言ったがそれは俺が自主的にとの出たわけではないが、今はそんなことを考えるべきではない。



「外には一切出られないの?」


 俺がそう聞くとメイは、なぜか顔を赤らめながら説明した。


「――そう、出ないで!あなたは危険ばかり冒して……あたしは、あなたを失うのが怖いの、今回の事で改めて思った。だから安全な場所に一生いてほしいの」



 ――それは、その条件を俺は呑めるのか?


 そんなことしたら、俺はこの世界での人生を断たれるのと同義だ。それは――



 俺は床に膝を突いて依然と微動だにしない二人を見る。

 二人とも、かろうじて息はあるが、もう風前の灯だ。


 いや、迷っている時間は無かった。どちらも俺は恩があるそれも命が関わった恩だ。それを今返そう。


 問題は、どちらに飲ませてどちらを連れて行くかだが……

 俺は最後にメイに質問した――



「もし、完全治癒できなかったのなら、屋敷に連れて行くんだよね?」


「そうよ――」


 メイは短くそう返事をする。






 そして俺は■■■■に――その薬を飲ませたのだった――



 それを後ろで見ていたメイはにやりと笑いながら、ぽつりと呟く。




「――そう、それがあなたの選択なのね…」


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