47,襲撃
「――え?何!?どういう事?」
俺はミーニャに問いかける。
ミーニャは、何も言わず荷物を素早くまとめている。
先程一瞬の静寂があったのだが、特に何も聞こえなかった。
ミーニャには何か聞こえたのだろう。おそらくそれが聞き取れたのは、彼女の獣としての鋭い聴覚によるものなのだろう。
「トピア様も急いでください!もうその女にかまけている余裕は無いです!」
一瞬でこの場が忙しい空気に包まれる。流石にブラフなどではないだろう。
何も理解できていないが、囲まれているとミーニャは言った。とにかくここに留まることが良くないことだけは分かった。
ミーニャのその真剣な表情から、想像以上にまずい状況だと察する。
ミーニャはそう言っているが、俺は特に荷物があるわけではないし準備することも無いわけで……
何が何だか全く理解できず、フィアルの体から離れ、ミーニャのもとに行こうとすると――
――突然後ろから抱き着かれた。
そして耳元でフィアルが小声で囁いてきた。
「アル、私と一緒に逃げましょう?二人だけで……」
この場においてもフィアルは相変わらずというか狡猾だった。
これがこのような状況でなければ、とても頼もしいのだが……
「フィアルは何が起こっているのか分かるの!?何か聞こえる!?」
「いいえ、何も……でもどんな脅威であろうと、私の剣があればどうにかなる…!だから私の剣を返してほしいの!」
フィアルに聞いても無駄だった。
「それなら後ろにあるけど……」
思わず、剣の場所を答えてしまったが、良かったのだろうか。
いや、どうせ部屋を見渡せばすぐ分かることなので、別に構わないだろう。
俺がそう言うと、フィアルは後ろを向いて剣を取り、彼女も急いで荷物をまとめている。
「はいこれ!これ護身用に使って!何も無いよりは、ましだと思うから」
そう言うとフィアルはミーニャのナイフを渡してきた。
いや、それを俺に渡してくるのは違うだろう。フィアルの心遣いなのかもしれないが、それは違う。
どうせ俺が持っていても、心得があまりにもない。ここは持つべき者が持つべきであろう。
「――ミーニャ!」
俺がミーニャの名を呼ぶと部屋の隅で身支度をしている彼女がこちらに振り向く。
投げて渡しても彼女なら大丈夫だと思ったが、さすがに床を滑らせてミーニャの方に送る。
「えっ――なんで。」
後ろからそんな声がしたが、もうそんなことを気にしている場合ではないのだろう。
俺でも微かに聞こえたからだ。部屋の中に居ても分かるほどの足音が、
ナイフを受け取ったミーニャは、再び耳を立てながら俺に再び危機的な事を告げる。
「――まずいですね。随分と包囲陣の構築が早いです」
「いきなり過ぎて何も分からないよ!そもそも敵じゃないかもしれないし」
何かが起こっている。それは分かるのだが相手の正体も目的も不明では埒外だ。
ミーニャに質問したところで彼女にも分かるはずがないのだが、それでも聞かずにはいられなかった。
しかし、ミーニャは俺なんかよりもはるかに洞察力が優れているらしく、俺の疑問にもある程度は答えてくれた。
「今、我々のいる建物は完璧に包囲されています。敵対の意志が無いなら、絶対こんな事をしません。狙われている理由も、なんで居場所がバレたのかも分かりませんが」
「町の人達が追って来たとか?」
「その可能性はかなり低いでしょう。足音は筒抜けですが、それでも統率は取れています。おそらく手練れです。そして完全に逃げるタイミングを失いました」
一対一の戦いなら、おそらくミーニャもフィアルも勝てるのだろうが、多勢に無勢では話が違う。
ミーニャは焦ってこそはいないものの、余裕があるわけでもなさそうだった。
「できれば潜んでやり過ごせればいいんですが、相手のこの迷い無い動きは、見逃してはくれなさそうですね。息を殺して見つかった瞬間に奇襲しましょう」
そして、ミーニャは立ち尽くしているフィアルを見かけると――
「――ちょっと、これも成り行きです。あなたもどうせなら手伝ってください!」
ミーニャがフィアルに向かってそう言った。
フィアルはミーニャを睨め付けながら子供のような雰囲気で愚痴を零した。
「うぅー、なんでこんな時に……水浴びして着替えたいのにー!」
「だったら外の小川で服も一緒に洗ってきたらどうですか?そしてあなたが囮になっている隙に、私はトピア様と一緒に包囲網を抜けてここからとんずらさせてもらいます!」
「誰のせいでこんなことになっていると思っているの!!」
「さあ?あなたのせいでは?」
ここの会話だけを聞くと、ひどく貶しあっているが和やかな様子に見えなくもない。
ミーニャは相変わらずフィアルを皮肉っている。
しかし、いよいよそんなことを言っている暇もなくなった。
――建物の入り口から何かを蹴破る音が聞こえたのだった。




