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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
48/88

 閑話 少女の記憶

ややグロあり

 


 ――ある少女の昔の話――彼女は孤児だった。



 彼女の居た地域に孤児院などがあるわけでもなく、町中にあるその辺の雨風凌げるところで野宿する日々。

 親というものが居た気もするが、よく覚えていない。


 孤児は周囲の人間から恵んでもらえるわけでもなく、頼れるのは自分だけだった。

 食べるものにありつけるのもやっとで、毎日町の外の木の根や草を食べる毎日。

 なんだったら、周りの死んだ人間を食べたこともあった。すでにやせ細っている老人の骸ばかりなので、ひたすらにまずかったが……

 それほどの惨憺たる日常――



 周囲の孤児からは何故かいじめられ、頭を持たれて引っ張りまわされたり、やっとのことで手に入れた食物を無理やり取り上げられたりもした。

 周囲には孤児が山ほど居るのになぜ、自分だけがこんな目に遭いやすいのか少女は分からなかった。



 やがて何日も食べ物にありつけない日々が訪れた。

 草は枯れ、木の根も掘れるところは食い尽くし、死骸にすらありつけない日々が――

 いっそのこと、他人を殺して食べたかったが、人を殺めた者がその後どうなるのか知っていたので、やりたくてもできなかった。


 体は骨と皮だけになり、げっそりとしたその顔だけを見てもその悲惨さが窺えた。




 でもそんなある時、彼女のもとに救世主が現れた。


 その少年は毎日少女の前に現れては、食べ物を恵んでくれた。

 それはこの世界の利己的な人間にしてはかなり珍しかった。いやそんな人間がいることはありえないとまで言い切れるほどに。


 でも少年は恵んだのだった。

 そしてある時、少年は少女にこう問いかけた。


「僕の名前はアル、君の名前は?」


 少女はその言葉の意味が分からなかった。

 なぜなら少女の居た環境では言葉が必要なかったから。


 少年は少女の無言の返答に――


「名前が無いなら僕が付けてあげよう。食べ物もいっぱいあげるよ。ただし、僕と一緒に来てくれたらだけどね」


 少女はある一つだけの単語に反応した。“食べ物”という単語、それだけは、それが何を意味するのか知っていた。

 物乞いをしている老人が、何度も言っていたから――


 少女はそのアルと言った少年に、にじり寄った。すると少年は――


「そうかそうか。じゃあ名付けよう。そうだな。君の名前は――“フィアル”!うん、フィアルにしよう。僕の名前と同じ音が入った名前、いいだろう?」


 別に少女に名前が無かったわけではなかった。

 でも少女自身も覚えているものではなかったのでどうでもよかった。






 そこからの生活は今までの彼女のものからは一変した。

 食べ物を与えられて、髪や体を綺麗に洗われて、服を与えられて、生活するうえで言葉も覚えていった。


 少年の出自は分からないが、彼も帰る家が無いようだった。

 だから、宿を取るために、お金が必要だった。そのお金を得るために町の住人の依頼を受けた。

 少年に連れられて、毎日いろんな場所に行った。洞窟だったり、沼地だったり、こことは違う町だったり…


 少年には常に自分の前を行くようにと言われた。理由は分からないが、特に気にすることでもなかったので、少女は了承していた。





 やがて少女は少年に恋をするようになった。その感情がいつから渦巻いていたのかは覚えていない。

 稼ぎが良かった時には二人で酒を飲むこともあった。少女にとってはまずい代物だが、少年と一緒に居るのが楽しくて、頑張って飲んだ。



 ある時依頼の報酬を受け取りに行った住人から言われた。亜人なんかに金は払いたくないと、少女はそれがどういった意味を持って言われたのか知るのは後になってからだった。


 結局その場はアルが言い負かして報酬を分捕ったのだが、少女が後になってその意味を知ると、少女はひどく悲しんだ。

 そして、水面に映った自分の容姿を見てこう思った。


 “なるべくできる限り、人間でありたい、じゃないとアルの迷惑になるし、何より彼に嫌われたくない!”


 少女は、髪を短くしたり、頭から生えていたものを削ったりしたが、髪色と瞳の色はどうにもできなかった。

 少年は特に何も言ってこなかったが、町中の私を見る目がだいぶ変わったので、少女はその後も容姿には気を使っている。

 少女は少年の前に居ることに誇りを持つようになっていた。






 そんな日々を続けて、それが段々少女にとって日常になってきた頃――


 少年がどこからか、別の女性を連れて来た。少年よりもやや年上で、貴族の家から家出したらしかったが、そいつを連れて来た理由が少女には分からなかった。

 そして、二人だけの日常から三人の日常となった。



 その女性は私よりも料理や戦闘、なんでもそつなくこなせて、少年の気を絶対的に引いて行った。

 そして彼女は変な薬ばっかり作っていて、私にとっての魔女だった。いや怪物と言った方が近しいだろう。



 やがてずっと一緒に居た少女の事なんかは見向きもしなくなっていた――


 それから一年くらい少女は蚊帳の外だった。

 裏で密かに色々な特訓をしたが、それでも彼女にはすべての分野において勝てなかった。



 そんなある日、遺跡を探索した時にひょんなことから、少女のその一生の愛刀となる剣を手に入れた。

 その武器の威力があまりに強力で、少女にしか使えないと分かった時、少年の少女に対する態度が変わった。



 一気に少女に良くしてくれるようになり、少女ばかりを見てくれるようになった。

 そう、少女は、後から来た女性に完全勝利した瞬間だった。


 それからの一年少年はずっと少女の方にべったりしていた。

 そして、少女は今なら自分の気持ちが伝えられるのでは、と思いつつも伝えられずにいた。

 少年は少女自身にはあまり恋愛的興味がなさそうだったから…




 そんなもやもやした日々が続いたときだった。少年が突然失踪した。

 今まで一日と離れて過ごしたことが無かったのに――


 彼女は、酒に逃げた。


 しかも、手掛かりも何も残っていない。

 そして女性がいきなり、家に戻ると言い出したのだ。少年がまだ見つかっていないというのに。


 だから、少女はその女性を疑った。

 前から、私たちが一緒に居るのを見て、恨めしそうにしてた。

 そして少年の近くに居る人間ならば、証拠を残さずに誘拐できると思ったから。それくらいあの女はやってのけるだろうと少女は思った。



 そして、調べていくうちに彼女の実家の所有物で、少年を軟禁するのに最適な建物を聞きつけ、付近の町を拠点にして周囲を調べていたら――



 ――騒ぎを聞きつけその中心で彼を見つけた。酒で酔っていたことと、彼を見つけた喜びで少女は興奮して、いつになくひどい言葉遣いになってしまったが、それはいつもの少女のものではない。




 そして、少女は彼を見つけこう思うのだった。今度こそ、後悔無く自分の気持ちをぶつけようと――


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