表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
41/88

39,反撃

 


「――何でもするって言ってくれましたよね?」


 ミーニャは素晴らしく絵になる笑みを浮かべて俺だけに聞こえる声で囁く。

 彼女のその言葉は俺を混乱させる。


 それは間違いなく、しかも俺とミーニャの正式な合意を持って結ばれた契約、

 その契約を一方的に反故にすることにはできるだろう。だがそれは俺の良心が許さなかった。

 ミーニャの理不尽な理論で結ばれた契約とはわけが違う。



「望みは何なの?」


 俺は恐る恐るミーニャに聞いた。


「簡単です。ただ私を何も言わずに受け入れてください」


 ミーニャは厳かにそう言った。

 そのやり取りはフィアルには聞こえない。俺たちだけの小さな密会。

 ミーニャは俺が断るかもしれないと算段を付けていたのだろう。そして俺はその事計にまんまと嵌まった。



 もう俺の思考は本能的に、悲観的、消極的に考えることを止め、肯定的な考えを持つようになっていた。


 思えば、女性が俺にこんなに言い寄ってくることが、かつてあっただろうか。いや、少なくとも前世の俺には無縁な話だった。

 しかも、俺に全てを捧げて尽くしてくれると言う。そんな素敵な女性に人生で巡り合える確率は、いったいどれくらいものだろうか。


 しかも、あのモフモフの毛並みと柔らかい肉球、それらを撫で放題、触り放題というのは、もしかしなくてもこれは好条件なのかもしれない。

 これはミーニャを拒絶しきれなかったが故に、脳内があらゆる手段を用いて作り出した幻想なのかもしれない。今となってはミーニャに対する俺の考えがうまくまとまらない。



「分かった――」


 俺は二つ返事で引き受ける。あの時と同じ。でも今度は声を伴って、


「ではトピア様、あの不躾な女に向かってそう宣言してやってください」


 ミーニャが何を宣言させたいのか。そんなことは分かり切っている。

 俺はミーニャの後ろに体を隠すのを止めて、フィアルの前に出た。



「フィアル、俺はミーニャと――」




「――――させないわよ――」



 一瞬そう聞こえた気がした。いやそんな音なんて、そもそも存在しなかったのかもしれない。




 気が付くと視界には、後ろにいたはずのミーニャを捉えていた。

 そして、今まさに俺の目の前に居たフィアルが視界から消えた――



 そして俺の首筋に一筋、冷たい物体が触れる。


 俺は突然の異常に思考が固まり、目が大きく見開かれる。


 その目には驚き、そして次の瞬間には声を大にして喚き散らしていた。



「あなた!!自分が何をしているのか分かっているんですか!!?」


「それはむしろ、あなたへの言葉として言われるべきものじゃない?」



 そのフィアルの声は、なぜか後ろの首元から響いてきた。


 そして部屋にあった壊れた扉、ベットなどの家具が俺を軸にほぼ点対象に移動していることから、単に俺が回れ右しただけだとやっと理解できた。

 そして俺の腕は後ろに回され、腰のあたりで交差して動かせなくなっている。



「――フィアル…?」



 俺は視線だけを後ろに送り、恐る恐るその名を呼んだ。

 その高い声は震えて幼子のようなものに聞こえた。



「アル…、絶対動かないで、そして静かに聞いて……あんな人間紛いな者の言葉を真に受けちゃダメ。アルは私だけを頼りにして生きていけばいいの」


 フィアルは拗ねてひねくれた子供の様に、意地っ張りな様子で言った。



「いいからとにかくその手に持っている物を下ろしなさい!!!でないと……」


 ミーニャが怒髪天を衝く勢いで怒鳴りたてる。彼女の全身の毛が見たことないように逆立っている。



 ミーニャにそう言われて、俺はフィアルが持っている物の正体を確かめた。

 彼女の左手の中には、先程俺たちがフィアルから取り上げようとしたあの魔術具、

 レイピアのような細い剣の柄が握られていた。


 ――そしてその刀身は俺の首筋に伸びていた。



 今の俺の体勢の原因全てに合点がいった。

 ミーニャの前に出てきた俺を、フィアルは一瞬で掻っ攫いこの位置まで持ってきた。あの身体能力に秀でたミーニャにすら対応できぬ速度で、

 そして、右手だけで、俺の交差させた両手首を拘束し、左手にはあの魔術具とやらを握り俺の首へと向ける。


 ミーニャの抱っこしたままの拘束も器用だと思ったが、これも大概かそれ以上だった。



「――でないと……何?そこから先言ってみなさいよ」



 見るとミーニャの右手の中には――いつか見たナイフが握られている。




 ――それはいよいよこの現場が、口先だけの喧嘩だけでは済まないことが物語られていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ