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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
39/88

37,関係

 


 ミーニャは俺のその言葉を聞くと、突然プツリと糸が切れたように俺を締め付けから解放した。


 俺はこの状況でどうしてミーニャがそうしたのか分からなかった。でもこれはチャンスだ。

 俺は降ろされたその場から、フィアルを止めに行こうと走り出そうとした――


 ――しかし、ミーニャが再び俺を抱きかかえる。

 今度は先程の拘束の比ではなく、通常とは違った、縦向きのお姫様抱っこのような体勢で抱きかかえる。

 手足を折りたたまれ、完全に身動きが取れない状態で、せいぜい動かせるのはつま先程度だ。


 そうまでしてミーニャはやっと口を開く。



「トピア様…!それだけは…ダメです……」


 真後ろにミーニャの顔がある体勢なのでその顔は見えないが、どうやら彼女はすすり泣いているようだった。

 それは俺が放った直前の言葉がかなり聞いているようだった。


「ミーニャ!離して!!」


「いいえ、絶対ダメです!どうしてもと言うならさっきの発言を完全に撤回してください!」



 ミーニャはあの発言に対して、ひどく固執しているようだった。これは現状、唯一の抜け道だと思った。


「ミーニャが人殺しに関わろうとするなら、絶対に撤回しない!!」


 だからこそ俺は後には引けない。


「――ならば、一生このままです……」


「ミーニャ!!」



 はっきり言ってしまえば、ここで“撤回する”と言えば拘束も解かれ、ミーニャの油断も誘えただろう。

 しかし、俺にそんなことを考える余裕はなかった。

 何とかあの言葉を利用することを考えるあまり、一歩引くという選択肢が頭の中に浮かばなかった。




 その一連のやり取りをただ一人、傍ら見ていた少女が口を挟む。



「――ねえ、ミーニャ?あなたとアルはどういった関係なのかしら?」




 その声は、今まで彼女と会話した中で一番大人びたものだった。どこまでも冷たく、メイのような気品すら感じる。


 そしてその声は、いつもの彼女の声の調子では全くなかった。

 表面上は平常と、そう聞こえなくもないが、誰しもが声色の異変に気付くだろう。



 俺とミーニャは二人してその変異した声の方向を、ゆっくりと、ゆっくりと向く。


 彼女の方向を見ると、その顔には笑みを浮かべていた。妖艶で、艶やかで、艶めかしいそれ。

 しかしその表情をそのままの意味で受け取るのは、あまりにも憚られる。


 彼女は作業を止め、立ち上がる。その嫋々として、しかし芯のある四肢が俺の網膜に映しだされる。

 そのあまりに優雅すぎる身のこなしは、俺の目に映るそれ以外の景色を盲目にする。



 ――そう、俺は見惚れていた。何故かはわからない。こんな状況なのに…



 硬直している俺の代わりにミーニャがその問いに答弁する。


「どういった関係?とはどういう意味なんでしょう?」


 それは本当に彼女の問いの意味が分からないと言った様子だった。

 その顔は相変わらず見えないが、きっと相当困惑している表情をしているのだろう。



「一緒に寝る?撫でる?なにそれ?

 それって明らかに、普通の他人との付き合いの範疇を超えているわよね?」


 彼女は何かの感情を持っている。表面には出さないが確実にその内側には、はち切れんばかりの情念が渦巻いている。

 その様子に今、まさに見惚れていた俺の体の挙動がおかしくなるほどに、


 隠れている感情、それが何かは分からないが、今の彼女は火薬の塊だということだけは分かる。

 何かきっかけさえあれば、その行動は予測不能に陥るだろう。



 答えるその内容、いや答え方すら間違えては許されない気がした。



「何であなたがそんなことを知る必要があるんですか?」


 一旦緩衝材を挟む。

 ミーニャもフィアルの豹変ぶりには気が付いているはずだ。しかしなぜこんなことになっているのかは彼女も分かるまい。



「いいから、答えてみなさいよ」



 ――俺とミーニャの関係……?今まで一度もそんなこと考えたことなかった。


 正直俺は『仲間』というのが至極妥当だと思う。

 でもこの関係は何が繋いでいるんだ?当たり前だが金の関係ではない。


 俺にとっては、もしミーニャが一緒に居てくれなかったら、この世界で何もできないで野たれ死んでいただろう。そしてこれからも何もできない可能性が極めて高い。

 だから、俺にとってミーニャと一緒に居ることは利がある。


 でもミーニャには何の得があって、俺と行動を共にしてくれているのか?

 むしろミーニャには迷惑の方が多く掛けている気が…、いや間違いなく掛けている。

 明らかに一緒に居て、損しかない者と行動を共にする意味とは?



 考えるのは後だ、一先ず彼女の問いに正しく答えねばならない。

 この際、俺が答えても何も問題ないだろう。




「――フィアル、俺たちは変な関係じゃなくて、ただ行動を共にする旅の仲――」

「『()()』です…」





 ――んん?今彼女はなんて言った?



 ミーニャは一瞬の逡巡はあったものの、次の瞬間その躊躇いを捨て去りフィアルに告げた。



「私とトピア様の関係は!片時も離れることのなく、一生を添い遂げる『(つが)い』です!!」



 ――ミーニャは今まで類を見ない、最高潮に声を張り上げて『番い』だと、そう宣言した。


 呆気にとられる俺を尻目に、ミーニャのその目はひたむきに一途だ。




 ――そしてその場はいよいよ修羅場と化した。


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