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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
37/88

35,魔術具と計画

 


「――前に彼女が私たちに使って来たアレです!!」


 ミーニャは剣を指差し高らかに言い放った。なぜか随分と真剣な顔で、

 それは広場でフィアルが持っていた細い剣、それは刺突用と思われる“レイピア”のような見た目をしている。

 柄は全て金属で出来ている。その上に幾つかの金属線を編み込んだような装飾がある、鍔のような役割を担っているようだ。


 そう言った瞬間、フィアルはその細い剣を手に持つや否や慌てて自分の後ろに隠した。



「――これは!私の大切な物なの!!絶対他人に触らしたりしないわ!!」


 その顔に剣幕の表情を浮かべている。よほど彼女にとってその剣は大切な物なんだろう。



「ちょっとくらい、いいじゃないですかー、大して減るものでもないですしー」


「ぜったいにいや!!減るものがあるんだから!!」


 ミーニャは目をギラギラと光らせながら、両手を掲げてフィアルに詰め寄っている。


「それって結局何なの?」


 俺はそのやり取りを尻目に、二人に聞いた。

 するとフィアルに迫っていたミーニャがこちらに向いたかと思うと直立し、人差し指をピンと指を立てると――


「私がさっき言っていた、もう一つのトピア様の期待に応えられるかもしれないものです!」


 ミーニャはなぜか勝ち誇ったような顔をしていた。彼女はそれについての説明を始める。


「あれは魔術具と呼ばれ、これを使えば通常ではありえない、また我々には起こし得ない現象を起こすことができるようになります!」


 ――ということは?


「彼女が広場で私たちに繰り出してきたあの見えない斬撃、それの正体がこの剣によるものなんです!!」


 ミーニャは声を張り上げ、衝撃の事実を突き付けるかのように、そして犯人を迷推理で突き止めたかのように、フィアルの後ろにある剣を指差す。


 実際それは衝撃の事実だった。

 俺の“魔法使いたい欲”を満たせるかもしれないそれは、俺にとっての救世主のようだった。



「――俺も使ってみたい!!」


 自分でも引くほど無邪気な喋りだと思った。

 しかし、ミーニャは俺の好奇心を肯定する。


「そうでしょう!そうでしょう!!ほらトピア様もこう言っていますよ!一回くらい使わさしてくださいよー!!」


「何度も言わせないで!!絶対に貸さない!!」


 それでも頑なに、フィアルは剣を後ろに隠して渡さない姿勢だ。



「――フィアル!お願い!!一回でいいから!!」


 俺はフィアルに擦り寄って、真剣にお願いした。しかし――


「本当にごめんなさいアル、でもこれはどうしても譲れないの!」


「俺のお願いでも!?」


「あなたのお願いだからこそなの!」


 “俺のお願いでも?”だなんて随分と高慢な態度だが、利用してみない手はなかった。

 あなただからこそ、とはどういう意味だろう?




 ――結局フィアルはその剣を守り切った。

 俺とミーニャは何回か隙を見て奪おうかとも思ったが、彼女のその強硬さを前にため息をつく。


「はぁー、そんなに言うなら渡せない理由を教えてくれはしませんか?」


 諦めたようにミーニャはフィアルに理由を尋ねる。



「さっきも言ってたでしょ、これは力を使えばそれだけ消耗するの!遊び半分で使われては困るの!」


 まあ、そういう事なら理解できなくもない。


「でも、その力の消耗というのも、ごく微量だと聞きましたよ?なぜそんなにケチケチしてるんですか?」


「とにかくダメなものはダメなの!!もうこの話はお終い!!早く話を本筋に戻して!!」




 ところで我々は何の話をしてたんだっけか?……そうだ、たしか亜人についてだったな。


「あーそういえばそうでした!何でこんなに話が逸れてしまったのでしょう?」


 それはたぶん、俺が余計なことを聞いたからだろう。

 魔術具とやらについてもう少し聞きたかったのだが……

 ミーニャは彼女の思惑通りに話を戻す。



「えーと、どこまで話したんでしたっけ?……そうそう、亜人の血の話でしたね。詰まる所、あなたと私は本能的に仲良く、そして協力し合える仲なんですよ」


 ミーニャはフィアルの方を向き、その顔に笑みを浮かべて彼女にそう告げた。

 フィアルは腕を組み小難しい顔をしたまま返す。


「……私は自分自身では人間のつもりよ、亜人の血もかなり薄いし、見た目がちょっと変わってるだけで――」


「――もちろんその力も万能ではありません。互いにどうしても譲れないものはありますからね。…でも私とは人間達と会話しても感じなかった感覚が、私からは感じませんでしたか?」


 フィアルはミーニャのその問いに無言で返した。暫しの静寂が流れるが、それを破ったのもフィアルの方だった。



「結局あなたは何が言いたいの?」


 しびれを切らすかのようにフィアルが言うと、それを待っていたかのようにミーニャが静かに返す。


「私があなたのその願いを叶えるのに、協力してあげてもいいということですよ。トピア様と旧知の仲でもあるみたいですしね」


 腰に手を当て、優越感を抱きながら声を大にしてそう言った。

 それを聞くもフィアルは不可解な面持ちでミーニャを見上げている。


「私の願いはもう叶っている。これ以上望むものは……」


「――あの女をこの世から消したいんじゃないですか?」


 それを聞くや否や、フィアルの顔は今まで見たことが無いくらいに、いやらしい笑みを浮かべる。



「あなたも性格が酷いわね…ふふ」


「あなたほどではないですがね…ふふふ……」



 ――薄暗い部屋で女性二人の気持ち悪い笑いが空しく響く。


「え?ちょっと待って!?それってもしかしてメイを勝手に殺そうとしてない?」


 流石に悪い冗談だと思った。二人が俺の目の前で人を殺そうとか言いだすのは、さすがに信じたくなかった。

 しかし俺のその予想は楽観と言わざるを得なかった。


「ああ、トピア様は何もしてなくていいですよ、私達二人だけでやりますので」


「そうね、アルはそこに居るだけでいいわ」


 二人は如何にも相性がいい、長年にわたっての相棒のように息ぴったりだった。

 これも亜人の血、故なのだろうか…

 その二人で三色の瞳からは、殺意が滲み出ている。質の悪い冗談ではないようだ。

 

 この世界の人間の平均的な強さなどは、まだ分かっていない。

 しかし、その躊躇もない様子から彼女らなら、その程度の事難なくこなしてしまえる気がした。



 自分でも自身は察しの良いつもりではある。あえて何も言わなかったが、無論今までの話もある程度は理解している。がしかしそれは、容認することは断固としてできまい。


「何も命まで取る必要ないじゃないか!?何も言わず俺を連れたのだって、きっと何か理由があったんだよ!!」


 俺は必死に抗弁する。しかし、彼女らは意見を変える気はないようだ。


「もう私は、ずっとあの女の態度が我慢できなかったの、あなたを連れ去ったとかはもう関係ない。遅かれ早かれこうなっていたことは確実なの」


 フィアルは冷淡に俺に告げる。しかし俺はそれでも諦めない。

 説得の方向をミーニャに向ける。


「ミーニャも何でフィアルに協力しようとするの!?ミーニャには何も関係ないでしょ!?」


「いいえ、トピア様、過去の憂いは早いうちに取り払うべきです。“これはあなたの為でもあるんですよ”」



 ――俺の為だって?


 その言葉は俺を震撼させた。

 前世で俺に事あるごとにクソ上司が言って来た、所詮は戯言だ。

 それは、俺を怒鳴りつけるための言い訳だったじゃないか。


 その言葉は俺に恩を押し付けているような感覚を覚えた。

 そしてミーニャからそんな言葉は聞きたくなかった。

 だから強めに言った。これはきっと俺の悪癖だ、大抵碌な目に遭わない。しかしそれでもつい言ってしまう。



「――俺はそんなこと頼んでない!!俺はただこの世界で……」


 その先は……なぜか言葉が続かなかった。

 俺は結局この世界で何がしたいんだろう……

 過去を知るという目的は概ね達せられた。ならば、何をすれば……




 ――思考が止まっていく感覚を覚えながらも俺は必死に考え続けた。


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