34,世界の事
「――亜人の血です!これは本能と言ってもいいでしょう!」
ミーニャはそう語りだした。
「我々亜人、いわば人間以外の種族には、例え異なる種族間でも、温厚篤実になりやすい性質があるんです!!」
「人間にはその性質は無いの?」
俺は気になって聞いてみた。
「ありません!!亜人相手ならシンパシーのようなものを感じるんですが、人間と会話しても何も感じません!!」
ミーニャはきっぱりと言い切った。
「この性質のおかげで我々亜人は、種族間の対立も無く平和で居られるんです。亜人自体が全体的に温和な性格ということもありますが……」
彼女は説明を続ける。
「人間は知恵はありますが、お互いに協力しようとしません。したとしても、互いに疑心暗鬼で長くは持ちません」
とても興味深い話だと俺は思った。
亜人にあって人間だけがその性質が無いなんてことがありえるのか?
人間だけが群れないように意図的にそうされたみたいだ。それこそ呪いではないか。
「そういえばエルフとかはいないの?」
「えるふ?…って何ですか?」
ふと気になってファンタジー世界のお決まりの事を聞いてみた。
「耳が横に長くて、森の中で狩りとかやって住んでる……」
「……私は知りませんね。故郷には様々な亜人が居るんですが、見たことも聞いたこともないですねぇ。あなたは何か知ってますか?」
ミーニャはフィアルに向き直って聞いた。
「知らない、そもそもずっとアルからしかものを教わらなかった、だから知らない。そもそもその言葉はどこで聞いたの?」
少なくともミーニャもフィアルも知らないようだ。
フィアルのその質問は墓穴を掘られた気がした。それは前世の知識だったからだ。
あまり前世の事は、今は話すべきではないと思っている。適当にそれらしきことを――
「――やしきにあったほんでよんだ」
ぎりぎりカタコトにならない程度の言語で喋った。
「そうなんですかー」
何とか凌げそうだ。
ミーニャが続ける。
「私も読んでたんですけどあそこにあった本、ジャンルがひどく偏っていましたね」
やっぱりそうか、さすがに物語しかないのはおかしかったのか。
もしかしたら、この世界の本というのは物語しかないのかな、とかも考えていたんだが……
「昔話みたいな冒険やさっぱりした恋愛ものばっかりで……設定もほとんどおとぎ話みたいで子供騙しもいいとこですよ!」
――えっ?
俺はあの本たちでこの世界の事をある程度知ったんだが、もしかして間違った知識だったかな??
「それじゃあこの世界に魔石とか呪術とかは無いの!?」
つい気になって聞いてしまった。
「――まさか……トピア様あんなの信じてたんですか………?」
「えっ…じゃあ一部の種族だけが使える特殊な術みたいな…」
「――そんなのあるわけないじゃない…」
フィアルに目を向けるが帰ってくるのは同じ答え……
ダブルで否定されてしまった……
だってあれしか情報が無いんだもの異世界だし、こんなものかなって思っちゃっても仕方ないじゃないか………
――俺は完全に意気消沈していた。
折角の異世界に来て前世に無い物があって、ファンタジーな世界が見れると思ってたのに…
期待外れだ、と言いたいところだが勝手に期待したこちらが悪い。
「何でそんな燃え尽きた顔してるんですか?」
顔に思いっきり出ていたようだ。
ミーニャが心配したように聞いてきた。
「いや、魔石とか術法とかあるのかなぁ、と期待してたからちょっとだけがっかりしただけ…」
「うーん、もしかしたら似たようなものでトピア様の期待に応えられるものがあるかもしれません。例えば魔術具とか……魔法とか……」
「――えっ……………アルノ?………………マホウ………」
俺はベットからガバッと立ち上がり、ミーニャに高速で駆け寄った。
そのまま両肩を鷲掴みにし前後に振った。
「魔法あるの!?俺も使ってみたい!!」
自分でも驚くほどの身のこなしだった。
実は子供みたいで恥ずかしい話だが、自分で魔法というものに憧れていたりしたのだ。
物語などに影響され、自分で使うことを夢に見ていたりもした。
屋敷で本を読んで、魔法のようなものが無いと思った時、心底がっかりしたのは記憶に新しい。
「わっわわわ!?トピア様!!顔が近いですよよ!!」
ミーニャは顔がどんどん赤く染まっていっている。その尻尾は高速で回転を初め円弧を描いている。
何をいまさら恥ずかしがっているのだろう。
フィアルが傍らで目を細めたが、俺の視界には入らない。
「ミーニャお願い!教えて!魔法の使い方を!!」
周囲から見れば駄々を捏ねる子供の様に見えるだろうが、俺はそんなことを顧みずに必死に頼んだ。
しかし、ミーニャの視線は段々横にずれて行き……
「――あのー……、トピア様、大変言いにくい事なんですけど……」
――俺はそのあとに続くであろう言葉を想像して、破顔した、もちろん悪い意味で。
――人間を含め、多くの種族は魔法を使うようには出来ていないらしい。
魔法を使うには、そのための特殊な体の器官が必要らしく、それは亜人でも一部の種族でしか持っていないらしい。
…嫌に現実的だ。もう仕組みとかどうでもいいから、ただ使えるだけでいいのに……
せめてここだけはご都合主義であってほしかった。意志が弱いと罵ってくれても構わない。
「――というわけなんで、誰でも使えるわけではありませんし、ましてや一般の者が使い方を知っているわけでもないので……そのー……ご要望に応えられず、申し訳ありません……」
ミーニャが悪いわけでもないのに、恭しく謝罪してきた。
俺はベットに深く腰掛け、落胆しながらも声を返す。
「ミーニャは何も悪くないよ…勝手に舞い上がった俺が悪い…」
その様子を見たミーニャは、俺を元気づけでもするかのように再び声を張って言った。
「でもでも!!器官を持っていない者でも、魔法みたいなのが使えるようになる道具が存在するんですよ!!」
「――本当に?」
意気消沈していた俺に一筋の光が!?
しかし、正直なところ俺は半信半疑だった。もうまた、がっかりした気持ちになるのはごめんだった。
「――トピア様もその身に受けたことがあるはずです!!その力を!!」
「この身に受けた!?まさか――」
「――そう!!そこの彼女が持っているあの武器です!!!」
ミーニャはフィアルの方向を向き、置かれていた彼女の剣を指で差した。
――…ごめんミーニャ、別の事想像してた……




