33,過去
――いよいよ俺の知らない過去が語られる
「――私は幼い頃に両親に捨てられた孤児だったの、物心ついたときには、町の貧民街で毎日食うものにありつけるかどうかだけ考えて生きていた…」
彼女は宙を見つめながら語りだした。それはいきなり重い内容だった。彼女の今の身なりを見れば孤児だったとは誰も思わないだろう。
貧民街、カロスの町でもあったな遠目から見ただけだが、所謂布で壁や天井を覆った小屋みたいなものがひしめき合っていた。
「周りから見た目でいじめられもした。何とか生きて来れてはいたんだけど、食べ物が何日も手に入らなくて、死にかけていた時、あなたと出会ったの!食べ物を恵んでくれたの!
その表情は恍惚に染まり、どこか狂信的なものすら感じる。
「それから毎日食料を運んでくれて、周りからの理不尽な暴力からも護ってくれて、言葉も教えてくれて、この髪も両目も綺麗って言ってくれたの、私にとってはあなたは神みたいな存在、だから私は今、一緒になれて幸せなの!ちなみにそれ以前のあなたの事は知らないわ」
一緒になれて?今までずっと一緒に居たんじゃないのか?今一緒に居るから幸せなのか?
……なんだかよく分からない………
食料を運んだのだって、孤児で空腹だった彼女を見かねてだろうが、そもそも何でそんな場所に居たのだろうか?フィアルの話を聞くと俺は孤児だったわけではなさそうだ。
「それからあなたに誘われて、貧民街から脱出して、一緒に仕事をしてお金を稼いだの、人から依頼を貰って、家の掃除をしたり、探し物をしたりしてね。とある害生物の駆除とか、危険な仕事もたくさんあった。そしてその時にはもう一緒に寝泊まりしていたわ」
おれは語り部の言葉をただ黙って聞いていた。
「しばらくはずっと二人で、毎日そんな事の繰り返し、苦労もあったけど食べ物も食べられて自由で楽しかった……」
フィアルは今まで終始笑顔だった。しかし、次の瞬間その表情はすげないものになった。
「でも二年前くらい前、あなたがあの金髪女をどこからか連れてきたの、貴族の出身で家出してきたとか言ってたけど、あなたにデレデレして卑しい女、日々の営みはその女が増えただけでそこまで変わらなかったけど、いっつもあなたの傍に居て鬱陶しかった…!」
金髪女とはメイの事だろう。その様子だと初対面から印象が悪かったようだ。
フィアルは自身の感情を隠すでもなく、怒りを露わにしている。
「そんな日が最近まで続いてたんだけど、何日か前に突然あなたが居なくなったの……
三日三晩探し続けてもあなたの痕跡は何も残ってなかった!!
アルが居なくなったってのにあの女が何の前触れもなく、しかも心配している様子もなくいきなり家に戻るとか言いだしたから、あいつがあなたを攫ったと思って色々探っていたの!」
「それで……、あの町に居たと?」
「そう、この町で頻繁にリングハルト家の馬車が出入りしているって聞いたから、だから潜伏していたら、あの町の広場の騒ぎを見かけて、あなたにそっくりな人を見かけたから、つい興奮して焦っちゃって…あんなことに……」
フィアルはやや落ち着きなく、急ぎ足にそう続けた。文章的に聞き取りにくい。
「ミーニャとはあなたが寝ているうちに仲良くなったの、亜人の住んでいる地域とか、人間の世界の苦労話とか延々と聞かされたけど、共感できるものが多くて、面白かったわ!
――あれ?なんでミーニャとは初対面ですぐ仲良くなれたのかしら?」
「――それは、私がその理由をお答えしましょう!!」
何処からともかく声が響く。声と同時にバンッ!と扉を開けてミーニャが入ってきた。
そして――
――勢いよく開かれた扉は留め具が壊れ、支点を失ったそれが倒れてきた。
「あれっ!!壊れちゃいました、どどうしましょう!?とりあえずドア枠にはめておきますね!?」
ミーニャは慌てて倒れた扉を起こすと、ドアがあった場所にはめるというか、立て掛けた。
「――いやーお騒がせしました!こういう登場に憧れて、ドアの前で二人の会話を聴いて待機していたんです!」
「盗み聞きはよくないんじゃないの?」
不満そうな顔でフィアルが聞いた。
「こんな壁や天井に隙間だらけの部屋で会話なんかしていたら、声が漏れて当然じゃないですか!?私は悪くありません!」
ミーニャは自分で、会話を聞いて待機していたと言っていたが、開き直った。
「――それでその理由って?」
会話が進まないので俺から切り出した。
「ふふふ、それはズバリ、亜人の血です!!」
――こちらに向き返りそう言い放った。




