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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
34/88

32,薬

 


 ――何はともあれ、これはチャンスだ。


 俺は先程の彼女のセリフについて言及した。



「前の俺はお酒が好きだったの?」


「毎晩2,3杯飲むくらいにはね、私もね、一緒に飲んで楽しんでいたの」


 懐かしむように感慨にふけりながらフィアルはそう言った。


「今でこそ、酒は大好きになったけど、私も最初は今のあなたみたいに、お酒は苦手で何度も吐いた、でもアルと一緒に居たくて頑張って無理やり慣れたの…」


 俺を見つめながら彼女は続ける。


「一緒に飲めないのは少し寂しいけど……でもそんなことで、あなたから離れたりはしない。絶対に」



 その発言に俺はなんとも言えない気持ちになった。

 記憶にはないが、彼女は俺のために酒に無理やり慣れたという、そして今俺のために酒を断つと言った。


 俺には自分をそんなに価値のある人間だと思わない。

 なぜ自分の自由を縛ってまで、嫌な思いをしてまで俺を優先してくれるのか?俺にはその動機が理解できなかった。


 何か裏があるのでは、と疑ってしまうくらいに……



 今は一先ず、俺は彼女との過去を知ることに時間を費やすことにした。


「俺たちは昔何をやっていたの?」



 俺は、そもそも記憶以前の俺がどんなだったのか知らない。

 そもそもこの体は俺のものではないし、以前に今と同じ前世の記憶を、持っていたのかすら定かではない。

 そして、自分自身で記憶を消した理由も……


 だから俺は聞かなきゃいけない、過去の事を、


 そして何があったのかを――


「その前に今の状況を説明させて――」



 そういえば色々あって忘れていた。

 自分はどうやら順応しすぎるようで、どうにも周りの環境が劇的に変わっても受け入れてしまう傾向がある。

 トピアという名前もアルという名前もスッと受け入れられている。前世の名前が思い出せないからかもしれないが…


 彼女は俺を見つめながら続けた。


「アルが気を失った後、すぐ医者に連れて行くべきだったんだけど、出血がひどかったからその場で私が持っていた薬を使ったの」


 ミーニャが言っていたことと一致する。


「出血が止まった後、町にはもう居られないと思ったから、その日のうちに脱出してこの森のボロ屋に一先ず潜伏することにしたの」


 それが一昨日の事よ、と続けた。大体俺の予想通りだった。


「ってことはあの大怪我から、二日足らずでこんなに回復したの!?」


「そういうことね、あの薬は規格外よ。世界の常識を書き換えられるほどのね、瀕死の外傷でもこの薬を塗ったり飲んだりすれば、大体治るもの」



 驚愕だった。そんな物、前世でも聞いたことが無い。

 もしかしたらこの世界は医療の分野で驚異的な発展を遂げているのかもしれない。

 広場で群衆から受けた体の傷や痛みも消えている。

 でも規格外とフィアルは言った。もしかしたら高価だったり貴重だったりするのかもしれない。


「その薬ってスティアで言うとどのくらいの値段なの……?」


 俺は恐る恐る聞いた。


「こんな物、世の中に売っているわけないじゃない!値段なんか付けられないわ!これは……そう、ある人に一つだけ貰ったの」


 ……どうやら医療は発達してないようだ。


「――そんな貴重な物、俺に使っちゃって良かったの!?」


「あなた以外に使う人なんて私にはいない!」


 あれが慌てたように聞くと、喚くようにそう言った。思わず体が反応してしまう。



「――あ、いきなり驚かしてごめんなさい。……私、こんな見た目だし、あなた以外と交友なんてあるわけないから、その、そういうことなの……」


 場が静まり返った。

 フィアルは落ち込んだかと思うと、また顔を上げて話し始めた。




「そういえば、前に何をしてた、だっけ……?そうね…どこから話せばいいか……アル?あなたはどこまで思い出してくれたの?」


 いきなりまずい質問が来た。彼女は上目遣いで、その目はキラキラしている。

 適当なことは言えまい。さっきの彼女の勘違いをそのままにうまくごまかせねば…


「フィアルっていう名前と君と二人きりで、一緒に居たって事くらいかな」


 俺は結局、それっぽいことで誤魔化した。自然と冷や汗をかく。

 嘘は重ねれば重ねただけ、後で自分にツケが返ってくるだけなのに、

 嘘を真実にしたいなら、世界を全て嘘で塗り固めなければならない。


 そんなこと大掛かりな事、俺にはできるはずもなく、ただただ罪を重ねるだけ。

 だけど、いったいどうすればよかったんだ。少なくとも今の俺は考えつかない。



 フィアルは俺の心境も顧みずに言った。その目は邪推というものを知らない純粋なもののようだ。


「っていうことは、最近のことは覚えてないのね?あの女のことも?」


 彼女は左手を顎に当て、考え込むようにそう言う。


「あの女って誰の事?」


 彼女はしばらく考え込むように、視線を下に向けた。

 何かを逡巡しながら、やがて口が動いた。


「覚えてないなら、そのままでいい――」


 俺のその問いは無機質に、そしてごく自然にフィアルに流された。思えばフィアルに誤魔化されたのは、これが初めてかもしれない。でも俺には、心当たりがあった。



「――もしかして、メイのこと?」


 ――その瞬間、あたりの空気が一瞬止まったような覚えがあった。

 気づくとフィアルは訝し気な眼差しでこちらを見ている……


「――何であの女の事は覚えているのよ…しかもそんな親し気に…」


 大層つまらなそうに言った。


「ミーニャから聞いてないの?」


 するとフィアルは顔を上げ、眉を下げたまま考え込んだ……

 目を瞑ったり、顎に手を当てたり、頭を抱えたり……やがて――


「そういえば彼女はあなたとの関係について、何も言ってなかったわね」


 てっきり、広場でアルと一緒に居たし、守ろうとしていたから彼女がメイからあなたを助けたと思っていたわ、と彼女はそう続けた。

 いや、それはおかしいだろう…ミーニャは俺たちと面識があったわけじゃない。

 何で彼女がわざわざ俺を助けたのだと思ったのだろう。



 …何かお互いの認識に齟齬があるようだ。


 ――俺はこの世界で初めて目覚めて、そして今に至るまでを話した。勿論大雑把にだが、

 それをフィアルはただ黙って、そして俯いたまま聞いていた。

 そして話し終えると真っ先に言った。



「――やっぱりあいつがアルを攫ったんだ!絶対にぶち殺してやる!!」


 フィアルは椅子から立ち上がり、すぐさま部屋から出て行こうとした。

 俺は慌ててベットの淵から立ち上がり彼女を制した。


「待って!?何が何だかさっぱりだからもっと話を聞かせてほしいな!」


 フィアルが居なくなってしまったら、それこそ何も過去が分からなくなってしまう。

 彼女が何を言って、なぜ怒っているのか理解できなかったが……



「――それもそうね、全部最初から話してアルに思い出してもらわないと……」


 落ち着いてくれたようで、椅子に戻ってくれた。

 俺の元の場所に戻る。




 ――そしてフィアルは語り始めた。


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