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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
30/88

28,夜明けと共の目覚め

 


 ――気が付くと見知らぬ天井だった。


 木でできたぼろぼろで見窄らしい天井、荒ら家へ発展途中のようだ。



 段々意識がはっきりしてくる。


 ――そうだ思い出した。俺は横腹をぱっくりと斬られたんだった。


 ……とすると、ここはいよいよ天国か?

 にしては思っていたより、荒れている気がする。


 まあ、異世界も俺が思っていたものよりは、ちょっと違ったから実際はこんなものだろう。

 傍にかわいらしい少女も付いて、驚いた表情だがこっちの顔を覗き込んでいる。きっと悪いことはない。



「――アルっ!!目覚めてくれてよかった!やっぱり私たちは切っても切り離せない運命なんだわ!!」


 いきなり、寝ている体勢で上から斜めに倒れ込んできて、そのまま抱き着かれる。

 体重を乗せられたせいか、右脇腹に痛みが走った。


「――ああ!!ちょっと何してんですかあなた!?私が先にしたかった……じゃなくて傷口が開くので速く、トピア様から、離れて、ください!」


 そういって、抱き付いてきた少女が俺から引き離されている。

 その声は聞き覚えがあった。この世界に来てからよく聞いていた声だった。


「ミーニャ?」


「トピア様!目覚められて何よりです!すぐに朝食を持ってきますね」


 俺が問いかけるとミーニャが嬉しそうに返事を返してきた。

 そして、足早に部屋から出て行く。ミーニャが出た扉の向こうの景色を見るとまだ外は暗かった。


 どうやらまだ俺は生きているらしい。ミーニャも生きている。

 これは考えられる中で最善のシナリオではないのだろうか?さすがに二人とも死んで、ここが実は天国とは考えたくもない。


 ――となると、この俺に抱き着いて生きた少女は……



 俺が少女に目を向けると、少女も首を傾げながらこっちを見返してくる。

 髪を後ろに一纏めにした所謂ポニーテール。それよりも左右で目の色が違うことが何より気になった。

 空色の髪、今はやや暗い色になっているそれは、昼間みた色と違えど見覚えがあった。


 俺はその少女の正体を理解して、ベットの端まで引いて見を縮こませる。

 俺のその様子を見た彼女は、悲しそうな顔をするもこちらに身を寄せてきた。


「怖がらないで…あなたの事はミーニャから聞いたの、もうあなた達を傷つけたりしない。だから、ね」


 そんなに私から離れるようなことしないで……と懇願してきた。


 正直、言ってそんなこと言われても、目の前で人が二人この少女の手によって殺害されている。

 平和なで殺人なんて周りで滅多にない日本に居た俺が、目の前で惨殺された人を見て恐怖するなという方が難しい。

 人を殺しておいて、そんな何食わぬ顔で居られる少女が俺はとにかく恐ろしく感じた。



「――私はあなたが恐ろしいです…だからできるなら一緒に居たくないです……」


 俺は正直に自分の心の内を語った。事実俺も、腹を斬られ殺されかけている。

 俺のことを知っているようだが、恐怖が好奇心を上回っている。


「……そう…」


 そう言うと身を引いて、部屋の遠くの椅子に糸が切れたように座り込んだ。

 空色の少女の表情は悲哀に歪み、俯いたまま何も言葉を発しなくなった。


 その様子があまりにも不憫にも思えるが、素性が知れない以上何も言えない。



 しばらくするとミーニャがご機嫌な様子で、朝食を持ってきた。

 だがしかし、俺と少女の様子から何か察すると、急に静かになった

 ミーニャの持ってきた三人分の食事は、俺のところに肉がかなり多く入っていた。彼女も俺の体に気を使ってくれているらしい。


 ミーニャは雰囲気を感じ取りながらも、体は痛みませんか?とか傷口はまだ閉じてないので気をつけてくださいねとか、話を振ってくれる。正直ありがたかった。

 食事を取っていると部屋の隅に座っている空色の少女が、チラチラこっちの様子を窺ってくる。

 俺はその視線をないものかのように振舞った。




 ――朝食を取り終え食器を片付けると、ミーニャが切り出した。


「さてトピア様、説明が後回しになってしまってすみません。今の状況を――」


「――それは私が説明するわ。」


 空色の少女が立ち上がった。その声色はどこまでも冷静でクールな印象を受けた。

 彼女の服装はミーニャと同じような、なりをしている。


「アルが気を失った後、そこに居る彼女と協力してこのボロ屋に運んだの。あなたが死に瀕しているのに、争っているほど私達は愚かじゃないわ――」


「――そうなんですよ!私たちの事情を説明したら、なんとか納得してくれました。それに治療薬までくれて……あんな大怪我だったのに、こんなに早く意識が回復するなんて、薬すごすぎます!」


 ミーニャが興奮しながら早口で補足説明を付け足す。

 空色の少女は気まずそうにはにかんだ。

 ミーニャは少女に殺されかけたはずなのに、どうしてこんなにその相手と打ち解けているのだろうと疑問に思う。


「本当は、彼女だけを斬ろうと調整したはずだったんだけど、まさかあなたが前に出てきて来るなんて予想できなくて……止めようと思ったんだけどあまりに咄嗟過ぎて間に合わなかったの、その、本当にごめんなさい。」


 その謝罪の様子からは、前に感じた恐怖は無かった。

 この少女も俺を助けてくれたようなので、感謝の気持ちは伝えるべきだろう。


「治療薬を頂いた事には感謝します。あなたの助けが無かったら、僕は今死んでいることでしょう」


「いえ、その……私がアルに対して、できることはこのくらいですので……それにその薬は――」


 ――あの女が作ったものだし……


 彼女は謎に変な戸惑いはあるものの、丁寧な口調で返してきてくれた。


「ねえ、アル?私に対してはもっと砕けた口調でいいのよ?食事の時にミーニャに対して、していたみたいに、ね」


 俺は彼女のその態度にほんの少し、ほんの少しだけだが、腹が立った。

 だから少し語調を強めて言ってしまった。


「……先程から気になっていたのですが、“アル”というのは私の名前ですか?」


「そう、そうよ!私達前は片時も離れず、ずっと一緒に居たのよ、だらね――」


「――私はあなたの名前を知りません。あなたの名前を教えていただけませんか?」



 俺がそう言った途端、彼女の体や表情はぴたりと止まった。そして――





 ――その表情のまま、彼女は左右で色の違う瞳から、大粒の涙を流していたのだった。




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