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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
28/88

 閑話 吐露

 


 ――ミーニャはこの大陸最南端にある森林地域の出身だった。


 彼女は幼い頃から父と共に狩りで体を鍛えられた。そしてある日、父親と喧嘩をして勢いに任せて家出した過去を持つ。



 人間の町では、自身が獣人であることにより人間達からの差別や偏見、また文化の違いに苦しんだ。

 故郷では文字を使う風習が無いので、独学で文字を覚えながら、


 各町を転々としながら大陸を数年かけて北上し、ある町に着いた時彼女は金髪の少女と出会う。


 少女は足の付かない人手を探しているようでミーニャは条件にぴったりだった。しかも破格の報酬だったので、ミーニャは自分を少女に売り込んだ。

 少女も亜人を良く思っていたわけではないが、識字も体術の心得もあったため、背に腹は代えられぬと彼女を雇う。



 ミーニャに与えられた仕事は屋敷のメイドに扮して、とある人物の身の回りのお世話と万が一の時の護衛だった。

 大切な客人なので、粗相は許されないと少女には言われた。


 彼女がその護衛対象を見た時、弱々しく自信のない人間だという感想しかなかった。

 そして自分の姿に対しての、偏見や差別などの意識を全く感じない振る舞い。

 至らない点が多々あったにも拘らず、特に指摘することも無く。

 今まで会ってきた利己的な人間とは違う、その風貌と相まってどこか惹かれる自分が居た


 ちょっとした悪戯で、噓泣きをしたり、ベットに潜り込んだり、気を引こうとした。

 しかしどれも彼は自分に非があったと真摯に謝罪する。こんなにやさしく態度を向けられるのは生まれて初めてだった。

 そしてそんな人間に対して、生まれて初めて己の身に宿した感情に彼女はひどく戸惑った。



 思い切って愛の誓いを口にしてしまった。それは未必の故意だった。

 それも気を引こうとする意図でほとんど冗談のつもりで言ったのだが、それも彼は受け入れてくれた。


 彼女は初めて心の底からそれを欲し、そして手に入れられたのだった。その幸福たるや、言葉では言い尽くされることは無い。

 自分にもっと信頼を寄せてはくれまいか。依存してはくれまいか。


 彼はあの金髪の少女にとって、かけがえのない大切な人物だとは理解していた。

 しかし、それでもこの気持ちは止められるものではなかった。



 屋敷での文字の勉強、町に至るまでの道中を通じてどんどん彼に惹かれていく。

 彼は自分を人として見てくれる。信頼を置いてくれた。そして、忘れられないあの感触。

 自分には彼しかいない、それなら自分は彼を護り彼に全てを捧げ、尽くすのが道理だろう。そう全てを――



 彼が熱を出したときは、どうすることもできなくて狼狽えた。

 護るなど抜かしておいてこれでは面目が無い。性質(たち)である抜けたこの性格は、そう簡単に直らないらしい。


 彼が自分を撫でてくれて、その他もろもろも尽くされた時、ミーニャの幸福は至高に達した。

 それが油断となり、眠りこけてしまった。起きると彼がいない。

 そして、遠くから聞こえる騒ぎ、いやな予感がした。今までのトラブルがそうであったように、杞憂であってくれ。彼女は広場に急行する。


 しかしその願いは反故となり、広場の一角で腰を抜かした彼が居た。

 そしてその目の前には謎の人影、彼女の持てる力全てをもって、ドロップキックをかました。

 もう彼を護るために他の人間の命など、なりふり構っている余裕は彼女にはなかった。



 何に変えても彼を守らなくてはならない。それが自分の生きる意味だから――




「――ご無事ですか!?トピア様!?」



 ――間に合ったことに彼女は心底安堵の念を抱くのだった。


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