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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
23/88

22,人間と髪色

 


 ――辺りがどんどん暗くなる中、道の近くにあった林で俺たちは野宿の準備を進めていた。


 いや、訂正する。俺は倒木を椅子の代わりにして、座っているだけだ。

 今目の前にある焚火もその周りにある肉も、全部ミーニャが準備したものだ。



 ――ミーニャは俺を背中から降ろすと、ここでちょっと待っていてくださいね。と言って、何処かへ消えたかと思ったら、木の枝と干乾びた植物を持ってきた。


 何処に持っていたのか火打石をと持っていたナイフを打ち付け、干乾びた植物に火を灯す。

 それを火種にして、木の枝を薪に、あっという間に焚火ができる。


 そのあとまたすぐどこかに姿を暗ましたかと思ったら、今度は笑顔で丸っこい四足獣をぶら下げて戻ってくる。

 そして、俺の目の前で解体し始めた。

 焚火づくりもそうだが、解体も随分と慣れた手つきで、その様子を見て俺は感心していた。


 そして細かく一口大に薄く切った肉を細長い木の枝に刺し、焚火を利用して焼いている。

 それを全部一つのナイフだけでこなしている。あのナイフは業物な気がする。




「――さあ、お肉が焼けましたよ!どうぞ!」


 ミーニャは細枝の先に付いた肉をよく冷ましてから、俺の口に押し付けて食べさせようとしてきた。


「ミーニャ!?それくらいは自分でできるよ!」


 それをそのまま口で受け取ると、恋人同士で互いに食べさせる構図ではないか。

 いや、これは親が子供に食べさせる構図か…


「好き嫌いはダメですよ!はい口を開けて下さい!」


 半ば強制的に食べさせられた。よく焼けていて筋張っている様子もない。

 味の方は……まあ、正直に言うと微妙だった。それもそのはず、この場に味付けのための調味料など無いのだから。


「――どうですか?お口に合いますか?」


 ミーニャが不安な表情でこちらを見てくる。

 そんな潤む一歩手前の瞳で見つめられたら、微妙だ、なんて言えなかった。


「おいしいよ」


 一言だけ、それだけ言うとミーニャは子供のように、はしゃいでに喜んでいる。

 嘘でも、おいしいと言ってよかったなと思った。

 そして、喜んだミーニャの手によって、残りの肉も全部俺の口に運ばれたのだった。



 ――お腹いっぱいになった後、一刻もすると極度の眠気が襲って来た。例の現象だ。

 敷く布団も体に掛ける毛布も無いから倒木を枕代わりに、その辺でそのまま寝ることになる。

 でも、一昨日とは違う。ミーニャが一緒に居てくれるだけで安心できた。




 ――そして朝が来る。



 目覚めると、それが当然とばかりに、俺はもふもふに包まれている。

 起きるとミーニャが傍に居る。これも見慣れてきた光景だった。


「――トピア様はー私がいないと夜寒がるんですからー」


 ミーニャが目を閉じたまま寝言を言っている。


 そういえばミーニャはそんなことをよく言っている。

 でも俺は夜に寒いと感じたことは一度もない。

 ここの夜は冷え込んでいるのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。なぜなら俺が単身で一晩、なんともなく過ごせたからだ。


 謎は深まるばかり…



 ――その後、俺たちは昨日の残りの肉を焼いて食べて、余った部分は持ちきれないので土に埋める。

 ――そして再び出発する。勿論俺はミーニャに背負われて、


 道中は相変わらず田舎道のようだが、段々道幅が広がっている気がする。

 途中に川があったり、山があったり、林があったり、それらはすべてどんどん後ろに流れていく。


 ――突然ミーニャが声をあげる。


「あ、ここです!見覚えがあります!」


 それを聞いて俺はミーニャの向いている方向を見やる。

 そこには周りに何もないのに一軒だけぽつんと家が建っていた。

 周りには家庭菜園があり、時給自足しているようだ。


「トピア様、ここは私があの屋敷に行くときにお世話になったところです。きっと私たちを助けてくれます!」


 そういうとミーニャは、玄関の扉をノックすると中から現れたのは、獣人だった。

 白黒のミーニャとは違って、シェルティーみたいな感じの男性だった。


「オムさん!私です!この間はお世話になりました!」


 そう言うとオムと呼ばれた男性は挨拶するでもなく、後ろに居たこちらをじろじろ見てくると――


「――とりあえず中に入りなさい。」



 ――部屋の中、ミーニャとあの獣人が部屋の奥まったところで何か話している。


 ミーニャが何か言う度に、男の獣人は首を縦や横に振っている。

 そのうち話がまとまったのか、男獣人は奥の扉の向こうへと消えていった。

 ミーニャがこちらに戻ってくる。


「やりました!トピア様の替えの服を貰えて、あと馬を貸してくれるそうです!これで明日中には町に着けそうです!」


 ミーニャは企みが成功したかのように、上機嫌になっていた。

 しばらくすると、奥から男性が小さめの服を持ってきた。

 白を基調とし、至る所に細かい装飾が施されたそれは、どこかの民族衣装のようだった。


「これは俺の息子の10歳の誕生日に送ろうとした儀式衣装だ。誕生日を迎える前に亡くなっちまったがな…」


 男の獣人は暗い顔をしている。


「事故ですか?」


 ミーニャが何気無くきいた。見えてた地雷だった。


「いや、殺されたんだよ、人間共に!それを目の当たりにして、俺も殺されると思って遠いこの地に逃げてきた」


 声は震え、拳を握りしめたその様子は、どうしようもできない怒りと悲しみに満ち溢れていた。


「人間にも、いい奴が居ることは知っている。事実、ここいらの人間は俺を助けてくれた。それは感謝している、が俺は人間がどうしても好きになれん」


 そう続ける男の顔は複雑になっていた。

 人間への憎悪、それでも助けてくれた恩も感じているようだった。


「この服は持っていけ、形見のつもりで持っていたが、新品だし使ってくれた方が息子も喜ぶだろう」


 オムは服をこちらに手渡してきた。俺は恭しく頭を下げてそれを受け取る。

 正直、ここまで想いが詰まったものを着るのは、どこか尻込みしてしまう。

 それでも俺のために譲ってくれた品を着ない、だなんて言えるわけがなかった。


 俺は部屋の隅で、着ていた寝巻からその衣装に着替える。

 ミーニャはその着替えの様子をまじまじと見ていた。着替えを見られてちょっと恥ずかしい。

 新しい服に袖を通した俺を見て、ミーニャは歓声を揚げる。


「やっぱり私の見立て通り、この衣装はトピア様に似合っています!」


 隣に居るオムさんも、腕を組んで首を縦に振り唸っている。


「“髪色”と相まって素敵ですよ!」


 それを聞くとオムさんは、考え込むような表情をして部屋の奥へもう一度消えていった。

 ちなみに、俺がもともと来ていた汚れた服は、ミーニャが預かってくれた。


 しばらくすると、濃いベージュ色のフード付きのマントを持ってきて、俺に投げた。


「坊主、それを羽織っとけ、お前のその見た目は目立ちすぎる。」


 言われた通りにマントを羽織る。


「頭も隠せ、人間でそんな髪をしていたら目立つに決まっている」

「え!?そうなんですか?綺麗な色だなぁと思っていたんですけど…」


 ミーニャが驚くような声をあげた。


「少なくとも、俺は人間でそんな髪色を見たことがないそれに――」

「俺の髪色は何色なんですか?」


 ミーニャへの返答に思わず聞いてしまう。


「あ、そうか、屋敷には鏡が無いから、トピア様は自分では確認のしようがないんでした」


 正確に言うと一つだけあった。メイのあの書斎の机に手鏡が、でも特に気にすることも無く、自分の姿を確認することは無かった。

 綺麗とミーニャが言うなら、悪くはない髪色であると思いつつ――



「――白だよ、真っ白さ」




 ――その後、色々話を聞いた後、家の裏に繋いであった馬を貸してくれた。

 それは鞍と鐙を付けたそれは馬というには、色々見た目が違ったが、まあ馬だ。


 ミーニャが跨り、フードを深々と被った俺はミーニャの前に座って、彼女の足に挟まれる形だ。

 そして、いよいよ家を後にしようという時――


「――馬まで貸して頂いて…ありがとうございます!」


「良いってことよ、その馬は俺にべったりなんだ。町までなら帰り道が分かるから、乗り捨てたら俺のところに必ず帰ってくるぜ」


 まあ、ここのおいしいエサが欲しいだけなんだろうけどな、とそのあとぼやいていた。


 ◇◆◇◆




 そして、俺たちは今、町への道に就いている


「――ミーニャは人間が嫌い?」


 馬に乗りながら後ろを振り返り、ふと怖くなって聞いてみた。

 フードを被っているからミーニャの、その口元しか見えない


「うーん、少なくとも好きではありませんね。あ、勿論トピア様は別ですよ!?」


 それを聞けて安心している俺が居た。ミーニャは続ける。


「彼らはみな自分のことしか頭にありません。自分たちさえよければ良いと思っています。まあ、そういう生き方を選択してきた種族なんでしょう。その生きてきた術を否定するつもりはありません」


 ミーニャは、はっきりと主観と自分の意見を述べる。


「例えば我々のような有毛人種は互いに尊重し、協力し合って生きています。それが生きていくためにそうせざるを得ないくらい、弱い種族だったのかもしれません」


 その様子は、どこか納得いかない様子だった。


「人間のように利己的な生き方は他種族には、あまり見られません。だから、時々対立することがあるみたいです」


 そこまで言われると俺も人間に対して、偏見を持ってしまいそうだった。




 ――俺たちはそのまま、町へと急いだ。


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