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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
20/88

19,失ったもの

 


 ――あれから丸2日たった。


 いくつか分かったことがある。


 どうやらこの世界に魔法のようなものは一応あるようだ。

 いくつか物語を読み進めていくと決まって、魔法のようなものが出てくる

 なぜ“魔法のようなもの”と言っているかというと、少なくとも俺がイメージしていた“魔法”では無いからだ。


 それはどうやら“魔石”と呼ばれるものを触媒にして起こる。人間が魔法を使っている描写はない。

 魔石自体はかなり貴重で高価だが、大した効果はないらしい。水を出したり、火を熾したり、その程度だ。

 亜人と呼ばれる一部の種族は“呪法”または“術法”と呼ばれる力を行使する、とあるがそれがどんな力なのかまでは書かれていない。


 せいぜいこれくらいしか分からない。



 屋敷のメイドたちは相変わらず不愛想どころか、近づくだけで嫌な顔をされるようになった。


 前世の短い期間だったが、小学校に行っていた時を思い出した。勿論いい思い出ではない。いじめられただけの記憶だ。

 でも、それは気の持ちようだ。嫌われている十数人相手を気にするくらいなら、好かれている一人に意識を向けた方が建設的だろう。


 そういった意味で俺が好かれているのはミーニャだけだろう。

 一人でいるときは静かなのに、俺と一緒の時は尻尾を振っていつも笑顔だ。

 メイは俺のことを気にかけてくれているようではあるが、好かれているかと聞かれれば違う気がする。



 そのミーニャなのだが、あれから毎日俺が起きるとベットの脇に居る…

 理由を聞いても――


 “トピア様が寒がっていて見てられなくて…”とか“ベットに近づいたら引き込まれました!”とか俺の記憶にないものだった。

 その度に入って来ないでと言っているのだが、もう4回目ともなってくるとあきらめの色が出てくる。


 ミーニャ曰く、夜に俺がベットの中で寒がっているらしい。

 ここの気温は夜に急激に寒くなるらしい。ミーニャが伝える俺の様子から、毎夜冷え込んでいるということが分かる



 そしてそう、俺は夜になると、謎の意識消失現象が毎日起こるのだ。

 ミーニャがベットまで毎日運んでくれているが、この歳で介護が必要なのはかなりショックだ。

 原因があって対処できるのなら、早急に対処しなければ…


 そのせいで夜中に、こっそり正門前まで行こうと思っていたのだが、それもできていない。


 ◇◆◇◆




 そんなこんなで、俺は屋敷からの脱出を考え倦ねていた。


 ――一体いつになったら外に出られるのだろう。



 そんなことを考えてその次の夕方、当分の願いであったはずのそれはあっけなく、そして不本意に叶えられ俺は今、屋敷の正門前に居る。


 ――時間を巻き戻そう。



 俺は中庭で寝転がってのんびりと読書を楽しんでいた。すると遠くからガラガラという騒々しい音が、こちらに近づいているのが分かった。

 屋敷のメイドたちが慌ただしく通路を通って、正面玄関に向かっているのが見える。


 メイが帰ってきたのかな?なんて思っていたら、大きい足音が聞こえてきて、俺の後ろでその足音は止まった――


 ――振り返るとそこに居たのはメイではなかった。


 良い感じの髭を生やした初老のオッサンだった。

 そしてそいつは俺を睨みつけ一言だけ――


「――こいつを屋敷からつまみ出せ!」


 そうして俺はどこから現れたのか甲冑の衛兵二人に抱えられ、あの長い外庭の道ずっと抱えられたまま移動し、そして正門前の地面にほっぽり出された。


「いってぇー…いきなり何だったんだあの爺さんは…」


 正門を振り返りながら、つい悪態をついてしまう。

 それもそうだ突然現れ、何の事情も説明されずにこんな扱いを受けたんじゃ、誰だって文句を言いたくなる。


 メイドたちがあの見知らぬオッサンに従ってたところを見ると、不届きものってわけでもなさそうだ



 そして俺が目の前を振り向くとそこは――



 ――鬱蒼と生い茂る、あの屋敷の壁の手前にあった森と同じものが広がっていた。

 しかも、ここから見える範囲ずっとだ。





 ―さてどうしたものか…


 訳が分からずも、素早く状況を飲み込んだ俺は今後の展望を思案する。


 そしてもう夕方だ。俺の夜の持病だけならまだしも、夜の冷え込みは鬼一口だろう。

 俺は例によって、薄い寝巻しか着込んでいない。屋敷にこっそり戻ろうにも高い門は固く閉ざされ、周りの壁も聳え立っている状態で、侵入できる様子はない。


 あの正面玄関にあった馬車が通ったであろう道はあるが、舗装はされていない。

 高く伸びた木々は道の天井すら作りかけていた。

 一か八かこの道を進んで今夜泊まれる場所を探すしかない……


 俺は覚悟を決めて先の見えない土道の上を進むことにした。





 ――考えてみれば、あの屋敷は俺にとって最高の環境だったのかもしれない。


 俺はとぼとぼと何もない道を歩きながら考えた。


 屋敷に居た頃は仕事もしなくていい、食事も出てくる、ゲームはできないがあの本たちは意外と面白く、暇潰しにはなっていた。

 メイドには嫌な顔されるが、衣食住が与えられた完璧なニート生活だった。


 それに比べて今の俺はどうだ?


 住むとこ追い出される、服も今着ているこれだけで金もない、今晩の食事すらままならない。


 先行きの見えない不安に、“何で俺はあの屋敷から出たがってかなぁ?”と思うようになっていた。

 まあ、理由は分からないが追い出されたということは、遅かれ早かれこうなっていたということだから、考えても仕方がなかった。



 いくら歩いても道の脇は森しか続いていない。食料を探そうにも木の実が一つも生ってない。

 そして日が落ち、段々気温が寒くなってくる――



 ――ああ、俺はここで死ぬかもしれない。


 辺りはもう暗く足元の様子も覚束ない。

 結局泊まれそうな場所は見つからなかった。


 道の脇で木を背に、足を延ばして蹲り、虚空を眺めた。



 ――できればもう少し生きたかったなぁ

 



 俺の意識はそこで途絶えた。


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