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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
19/88

18,文字はマスターしました

 


 ――俺は今、外の庭園を探索中だ。

 後ろには相変わらずミーニャが付いて来ているのであからさまに変なことはしない。


 中央の道の途中にあった小道を抜け、ガゼポの中で休憩することにした。

 二階から見えた壮大な景色は近づくと、思ったより迫力が無くて少し残念だった。

 俺の感性の問題かもしれないが、生垣を使った模様は地上からは見えないし、花が一面に咲いているわけでもない。

 それでも自然に囲まれたこの場所は、何処か落ち着く。都会の喧騒にまみれていたからかな?


 そのあとは特に何もなく屋敷への帰路に就いた。

 気分転換はできたが、結局あの森の先には行けなかった。夜中にこっそり行ってみるか?


 時刻は日の位置的に昼前、屋敷の部屋に戻って勉強を再開する。

 この世界の言語は音声言語をそのまま一つずつ文字におこしているので、楽にどんどん覚えられる。特殊な発音だけ気をつければいい。


 午後になると、ミーニャはメイの私室からいくつか本を持ってきた。

 勝手に持ってきて怒られないのかなと思っていたら、「お嬢様からは許可を頂いてます!」と胸を張って言うのできっと大丈夫なのだろう。


 口頭と本の文章では言葉の使い方が違うので午後からは実践的に勉強していくのだそう。

 本は全部童話だった。この世界の興りを記した神話だったり、子供に言うことを聞かせるための方便だったり、色々だ。

 でもこの世界のことをこういったものからも、読み取ることはできる。



 ――神話にはこうある。

 この世界はかつて神同士が争いあっていてその争いの中、巨人の体を持つ神がこの地に力尽きた。

 その後、争いは終結したが戦火で資源がすべて焼失したので、生き残った神々は散っていった仲間の遺体を回収し、この何もない地を捨て何処かへ行ってしまった。


 しかし、巨人の神の体は大きすぎるが故に回収されることも無く、残った巨人の骸から今の世界ができたというのだ。

 その骸の大部分の肉は大地となり、髪などの体毛は木々などの自然となり、血は川や海となり、臓物はそれぞれ多様な種族となった。ちなみに、人間は心臓からできたらしい。

 そして巨人の二つの眼球は男と女の神となってその場にできたばかりの種族を導いた――


 ――その後、その二人の神はどうなったかこの本には書かれていない。

 ミーニャに聞いても、さあ?これは人間の神話なので私には分かりかねますねー、と言った具合にあしらわれた。


 ちなみに人が死ぬとそれは巨人の体に還り、また人間に生まれ変わるというのだ。

 力のある存在の骸から世界が興ったというパターンの神話は前世でもあった。


 自分たちが死骸から生まれたという考えに嫌悪感は無いのかな?

 また、獣人には獣人で別の神話が伝承しているのかな?

 ミーニャに聞いても彼女は神話に興味が無さそうだった。疑問は尽きない。


 童話の方はよくある日本昔話みたいだった。

 大人の言うことに逆らっていた子供がそのせいで大変な目にあって改心したり、他者に手を差し伸べてそれが影響して幸福になったりの道徳教育だ。

 何はともあれ、子供向けの童話くらいなら、支障にならないくらいには読める。


 ミーニャが今度は文学本をいくつか持ってきた。それも同じく読んでみる。

 難しい単語ばっかりだが、文字が読めれば意味は理解できる。


 つまり俺は二日足らずで文字をマスターしたのだ。これは、正直かなりうれしかった。

 勉強をやり遂げた達成感で胸がいっぱいになった。

 ミーニャは私の仕事がなくなってしまいましたーとちょっと悲しんでいたが、個人的にはそこは教え子ができるようになった!と褒めてほしかった。



 この屋敷には書庫が無いから、本があるのはあの書斎だけだ。

 今日から早速あの部屋に入って本を読みまくろう!




 ――結論から言おう。


 全く世界の情報が得られなかった!


 なぜならあの部屋に置かれていた本は全部、物語などの文学本だった。しかもほとんど恋愛物。

 あとは詩歌、戯曲、随筆など、それもおそらく全部フィクションや個人的なことしか書いてない。


 壁一面に本があるのにそんなことってあるか!?あそこは仕事部屋じゃないのか!?もしかして、メイの趣味か?

 別邸だからあんなのしかないのかもしれない…


 唯一の希望だったあの時メイが手渡してくれた地理の本も無くなっている…

 これじゃあまるで、俺が手に入る情報が制限されているみたいじゃないか。


 壁の本棚をよくみてみると、昨日見た時と本の配置が変わっている気がする。

 いくつか本が置かれてない空間もあるようだし。



 仕方が無い、微々たるものでも小説から得られるものを得ようじゃないか。



 俺はいくつかの小説を手にして部屋を後にするのだった。


 ◇◆◇◆




 ――おかしい


 俺は本を読んでいたはずだ。


 昨日はあの後、三回目の孤独な食事を取って部屋に戻り、のんびりと本を読んでいたはずだ。

 なのに今、時刻は朝、まだ日は登っていない。


 そしてなんと、またしてもベットの脇にミーニャが眠っている。


 なにか?俺は夜の記憶が維持できない病でも患っているのか?

 昨日の夜ミーニャが、差し入れに飲み物を持ってきてくれたところまでは覚えている。

 でもそれは彼女がここに居る理由にはならない。


「はあぁぁーー、おはようございますー、トピア様」


 大きな欠伸をしながら彼女は朝の挨拶をする。


「ナンデ、キミガココニイルンダイ?」


 素晴らしく美麗なカタコトだった。


「昨日トピア様が机の上で寝てしまわれたので、ベットに運んだんですよ。でも布団をかけても“寒い寒い”と何回も言うので――」


 ――私が湯たんぽ代わりに布団に入らせていただきましたーー!と彼女は笑顔で続けた。

 いやそうはならんだろ…


「いやそれなら、昨日みたいに追加の布団か湯たんぽをくれれば、いいのだけど…」


「でもトピア様、私が布団に入った瞬間から私のことを抱きしめて、安らかに眠っていましたよ」


 俺はそれを聞いて唖然とするしかなかった。それを見たミーニャは慌てて言い繕う。


「あ、別に私が勝手にやったことですし、トピア様は全く気にすることないですよ!謝んないでくださいね!」


 謝ろうとしていた俺はミーニャに念押しされたので何も言えなくなってしまった――






「――今日は絶対入って来ないでね!!」


 言うべきことはしっかり言っておいたのだった。


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