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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
16/88

16,夜明けの動乱

 


 そんなやり取りがあったあと、今俺とミーニャは食堂前に居る。

 その先に誰も待っていないと分かってはいるのだが、朝のゴタゴタを思い出して思いふけってしまう。



 ミーニャに食堂の重厚なドアを開けてもらい、中に入る。

 俺が一人で今朝と同じ席に着くと、これまた今朝と同じく奥からメイドたちが出てきて料理を運んでくる。

 朝と違うのは合図をしなくても料理出てきたことと、その料理が一人分しかないことだろう。あと食事を運んでくるメイドたちのなかいメイド長の姿もなかったな。


 相変わらずメイドたちは無機物なのか、それ以上に無口だった。

 今朝の食堂での出来事がミーニャに伝わっているということは、俺と違いミーニャはこのメイドたちと会話ができるということだ。

 もしかして、俺がメイドたちに嫌われているのかな?


「いただきます」


 そう思うとこの作られたこの食事もおいしくなくなってしまう。

 だから俺は考えるのを止めた。なるべく料理のことを考えよう

 机全体を見た時の見た目は今朝のものとあまり大差ない。しかし味付けは幾分か濃くなっている。

 肉体的な疲労があるならもっとおいしく感じるらしいが、残念なことに俺は今、ストレスを感じているわけでもなく精神的な疲労しか抱えていない。


 まあ、別にそれでも美味しいのだから文句を言う筋合いはない。

 時間はあるので一人ゆっくりと黙々と食べる。そういえばメイと食事した時も会話が無かったな。

 会話が無かったとはいえ、一人で食べると寂しく感じる。一人で食べるのは慣れていたはずだったのに。



 食事中は特に何もなく、俺は食後の挨拶を済ませると残った食器の片づけをメイドに任せて寝室にまっすぐ戻る。

 外は日が落ちもう暗く室内の気温も下がっていた。

 部屋までの道のりの通路は行きとはその姿を変えて俺を飲み込もうとしているようだった。明かりはあまり多くない。

 なぜかそれが怖くて、俺は駆け足気味に通り抜けたのだった。



 部屋に入るとミーニャが薄暗い中居た。どうせなら食堂から寝室までもついてきてくれればいいのに。食事はもうとったのだろうか?

 というか俺のいないうちに勝手に部屋に入るのは正直やめてほしい。

 別に部屋に私物があるわけではなく、そもそも俺の部屋と決まっているものでもないが、これは気持ちの問題だ。

 ていうかそもそも何で部屋に居るのだ?


「あっ、トピア様!さあ文字の勉強の続きをしましょう」


 ミーニャは熱がこもったように握った両手を胸の前に持ってきたポーズで勢いよく言った。

 優等生のように真面目な一面も持っているようだ。それでもドジなことには変わりないのだが…


 俺はというと、もうさすがに疲れていたので勘弁してほしかった。

 だがミーニャがさあさあ!とやる気に満ち溢れていて俺を机に向かわせるので、俺の意志は関係なく勉強を続けねばならなかった。



 正直言うと食後で眠かったので、勉強の内容はもう頭に入ってこなかった。

 もう寝かせてくれと嘆願するが、彼女はまだです!まだまだ!と席から離してくれなかった。真面目というよりスパルタかもしれない。




 ――そのあとはというと、実は終に眠気が限界を超えたので記憶が無い。気が付くと俺は薄青のベットの上に横たわっていた。


 ――こうして俺の人生の大乱のような、この世界初めての一日の終わりはあっけなく終わったのだった。


 ◇◆◇◆



 ――そして夜明け前に問題に気付いた。昨日の激動だった一日を濃縮してもなお足りない事件が…



 俺が寝ていたベットから起き上がりかけられていた布団を剥ぐ。

 そして、ふとその脇に目をやると――



 ――ミーニャが居た。うん、そこに居ただけ。


 俺の腰下を抱き着くかのような姿勢で、すやすやと寝息を立てて寝ていた。

 その光景を見た瞬間、俺の思考は完全に止まった。

 一分ほどであろうか、俺は心身共に完全停止を成していた。

 そのあとに一瞬で我に返った俺は慌てて纏わり付いていたミーニャの腕を払うとベットから転げ落ちた。


 一目散に壁に向かって後ずさると、腕を払った衝撃でミーニャの目が覚めたようだ。

 彼女は寝ぼけ眼で顔をあげると、遠吠えをするかのような姿勢で大きく欠伸をして肉球のついた手で目をこすっている。

 その姿はまるで飼いならされて誇りを失った犬のようだ。

 彼女は寝ぼけたままあたりを見回すと、壁を背にして狼狽している俺を見つけたようで、開幕早々何を言うのかと身構えたが単に―


「あ、トピア様ー、おはようございますーー、昨晩はよく眠れましたかー?」


 ミーニャのその口調からまだ寝ぼけていることが窺える。

 彼女は再び欠伸をして目をこすり始めた。


「な、な、何で君がベットに居るんだ!?」

「えートピア様覚えてないんですかー?昨日の寝る前のことをー!」


 昨日のこと――そう俺は眠気が限界で覚えてないのだ。

 ミーニャは気持ち悪いくらいに、にまにまと笑っている。どう考えても悪い予感しかしない。


「昨日トピア様が床に就いたとき寒いというから、容器にお湯を入れたものと追加のお布団を用意したのに…

 ――手渡そうとしたらトピア様が私の手を掴んでベットに引きずり込んだのではありませんかー!」


 ミーニャは俺が覚えていないことに対して責め立てるように、とんでもない発言をした。

 確かにこの世界の夜は凍えそうなほど冷えるのか、この部屋も日が落ちてからというもの急速に冷え込んできたのを覚えている。

 辺りを見回すと昨日まではなかったおそらく湯たんぽであろう一斗缶のような容器と、布団が地面に散らばっていた。

 確かに彼女の言い分と辻褄は合う。


 でもでも俺が仕出かしたこととはいえ、それがかなりまずいことをだということは分かる。

 俺は咄嗟にミーニャの眼前に飛び込むと、着地する否や日本最大の謝罪の意を体現した。


「申し訳ございませんでしたぁぁっーーー!!」


 それは前世を含めて俺が出した最大声量だろう。多分屋敷中に響いてる。

 ここで俺の眠気がどうとか言い訳をするつもりはない。

 真摯に紳士として、こちらの失態を認めて誠心誠意陳謝した。


「何ですかその恰好はもしかして謝ってくれてるんですかー?

 いえいえ、トピア様が私であったかくして夜に過ごしてくださったのでしたら何よりですー」


 日本の土下座はこの世界で通用しないようだが、彼女はどこまでも大様だった。

 俺にはその様子が何処か神々しく見えてしまった。


「とにかくトピア様に悪意のないことは分かっていますよ。ただの事故ですしもうお気になさらずに…」


 彼女はそういうがそうは問屋が卸さない。

 ミーニャはメイドなのでおそらく未婚だが、それは些細な問題に過ぎない。

 男性と寝たということはつまり、周りからのそういう目で見られかねない。


「いやでもそういうわけには…」

「トピア様!くどいです!もういいって言ってるじゃないですか!さっさと顔をあげてまた昨日みたいに文字のお勉強を一緒にしましょう!」


 俺がそれでも謝り続けるとミーニャは不機嫌になってしまった。

 また謝りそうになったが、もう無意味だと思ったので顔をあげてただ一言、分かったよと呟く。

 するとミーニャは満足げになって、あたりに散らばっている物をそそくさと片付けると勉強の用意をしてくれた。


 そして俺たちは朝食の時間まで夜明けとともに活動を始めたのだった。


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