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夜明けのまにまに  作者: AL Keltom
本編
14/88

14,屋敷探索



「――質問は以上かしら?ならこの屋敷を探索するなり、部屋に戻って文字を勉強するなりあなたの好きなように過ごして構わないわ、屋敷の外に出てもいいけど敷地外には絶対出ないでね」


 メイは自分の髪を手で払い、はためかせる。その金髪は陽光に照らされ彼女だけが独り占めする綺羅の如くあった。


「じゃあ、そうする」


 俺はその美しい光景に惚けてしまってどこかぶっきらぼうに言ってしまうのであった。

 その後、俺は席から立ち、踵を返し部屋から出る。部屋から出るときメイがにやけ顔になっているのを俺は見逃さなかった。


 実はもう一つは質問したかったことがあるのだが、彼女の様子をみてやめた。

 どうせまたはぐらかされるという予感めいたものが、既に俺の中で会ったので言うだけ損だし、彼女を警戒させてしまう可能性もあったからだ。


 部屋から出た俺は、一先ず気分転換も兼ねて屋敷を探索することにした。

 俺は今居るこの屋敷を総観する。白を基調とした壁と家具と調度品たち。

 一言で説明するならヨーロピアンクラッシックというやつだろう。豪奢ではないが質朴でもない。

 床に敷かれているやはり白いペルシャ絨毯のような模様をしたそれは、布の履物の上からでもわかるほどモフモフであった。ちょっと歩きにくいもしれない。


 この屋敷の構造は二階建てのようで、上から見ると文字で言うなら“井”に近い形をしている。

 四画すべてを限りなく外端に寄せるともっと近い形になる。

 その一つ一つの通路は100m無いくらいで、貴族の屋敷にしては入り組んでもおらずよくまとまっている。

 本邸も見てみたくはある。それは、今は無理でもいつかきっとお目にかかれる日が来るのであろう。


 構造物の中心には通路内とは独立して吹き抜けのような中庭があった。

 中庭というより庭園と言った方がしっくりくるだろう。

 一面の芝生、生垣のような低木で区画分けされ、それぞれ池があったり、花が咲いていたり、さざれ石のようなものが置かれていたり――説明するには俺の語彙不足が顕著だがとにかく趣のある良い庭だった。


 二階から眺めただけに留まったが、しかし外庭もこれに負けてなかった。

 中庭が凝縮された美しさなら、屋敷の周りを囲う外庭は壮大な美しさであった。

 屋敷の何十倍もあろうかという敷地――中央に敷かれた道途、そこを基準にしてシンメトリーな模様が生垣で作られている。


 ガゼポやガーデンアーチなどと言った屋外調度品も点在しており、卑俗めいてはいるが、それがまた俺にとっては落ち着ける雰囲気で和む。

 一体どうやって手入れをしているのかが気になる。

 ただの平野から昇華したそれは圧巻の一言であった。


 その外側には木々が生い茂っており、さらにその奥には外庭の終点として壁が周囲を取り囲んでいる。その先は見えなかった…

 その周囲の森や壁はまるでこの俺を、この小さな世界に囚えるために存在しているかのようだった。



 屋敷内の部屋を探索していると、ところどころに屋敷を掃除しているメイドが居た。

 屋敷には男性の使用人は一人もおらず、台所も含めてメイドたちは全員女性であった。

 全面黒い衣装を纏ってその手には道具を持ち黙々と作業する彼女ら。


 器量もあってその髪は金髪、黒髪、赤毛、茶色などの他にグレーの髪色などがある。全員おそらく地毛である。

 髪型もショートのものからロングヘア―まで居て、髪の長いものは大抵ポニテかお団子にしている。

 髪型の見本市かと思うほど全員バラバラで、誰しも好みの髪型が見つかることであろう。


 しかし、俺が気になったのはその容姿ではなく、その態度だ。

 勇気を出して挨拶をしてみるも基本的に一瞥しかされない。俺を見て軽くお辞儀をするものもいるが、中には完全に無視されることもあった。


 態度に個人差があるから、人形というわけでもないだろう。

 先程の食堂での配膳の様子を見るにロボットでもおかしくなさそうだったが。

 この屋敷で人の声を聴いたのは、メイとメイド長とミーニャだけだ。


 そういえば、掃除をしているメイドは全員人間だった。

 この屋敷にミーニャのような獣人は彼女だけだろうか?

 なんだったら他の獣人やエルフのような人種も、もし存在するなら見てみたかった。


 まあ、ともあれメイドたちの態度は気になるところだ。

 メイに質問してもまたはぐらかされそうだし、自分で調べてみるのだが。



 ――この屋敷にはどうやら空き部屋が多いらしい。

 いくつか鍵がかかって入れなかった部屋もあったが、ほとんどの部屋の探索は済んだ。

 一階はメイの私室である書斎、食堂、台所、使用人たちの部屋とあとは物置など。

 二階は掃除用具が備えられた物置を除いてあとは空室、その一部屋が俺の寝室に充てられていた。


 あとメイの寝室もあったな、一つだけ間取りが違って彼女から漂ってきた謎にいい匂い。

 この匂いを嗅ぐとメイの顔が頭に浮かぶ、何故だか知らないが、謎にメイを意識してしまうような…


 これでは、俺がただの変態みたいではないか。

 まどろみかけた思考を切り離すために頭をぶんぶんと左右に振った。

 この匂いはよく分からないが本能が危険だと言っている。なるべくこの部屋には近づかないようにしなければ――



 ――かくして、俺の屋敷内探索は終了したのだった。


 ◇◆◇◆



 自分の寝室に戻ると先客が居た。

 白黒の毛並みを持っている彼女は、俺が部屋に入ると落ち着きがない人のように左右に行ったり来たりしていた。

 その両目の黒が俺を見据えると一目散に俺に駆け寄ってきた。


「ひどいですっ!トピア様!お嬢様に言いつけられて急いで準備して待っていたのに、全然来てくれないじゃないですか!?」


 ミーニャは俺の目の前で地団太を踏んでいる。

 メイが手配をしてくれたようだが、俺がすぐに部屋へ戻って勉強し始めると勘違いしたのだろう。

 しかし、俺は朝から頭を使いすぎてクールタイムが必要だったので、探索を優先したのだった。

 その俺に対する態度は、さっき会ってきたメイドたちとは天と地の差だ。

 その様子を見て心のどこかで安堵する俺が居た。


 部屋には先程まで無かった重そうな机と椅子が用意されていた。

 おそらく俺の文字の勉強のためにミーニャが用意してくれたのだろう。

 部屋の床や廊下に机の脚を引きずった跡があるが、他のメイドは手伝ってくれなかったのだろうか。

 それの大変さはミーニャの言動を見ればひしひしと伝わってきた。


 待たせてしまったことと、先程食堂前で彼女を泣かせてしまったことを謝ると彼女は“もう気にしてないですよー”と言いつつも――


「――もし悪いと思ってくださっているのでしたら、何かしらの見返りを期待していますよ…」


 意外とちゃっかりしているようで、彼女は声を殺したように笑っている。なんか怖い…

 俺は彼女に渡せる物品など何もない、彼女の仕事を手伝うとかで許してもらうとしよう。


「それはそうとトピア様!文字を勉強したいんですか?お嬢様にきつーく厳命されましたのでお教えしますよ」


 朗らかに笑うミーニャのその顔は目じりが下がっていた。


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