表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

グラシャ=ラボラス

作者: 平 一

信用のある侍女(じじょ)達だけは、

王妃を亡くした王様の居室への出入りを許されている。

有力な家臣から送られた情報収集員としての、

役割をもつ者もいるようだ。

私がこっそりと王様の寝室に近づくと、

聞きなれぬ、悲しげな女の声が聞こえてきた。


「……王様、貴方が悪いのですよ。 

『隣の国を全滅させてでも、我国を富ませよ!』

というだけなら、もちろん私の得意分野です。

でも、『軍や国民がいかなる犠牲を出そうと、

我が世は栄え続けねばならん!』などというお言葉を、

(おっしゃ)ってはいけませんでした」


こんな深夜に一体誰が?

……人のことは言えないが(笑)。

そっと(のぞ)くと意外にも、犬の耳のように垂れた、

二つ結い(ツインテール)の髪型が愛らしい、少女の姿が見えた。


挿絵(By みてみん)


「王もまた軍の指揮官である以上、

広い意味ではその一員なわけでしょう?

あいにく私には、人間の職業適性を判定できる、

心理学の心得(こころえ)もあります。

そうなってしまうと、契約を守るには私、

殺戮(さつりく)の魔王グラシャ=ラボラスといえども、

こうするしかないじゃありませんか……」


話の内容が只事(ただごと)ではない。

それに、何か少女の背中から生えているのは、

翼、だろうか……?

私は逃げるか出てゆくべきか、激しく悩んだ。


「でもまあ、ご安心ください。

好戦主義者の貴方と違ってお世継ぎは優しく、

側近も有能な方々のようです。

貴方に代わって必ずやお国に繁栄をもたらし、

ご遺志を(かな)えてくれることでしょう」


意を決して寝室に飛び込んだ私は、息を呑んだ。

寝台(ベッド)には無残にも変わり果てた姿となった、

王の亡骸(なきがら)が散らばっており、

振り向くと少女の姿は、煙のようにかき消えていた。


……まあ、いいか。

確かにあの悪魔の言う通り、

蛮行愚行と黒魔術で有名な王は、元々人気がなかった。

犯人を捜そうにも容疑者でない者を探す方が難しく、

葬儀も祝典になりそうな有様(ありさま)だ。

人間には不可能な現場の惨状や責任問題を考えると、

死因は病死か事故死になるのではないか、とも思った。

私は震えながらも静かに、部屋を後にした。



グラシャ=ラボラス:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱(ひとはしら)

人文科学の知識を与える一方、殺戮の達人でもある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ