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長男

作者: 岡池 銀

一応二人は別小説のネームドキャラですが、知らなくても何の問題もありません。

「ね、たまご焼きちょうだい?」

「あげねぇよ。おれのオカズが減るだろ」

 昼休み。購買や学食に行くため、チャイムと同時に走って教室を出て行く、騒々しさもすでに数分前。多少の落ち着きを取り戻した教室内では、いくつかのグループに分かれて机を合わせ、思い思いに昼食を楽しんでいた。この二人もまた、机を付けて持参した弁当を広げていた。

「交換なら減らないからいいよね?」

「まあ交換ならな。さて、どれに……」

「はい、たまご焼き!」

 言葉を遮るように、蓋に乗せたたまご焼きが差し出される。

「いや、お前が選ぶのかよ。ていうか、たまご焼き同士で交換したってしょうがないだろ」

 そう言いつつも、あちらのたまご焼きをこちらの蓋に、こちらのもあちらに交換する。

「ふっふっふ。たかがたまご焼き、されどたまご焼きだよ。家庭ごとに結構違いが出るものだよ」

「そう変わるもんかね」

「変わるよ〜? 知ってる? 香奈ん家のたまご焼きはね、コンソメの素とか中華だしの素で味付けしたり、かと思えばたまご焼きには味付けせずにケチャップとマヨネーズをかけたりするんだよ〜」

「そりゃ想像付かんな。うまいのか?」

「ケチャップとマヨネーズのやつ食べたんだけどね、結構おいしかったよ」

「そっか。やるやらないは別にして、そうやってバリエーションがつくのはいいな」

「ね、生活の知恵だよね。あ、ただ最近は全然たまご焼き作ってくれないって言ってた」

「それまたなんで?」

「寝坊して急いでる時に、焦がしたり破いたりしたらしくてね、もういいや、ってスクランブルエッグにしたら、巻く手間がなくて楽なことに気づいたんだって。それ以来、香奈んとこではたまご焼きじゃなくてスクランブルエッグがお弁当箱に入るようになったんだってさ」

「なんだそりゃ」

 少々呆れながら、半ば強制的にトレードされたたまご焼きを口に運ぶ。

 あっちは空になったコップに茶を注いでいる。

「うまい……」

「でしょ〜? カツオと昆布の合わせだし、普段は和風だしの素を使ってるんだけど、最近早起きするようになったから頑張ってみたんだ〜」

「そりゃご苦労なこった。ていうかそれ食わせたくてたまご焼き交換したのか?」

「あ、バレた? せっかく頑張って作ったんだから、このおいしさを分かち合いたかったんだ」

「はいはい、ありがとよ、ってなんだその目は」

 期待の眼差しが向けられている。

「そんなに見られたって何もやらんぞ」

「そういうことじゃなくてさ。ね、もう一回言って?」

「ん? 何もやらん」

「違うよ、そっちじゃなくてさ」

「ありがとよ?」

「それも嬉しいけどさ、たまご焼きの感想だよ」

「あー……うまかったよ」

 気恥ずかしさで視線をそらしながら答えると、相手はさぞ満足そうに頬を緩めるのであった。


「そっちのたまご焼きも甘くておいしいね。お砂糖使ってるの?」

 最後まで蓋に取ってあったたまご焼きを口にして尋ねる。

「ああ、一番下がな、甘いのがいいって言うからそれでな」

「お兄ちゃんだねぇ……」

 そう言ってあくびを一つ噛み殺した。

「おいおい、食べてすぐ寝ると太るぞ」

「そうなんだけどねぇ、寝る時間は変わってないのに早起きしちゃうもんだから最近ずっと眠くて」

「そりゃよくねぇな。どうする? 授業始まる前に起こしてやるからちょっとだけ寝るか?」

「やめとく。今寝たら叩かれても起きなさそうだし。そうだなんか面白い話して」

「ずいぶんな無茶振りをするな」

「頼むよお兄ちゃん」

「お前の兄じゃねぇよ」

 しかし、急に言われたって簡単に思いつくものでもないが……。お兄ちゃん……長男か……。

「そうだな、この地球に生まれた男の中で長男が一番多いんだよ」

「そうなの⁉︎ それは農林水産省かどこかの発表とかで知ったの?」

「いや、そういうのじゃない。ていうか仮にそういう発表があったとしてな、なんでそれをするのが農林水産省なんだよ。もっと別にあるだろ」

「じゃあ、なに省がするの?」

「んー……文部科学省? ってそういうのじゃないって言ってるだろ? よく考えてみろ、長男ってのは一番初めに生まれた男の子供だ。一人息子でも二人息子でも初めに生まれりゃ長男だ。だから必然的に長男の数が多くなるし、逆に女の場合でも長女が一番多くなる」

「なるほどね〜。たしかに考えてみればその通りだね」

「どうだ、目は覚めたか?」

「んー……もうちょっと」

「まだ眠いのかよ、しかもまだねだるのかよ。いいや、もう一個長男繋がりで思いついたから話してやるよ」

「ん、お願い」

「ここに見た目がほとんど変わらない二人兄弟がいたとする。どっちも男なら、どっちかが長男、どっちかが次男になるわけだ」

「そうだね」

「このとき、二人を知らない人にどっちがどっちか質問して答えが当たる確率は?」

「それぐらいわかるよ、五十パーセントでしょ」

「その通りだな。判断材料がないんだから当てずっぽうで答えたら当たる確率は半分だ。じゃあこれが女だったら? 見た目が変わらない二人姉妹。どっちかが長女でどっちかが次女、二人を知らない人にどっちがどっちか質問したら?」

「それでも当たる確率は五十パーセントでしょ。もしかしてバカにしてるの?」

「違うって、続きがあるから聞けよ。さっきので男二人兄弟でも女二人姉妹でも長男次男、長女次女を当てる確率は五十パーセントだとわかったわけだ」


「ここで問題。ここに兄弟がいたとする。どっちかが男でどっちかが女だ。見ただけでどっちが男でどっちが女か判断がつく。長男次男と長女次女、どっちがどれに当てはまるか質問したら当たる確率は?」

「これも五十パーセントだね」

「ほうほう、その理由は?」

「理由って……男が長男なら女は次女、女が長女なら男は次男になるからだよ」

「本当にそうか? じゃあ一度話を戻そう」

「たまご焼き交換?」

「戻りすぎだ! 長男が一番多いって話だよ。で、長男の定義は?」

「一番初めに生まれた男の子供」

「じゃあ長女は?」

「一番初めに生まれた女の子供……?」

「その通り。ならさっきの質問に当てはめてみろ。男一人女一人の兄弟の話だ。その家では男は一人、女は一人。つまり?」

「……あぁ! どっちも一番初めに生まれた男か女なんだ! 生まれた順番関係なく!」

「はい、じゃあ長男次男、長女次女どっちがどれか当たる確率は?」

「長男と長女の組み合わせしかないから百パーセントだ!」

「その通り、どうだ、目は覚めたか?」

「うん、おかげでスッキリしたよ。ありがとね」

「役に立ったようで嬉しいよ。ただ夜はちゃんと寝ろよ? 毎回こんなの用意できねぇんだから」

「うん、今日は早めに寝てみるよ……って先生来た。 机戻さないと」

 机を戻し終わったところで、五時間目のチャイムが鳴る。

最近ラーメンズのコント動画をよく見る

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