第2話 異世界転生
死ぬ、というのがどういうものかは知らなかった。
ただ俺は、気づくと不思議な場所にいた。
どこまでも広がる水面。それを覆う青い空。そして、それ以外に真っ白の扉が二つ。
「ここ...どこだ...?」
皆目検討もつかないが、ボロボロの白衣をきた俺はこの綺麗な風景には異質だな、なんて思いながら、とりあえず前に歩き始めた。
どれくらい歩いたか、ふと呼ばれた気がして歩みを止める。
『...レン殿』
「っ!」
すぐ後ろで声がして、驚き振り返ってみるとすぐそこに若い女性が一人。
「えっと、どちら様です?」
『わたくしはスキエンティアと申しまして、科学の神をしております。』
「は......はぁ...」
『レン殿はその類まれな知識量をお持ちなのに、ご活躍なく亡くなられてしまった。』
「そう...ですね」
『それがわたくしとしても口惜しくて、別の世界でご活躍いただけたらと、勝手ながらお呼びしました。』
「別の世界...異世界...転生...?」
『ふふふ...。そうなりますね。未だ科学のない世界でその力、存分に発揮してくださいまし。』
異世界転生、どことなく聞いたことのあるそれは、確か流行っていた小説や漫画のジャンルだったような...
なんでも、死んだ後異世界で何かしらのチートで無双するとかなんとか...
今まさにそれが起ころうとしているらしいが、俺が主人公的な位置でいいのだろうか?
死んでしまったのは何かの因果で、今からまだ生きたいと思うわけでもないし、その新しい世界でも活躍できないのではないかと思うと不安もある。
しかし、今目の前にいる女神が俺に期待してこんなことまでしてくれていることは素直に嬉しかったし、科学のない世界から様々な科学技術で発展してきたこれまでの歴史を追体験する機会をもらったと思うと、なかなか胸躍るものもある。
さて...異世界転生...どうしたものか...
悩んでいたのが伝わったか、先ほどまでより朗らかな声で女神に話かけられた。
『レン殿は、科学がお好きですか?』
「それはもう、小さい頃から大好きですよ。」
仮にも科学の神と名乗る人の前で、好きとしか言えないだろう。第一、嘘偽りなく大好きである。
『でしたら、また科学を楽しむ機会を得た、くらいに考えて気軽に、好きなようにやってみたらいかがでしょう。私もそんなレン殿を見守りながら楽しませていただけると思いますので。』
そう言われると幾分か魅力を感じたし、もはや躊躇いはなくなっていた。
のんびり科学で異世界スローライフ、送ってやろうじゃん!
楽しみにすらなってきた。
「あの...よろしくお願いします。」
『まあ!ほんとですか?よかった!貴方のように科学に真摯に向かい合う方が活躍されるのはとても嬉しいんですよ!』
女神様もルンルンになったな。よほど嬉しかったんだろうな。
それにしても、前から俺のこと見てたような言い方だったような...?
『さあ、そうと決まれば、もう準備はできていますから、こちらの扉を開けて転移してくださいまし!』
せっかちだなあ。でもそんなキラキラした目で見られたらなあ。...さて、じゃあいくかな!
「わかりました。ちなみにもう一つの扉は...?」
『あれは、死後の世界につながっております。レン殿が転生されない場合のために用意しておきましたが、使わずに済んで良かったです。』
なるほど。
そう思いながら俺は異世界行きの扉の前に立つ。
「じゃあ、行ってきます。」
『はい。行ってらっしゃいませ。わたくしも助力させていただきますので。』
「ありがとうございます。では!」
そういって扉を開けた俺は、眩い光に包まれて、たまらず目を瞑った。
..........
......
...
しばらくして目を開けると、そこは森の中で、俺は白衣のまま、紙切れを一枚握っていた。
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