兄視点
「…計画は以上です。
近隣の制圧率は70%、もう少し制圧圏を広げてから侵攻するつもりでしたが作って貰った重力発生装置を使えば確実に相手の本拠地を攻め落とすことが出来るので、予定を変更して本陣を奇襲することで奴らを再起不能なまでに叩きのめすことにしました。」
「うん。いいんじゃないか?」
「はい。なので次の戦いが実質敵な最終決戦になるかと。」
「戦いを長引かせるよりかは早めに終わらせた方がいいからね。」
私は世界征服を企む組織のリーダー、いわゆる首領だ。
今日も私の優秀な部下である副首領が侵略の進展を伝えてくれる。
どうやら順調のようだ。
「すでに他の皆には配置についてもらっています。
私もすぐに向かうのですが…あの、いつものお願いできますか?」
「あぁ、気をつけていってらっしゃい。」
「~~!はい!がんばります。」
部下を労ることも組織のトップとしての大事な仕事だ。
戦場に向かう勇敢な者には激励を送ることも忘れない。
「じゃあ、行ってきます。夕方までには帰るよ。お兄ちゃん。」
「あぁ…本当に気をつけるんだぞ。」
「…行ったか。」
妹が俺の部屋から出て行ったのを確認して息を吐く。
「あー、どうしよ。本当になんでこうなっちゃったかな。」
この俺、明野 亮は悪の首領である。
しかし、なりたくてなった訳ではない。
いや、小さい頃はなりたかったよ?悪ってなんとなくかっこいいからね?
まぁ子供の頃の話だし、真剣になりたかった訳でも無い。
将来の夢はあさりになりたいとかそういう妄言の類いだ。
ならなぜなってしまったのかと言われると…
妹である福がある日突然、組織を作りたいと言い出したのだ。
そして、俺にリーダーをして欲しいとねだられたのだ。
妹に甘い俺である。頼まれたら断れない。そうして俺は悪の首領となった。
いや…ね?妹のせいみたいに言ってるけど、全部俺が撒いた種のようなものなのよ。
実際、心当たりしかないしね。
これは、そう。十年以上前、俺が12才で妹が5才の時の話だ。
妹は現代医学では治すことが出来ない不治の病に侵されていた。
この病は妹の体を蝕み、あと1年生きられるかどうかも分からないほどだった。
どれだけ金を積もうとも治せない病ということで親も諦めかけていた。
しかし俺は諦めなかった。当時小学生ながら俺は天才だった。
妹の病気が治らないと聞いた瞬間から妹を助ける為の研究を始めたというのに簡単に治してしまったのだ。
これには親も大喜び。俺を褒めちぎった。
しかし、当の俺は満足していなかった。
妹の病を治す事は出来た。ただ、これから先の未来で妹がまた命の危機に晒されるかもしれないと考えてしまうと不安になった。
可愛い妹の辛い姿などもう二度と見たくない俺は決断した。
そうだ。妹を超強化人間にしてしまおうと。
俺は天才だったから実行することも可能だった。
当然親にも相談したが二つ返事で許可が出た。俺が言うのもなんだが親も大概だな。
誰にも力負けしない力。
どれだけ運動しても疲れない体力。
どんな時にもくじけない精神。
どんなことも忘れない脳。
あ、容姿については弄らない。だって既に完璧だから。
いつでも改造できる準備は整った。
ここからが問題だ。いや、妹に問題があった訳じゃ無い。俺の問題だ。
中二病をこじらせていたのだろう。普通に妹に改造すると言えばいいのに俺は何故か悪の大総統になりきって宣言してしまった。
「ふははは!妹よ!これからお前は我が組織の改造人間として生まれ変わるのだ!
さぁ、共によりよい世界にするために励もうではないか!」
…ってね?うん。今考えるとすごい恥ずかしい。
妹はこれ聞いて目を輝かせて頷いちゃうし。
そうしてまぁ、なんやかんやあって妹の改造は上手くいった。
ついでに妹に行った改造を俺にも施した。おそろだ。
さらに、まだ不安だった俺は妹の護身用に武器を作った。
まぁ、武器なんて使わなくても妹の体に傷をつけることは不可能に近いのだがもしものためだ。
使い方を説明するために武器を1つ作る度に見せていたら、その都度最大限褒めてくれるのが嬉しすぎて俺は調子に乗って作りすぎてしまった。
現在倉庫に5000個ぐらい収納されている。
ちなみに全て被殺傷である。
そうやって世界征服をするつもりで活動していたのだが、年月が過ぎるにつれ熱が冷めてしまった。
実際、世界制服した後に何かしたかった訳でもないし、当然だろう。
今は家の地下に作り上げた研究所内で研究しているだけで満足だ。
研究所が充実しすぎてここ2年ほど1歩も外に出ていないぐらいだ。
しかし、まぁ。分かるだろう。俺が冷めただけだったのだ。
妹はむしろ世界征服に積極的に動きだしたのだ。
そう、今も忘れられないあの日。春のことだ。
妹が突然俺の部屋の扉を開けて、こう言ったのだ。
「お兄ちゃん!洗脳装置を作って!」
…うん。びっくりしたよね。
前日までは高校に新入生がいっぱい入ってくるから楽しみみたいな日常会話しかしてなかったから特にびっくりした。
あれかな?時が来た的な奴かな?
それとも高校に入ってきた新入生の男に一目惚れでもしたのかとか思ったよ。
お兄ちゃんは許しませんよ。
けど、可愛い妹の頼みだ。特に理由も聞かず作ったけどね。
洗脳装置事態は簡単に作れる。というか基盤はすでにあった。
俺と同程度の科学者とかが現われて妹を洗脳しようとかしてくる可能性も考えたりしたからどんな洗脳も耐えられるように耐性をつける改造をしたからな。それを応用すればすぐ作れる。
お手軽かつ他の人に怪しまれないように不可視のビームが出る仕様にした。
でもまぁ制御装置的なのはつけた。
妹に尽くしたいとか、相手が心から洗脳されたいとか願わない限り洗脳されないように設定しておいた。
これで洗脳が成功することはないだろう。俺は妹を犯罪者にはしたくない。
なに、これで洗脳されるような奴は洗脳装置など使われなくても既に妹に籠絡されているようなものだ。なら問題ないだろう。
妹には装置は出来たが成功率はとても低くそう簡単には洗脳できないかもしれないと伝えておいた。
妹も納得してくれたようだった。
………妹の求心力を舐めていた。
装置を渡したその日の内に1人洗脳してきてしまった。
同じ高校の生徒会長らしい。
男を洗脳してくるのではないかと思っていたけど、女の子だった。少し安心。
え、でもなんで洗脳出来ちゃってるの!?
妹が生徒会に所属しているのは知ってたけど、生徒会長とそこまで深い仲だったってこと!?お兄ちゃん不純異性交遊も許さないけど不純同性交遊も許しませんよ!?
というか妹が全然満足してないんですけど!まだまだ洗脳しなきゃとか言ってる。
そのための組織作らなきゃとか言ってる。妹がノリノリすぎて怖い。
このタイミングで俺にリーダーをしてくれって頼まれるんだよな。
俺は乗り気じゃ無かったけど、妹を放っておいたら何をしでかすか分からなかったからブレーキ役としてリーダーになることにした。
生徒会長さんは戦える力が欲しいので改造して欲しいそうです。
改造するためにはある程度の適性が無いと無理なんだけど…うん。この子は頭脳系の改造しか適性はないな。肉体を無理に改造しようとしちゃうと体の形が変わっちゃうだろう。
幸い本人の希望もそちらだったようで、解析能力を強化してあげた。
透視も出来るし、物体の成分分析まで可能な万能能力だ。
生徒会長さんも喜んでらっしゃる。
ていうか生徒会長さん、兄上殿は素晴らしいですとか尊敬しますとか滅茶苦茶褒めちぎってくるんだけど。妹よ、どんな洗脳をしたんだい?
まぁ、予想外なことも起きたが同じ生徒会のメンバーなのだから親密度が高かったのだろう。そう簡単には洗脳できないだろうし…
とか、考えてたんだけどね。
なんか妹が言うには順調に洗脳出来ちゃってるらしいのよ。
100人単位で洗脳出来てるとか言うから本当びっくり。
なに?なんなの?なんでそんなに家の妹を崇拝している人が多いの?
いや、分かるよ。確かに妹は1億年に1人いるかいないかの美少女だよ。
でもそんなに身を委ねたい人が多いと思わないじゃん?
しかも洗脳した人は地下施設に住み込んでるらしいし。
まぁ、空間拡張されてるから1万人ぐらいは住める広さはあるし、
食料も施設内で育ててるから問題は無いんだけどさぁ。
規模が大きくなりすぎじゃない?
妹はまだまだ満足出来なかったようで、動物を従える装置を作って欲しいと言ってきた。
あの洗脳装置は人用だから動物は洗脳出来ないのは分かっていたが、ついに動物までをも従えようとするとは。猛獣使いでも目指そうとしているのかな?
そうして俺は動物をリラックスさせる装置を作った。
人に猛獣を仕掛けるとなると危険だからね。せいぜいペットにするくらいしか出来ないようにしておいた。
妹にもおとなしくすることは出来るが、言うことを聞いてくれるようには出来なかったと伝えておいた。
俺が自信なさげに伝えると妹も少し残念そうだった。そんなに動物兵を作りたかったのか…。そうだよな。昔から猫とか好きだったもんな。
そんな妹は動物兵を作るという事を諦めていなかった。
妹は自信満々に新しい子達だと言って見せてくれた。
猫耳猫尻尾の生えた小学生ぐらいの女の子を。
…本物の動物じゃなくてもいいんかい!
いや、妹が満足ならそれでいいのよ。猫耳可愛いね。
いや、実は妹は癒しを求めていただけだったのかもしれない。
それでいきつく先が猫耳美少女というのもどうかと思うが。
しかし、この子達とても元気だな。本物の猫みたいだ。
この子達もやはり洗脳されているようで俺のことを天才だとか最強だとかかっこいいとか褒めてくれる。洗脳によってもたらされた結果だとしてもなんか子供の純真な気持ちで褒められると照れてしまうな。
そんなこんな過ごしつつ1ヶ月程過ぎたのだが…。
なんか俺達の組織を敵対視している組織がいるらしいということが分かった。
そらそうなるだろうよ。俺達の組織は人を攫って洗脳していく非道な活動しかしてないしね。正義の組織が潰しに来ているんだろうよ。
妹はそいつらがちょっかいかけてくるのが許せないらしく、あいつらだけは絶対潰すとか言ってるし…。いや、俺達の活動が活動だから仕方ないんじゃないとは思ったけどね。
はぁ…出来るなら妹に危険なことはして欲しくないんだけどなぁ…。
でも、好きなこと好きなだけして欲しいしなぁ。
相手の方が強くて負けちゃったら妹はどうなっちゃうのだろうか?
………もしもの時のためにつくっておいた宇宙船で逃げられるように準備だけでもしとくか。
登場人物紹介
・明野 亮
悪の組織の頭領?である。
この世界の誰よりも優れた頭脳を持っているがその全てを妹の為に費やしているシスコン。
その肉体は妹と全く同じ改造が施されている。妹とのおそろいという気持ちもあったがそれだけでなく強くなりすぎた妹が孤独を感じない用にするという思いもあった。
最近は妹が野心を持って行動していていつか破滅しないか心配になっている。
家の地下の拡張空間は研究するにあたって快適すぎるのでここ数年外出していない。
妹が外で何をしているのかはとても気になるがプライベートを詮索しすぎると嫌われるかもしれないと思い、発信器をつけるだけに留めている。
・明野 福
妹。世界征服をしようとしている。
幼少期に不治の病を治してくれた兄を尊敬している。
世界中の人々を洗脳するという使命に燃えている。
・保坂 寧々
妹の通う学校の生徒会長。
最初に妹に洗脳された。
自ら進んで改造されることを望み、解析能力を手に入れた。
・徳井 咲と実
小学性の双子の姉妹。咲が姉で実が妹。
猫耳がついていてわんぱくなので本当の動物のよう。