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君の瞳で歩んだ僕の恋模様  作者: ガンバッ
3/8

僕は。

時間は刻一刻と過ぎていく。


時計の針を目で追っているところで、軽快なチャイムの音が学校全体に響いた。

短い針は12を指し、長い針は6を捉えていた。

朝から自己紹介やアンケート。これからの予定を説明されたり、特筆すべき事柄はなかったが、幾分か疲れる事をさせられた。


自己紹介を僕だけは会釈だけに着席して終わらせていた。

誰もが茶々を入れようと大きな野次を飛ばす。

それでも僕と担任だけはこの行為が適切だと知っている事もあり、野次を飛ばす生徒に対し、担任は数回の手拍子をしては、その生徒からの野次を辞めさせた。


今日は午後からの授業はなく。午前授業だけで午後から即時帰宅を担任から言い渡されている。


その予定は最初から知っていたが、どうやら新入生に学校案内を計画していたようだ。今年からの導入らしい。



「なぁ。この後どこいく?」


「んー。駅前とかでゆっくりして考えようよ。なんでもあるし」

ぞろぞろと教室を後にする生徒達。

既にいい雰囲気の男女の会話が聞こえてくる。



「カラオケ行こうぜ!」


「ああ。そうだな。久しぶりにいいかもな」

こちらは今朝方、目のあった二人組だ。

やはり、仲が良いようで帰りも二人で遊ぶ場所を決めている。


「はぁ。僕も帰ろう」


本来ならばクラスメイト全員が退室した後に静かに出るか。周囲の者よりもいち早く出ていくかが、僕の決め事であるわけだが、今日に限っては仕方ない。

一番に出て行きたかったが、一人の女子生徒が執拗に話しかけてくるお陰で、頭を伏せて去るのを待つしかなかった。


その結果が、数名生徒が残っているこの頃合いに出ていく事に起因していた。


後悔は先に立たないと先人はよく言ったものだ。



机の横にかけたリュックサックを立ちながら持ち上げ、そのまま出口へと一歩踏み出す。


「ちょっと待ってもらえる」


……と、帰路につくはずだったのだが、そこは今日という日の縁。

朝から最悪なスタートを切った日としては、予想できた展開だ。



「……」

僕は右手の袖を掴む相手に向かって、話しかけるな。と意図した雰囲気を現し、強引に掴まれている手を払った。


「なっ……」

振り払い方に容赦がなく。

相手も戸惑ったのだろう。

パシリと弾かれた手をそのままに驚いた声を上げる。


だからと言って、僕は気にかけない。

自分から手を伸ばしたのだ。弾かれることくらいは視野に入れて行うのが道理。


もう……。僕に関与しないでくれ。



一度止まった歩みは、ゆったりとした速度と裏腹に早足で教室を抜けていった。


あの距離感で起きた出来事だが、僕は相手の顔を見ていない。まあ。僕においては誰であっても関係ないけれど。



辺りはいつもよりも賑わいを見せていた。

電車通学の僕は必ず駅へと向かう必要がある。

しかし、午前中で下校する生徒が多く。どうしても、騒がしく駅前に溜まってしまっている。


髪を茶髪に染めた他校の生徒数名が、僕と同じ制服を着た生徒を捕まえて、何やら大きな声で脅しているのが目に入った。


普段ならば、見たところで対した考えも浮かばない現場だ。

だが、今日この時だけは、思わずいつもなら隠せた感情が溢れた。


……こっちを見るなよ。


「いや」


ごめん。

僕が間違っていた。

あの手の連中に嫌悪するにはおこがましすぎる。



「……」


僕は何もしない

だから、大丈夫。僕は助けたりしない。


僕は何もしてはいけない事を知っている。

だから、そろそろ帰りなよ。



不良と言って差し支えない数名の生徒達の背後に君はいた。

いつのまにか、現れて僕にしか見えない君は、少し正義感ぶった感情を見つけて、じっと僕を見ている。


ごめんね。本当になにもしないよ。だからさ。

……もう、帰ってよ。


拳に力が入る。

次第に眉間に力が入り始める。

少しずつ苛立ちと恐怖が交差する。


「おい!なにしてんだ?喧嘩なら買うぞ?」


……あ。

どうして今日はこんなにも心を揺さぶられてるんだ僕は。



ああ、もしかして僕が睨んでるとでも思ったのかな。

あれ、でも声が違った気がする。


それに後ろから聞こえたような気も。




「はぁ。毎回言ってるだろ。いきなり変なところに首を突っ込まないでくれ」

また、新たに後ろから声が聞こえた。


この声。どこかで最近聞いた気がする。


「いやいや!これは仕方ないだろ?」


ああ。どこかで聞いたと思えば。

そうか。三年も同じクラスだと話していた。彼らか。



「なんだ?お前らも俺に金を恵んでくれんのか?おお。優しいな。お前らのところは」


背後から突然現れた彼らに他校の生徒は、新たに標的が現れた事に、顔を綻ばせた。


ニヤニヤと薄気味悪い表情がこの後の展開を予期させる。

その他数名の他校生もつられるように、二人組ににじり寄った。


修羅場。


そこに思い出したように僕は、この現場から駅のホームへと歩き始め、最後にもう一度他校の生徒へと視線を預けた。

だがそこにはもう、僕を見つめる君の姿はなかった。

あの場にいては、あらぬ誤解を生みかねない。

それに、僕には何も関係のない事象だ。

当初の予定通り、人通りも減っている。



もう、帰ろう。


……でも、よかった。

助けてあげれる人がいて。


僕は結局一度足を踏み留めたもつかの間に、歩みを再開しては帰路につく。それから。とかどうなったか。なんて言う結果を僕はいつも知らない。



電車に乗る手前、車窓に君の姿が反射して見えた気がした。




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