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第8話 女子高生と寝正月した件。

大変遅くなってしまい申し訳ありません!



「……っか〜!」

 おせちをつまみながら、日本酒をちびりちびりとやる……。これこそが正しい正月の過ごし方ではあるまいか!


 ……などとアホなことを考えているのは、もちろん今が正月だからである。

 まるでどこに出かける予定もなく、元旦から酒をかっ食らうあたしはこの上なく平常運転だ。


 ……そして、もう1人。

「……維織ちゃん、年明け早々飲み過ぎじゃない?」

 ごく当たり前のような顔をしてあたしの部屋に居座る女子高生、こちらもまったくもって平常運転らしい。


「別にいいだろ、正月ぐらい」

「いや、普段と大して変わらないから」

 冷静にツッコミをくれる夜空。

「……いや、普段通りならよくないか?」

「普段から飲み過ぎだ、って言ってるの」

「アッ、ハイ、すいません」

 ……まあ、うん、普段から飲みすぎなのは否定しきれないところではある……。




 ……とまあ、元日から平常運行のあたしたちではあったが、1つだけ気になることが。

「……なあ、夜空」

「何? 維織ちゃん」

 目の前で小首をかしげる女子高生……カワイイなぁ、おい!!


 ……じゃなかった、落ち着け落ち着け。

「……家に帰らなくていいのか?」

 そう、この幼馴染み、年が変わる前からずっとあたしの部屋に入り浸りっぱなしなのである。

 いやまあ、泊まること自体はいつもの話だし別にいい。

 ただまあ、いったん帰るぐらいはしたほうがいいんじゃないか、と思ったのだが……。


「ああ、大丈夫だよ。お父さんもお母さんも帰省してるから、家には誰もいないし」

「……え? 2人ともいないのか? ……ってか、夜空をほっといて里帰りか?」

「もう、大げさだよ維織ちゃんは。私だってもう高校生だし、1日2日親がいないぐらい平気だって。維織ちゃんとこに泊めてもらうとも言ってあるし……」

 夜空は手をひらひらさせながらそう言う。

「いやまあ、そりゃそうだけど……」

 いかんな、あたしの中では夜空が『小さい子供』だというイメージが抜けきってないらしい。夜空ももう高校生、しかも春からは大学生なんだから、あんまり子供扱いするのもよくないだろう、気を付けないと……。



 しかし、ふと気になったのが。

「……でも夜空、付いてかなくてよかったのか?」

 なぜ1人だけ帰省しなかったのか、ということだ。

 毎年、一家そろって行っていたはずなのに……。


 あたしのその疑問に、夜空はあきれた顔をして。

「……維織ちゃん、それ本気で言ってる?」

 などと言う。

 ……ん? 夜空のこの口振り、もしかして……、という想いが胸に浮かんだ。

 夜空は、その色白の頬をかすかに染め、やや下に目線をやりながらも口を開く。



「…………維織ちゃんと一緒にいたいからに決まってるでしょ。……言わせないでよ、馬鹿」



 ……あたしの幼馴染み可愛すぎん?




「……お、おう。そうか」

 そう返すのが精一杯。

 むずがゆい沈黙が部屋を埋め尽くしていった……。




 2人して目線をそらしながら、押し黙ることしばし。

 沈黙に耐えきれなくなったのか、夜空が再び口を開く。

 その表情はさきほどとは打って変わって、どこかイタズラっぽい笑顔で……?

「ねえ、維織ちゃん」

「な、な、なんだ?」

 ……いかん、面白いぐらいに動揺してしまった。

 夜空はそんなあたしを見て微笑みながらこう言った。

「……私が帰省しない理由、親に対してはどう言ったと思う?」


 夜空が帰省しない理由……? それはついさっき聞いたけど、親に対しては……と思ったところで、ふと嫌な予感がした。

 まさか……まさかとは思うけど……!

「……夜空、ひょっとしてあたしの名前を」

「うん、出したよ?」

 夜空のニヤニヤ顔は変わらず。

 それを見てあたしのあせりは増していき……。

「ぐ、具体的にはどう……」

「『お正月は維織ちゃんと過ごしたい』ってぐらいかなー」

「おおう……」

 ……こ、これはセーフ……か?

 なんか不審に思われてそうな気もするけど……!


 困惑するあたしを前に、夜空は。

「だってさ……年末年始を恋人(・・)と過ごすのってなんの不思議もないでしょ?」

 またもや爆弾発言を放りこんでくるのだった……。



「……ちょ、待って、夜空。こ、恋人って……!!」

 あまりのことに処理が追いつかない。

 しかし夜空は、そんなあたしに構わず畳みかける。

「いや、いつまでも隠しておくのも限界があると思って。思い切って『維織ちゃんと付き合ってる』って言っちゃった」


「『言っちゃった』……じゃなーい!!」

 本当にこいつは何を……!

 というか、そもそもあたしたちは恋人じゃない……そう言い張るのが最近苦しくなってはきたけど! でも!


 とまどうあたしに対し、夜空は、スッ……と目を細めながら告げる。

「……何? 維織ちゃん。女子高生に(・・・・・)手を出しておいて(・・・・・・・・)、逃げるつもりなの?」

「いや、あの、それは……すみませんっした!」

 ……うん、それを言われると強くは出られない。……どちらかというと、あたしのほうが「された」側だけども!

 でも、この状態の夜空に対しては何も言える気がしない……!



「……それにしても夜空……どういう反応だった?」

 恐る恐る聞いてみる。

 いくら昔からよく知ってる仲とはいえ、夜空が隣家の出戻り娘と付き合ってるなんて言ったら……。

「んー、お母さんは割とあっさり認めてくれたかな。けっこう放任主義だし、まあおおむね予想通り? お父さんにはちょっと色々言われたけど……」

「……そうか……」

 おばさんが認めてくれた、というのは好材料だけど、やっぱり反対はされるかぁ……。

 やっぱりあたしと夜空の関係は、なかなか認められづらいものではあるのだろう。改めて実感してしまった……。


「大丈夫だよ維織ちゃん、そんなに落ち込んだ顔をしなくても、お父さんもちゃんと説得はしたし!」

「説得? いったいどうやって……」

 問うと、夜空は満面の笑みで。

「えーっと……いかに私が維織ちゃんのことが好きかを3時間ばかりプレゼンして――」

「待て。ちょい待て」

「それでも納得してもらえなかったから、徹底抗戦ってことで、認めてもらえるまでガン無視を――」

「だから待てって!」

「――だいたい1ヶ月ぐらい?」

「うおぅ……」

 なんだかおじさんがかわいそうになってきた……。


 ……と、いうか。

「今度からおじさんとどんな顔して会えばいいんだよ……!」

 気まずいことこの上ないだろ……!

「心配ないよ維織ちゃん。ばっちり説得しておいたし、何よりお母さんが認めてくれたんだから大丈夫だって!」

「ああ……うん……」

 もはや反論する気力もなく、あたしはうなずくほかなかった……。



 ……というか、このままだとあたしが決断を迷っている間に詰むんじゃないか?

 夜空に着実に追い込まれている感が半端ない……!




 ……なんだか年明け早々疲れ切ってしまった。

 うん、色々考えなきゃいけないことはあるんだけど、もういったん棚上げにしてしまおう……。

 そう思って、強引に話題を切り替える。


「……ああそうだ、夜空。お年玉をあげよう、お年玉」

「お年玉? うん、じゃあ、ありがたくいただこうかな」

 言いながら、夜空はこちらににじり寄ってきた。

 ……というか、夜空のこの目はまさか……?

「夜空、待って、今出すから」

「いや、お金なんていらないよ維織ちゃん。私が欲しいのは……」

「いやだから待てって! 昨日も『年内最後の……』とか言いながら結局朝まで……」

「うん、だから今から今年最初の――」

「ちょ、やめ、まだ昨日の疲れが抜けきってな……」

「……いただきます」

「ひゃっ! そこはダメだって何度も……あっ、そこもダメだバカ……!」

「ふふ。維織ちゃん、今年もたっぷり可愛がってあげるからね……?」

「……夜空ぁ……!」




***




 ……うん、維織ちゃんの反応は悪くない。

 正直、両親にカミングアウトしたのはフライングにも程があるというか、そもそも私たちは本当は付き合ってすらいない。

 勢い余ってつい言ってしまったことだけれど、維織ちゃんはさほど嫌がっているようには見えなかった。


 ……いける。押し切れる。

 最近はほとんど抵抗も口だけというか……。

 これ、ほぼ陥落寸前なのでは?

 なんだか未だにうだうだ悩んでいるようだけど、これ絶対、維織ちゃんも私のこと好きだよね?

 うん、いける。

 もう少しだけ待って、それでも維織ちゃんが決断できないようだったら、こっちから決めにいこうかな……。

 疲労困憊といった様子で寝入ってしまった維織ちゃんを眺めながら、私はそんなことを考えていた。



 ……あ、維織ちゃんの寝顔は相変わらず天使でした。







はい、ということで1ヶ月ぶりの更新でございます。

大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。

4月中、思ったよりもバタバタしておりまして……。


さて、物語内ではもうすぐ春を迎えます。

高校3年生の夜空にとっては、様々な変化が起こる季節でもあります。

2人の関係性はいったいどうなるのか……。今しばらくお付き合いいただければ幸いです。


……ただし、次回更新予定は未定ですので、気長にお待ちください。(小声)

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