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第7話 女子高生とクリスマスを過ごした件。



 季節は巡り、暦の上では早くも冬の半ばに差しかかったころ。


 ワインをあおりながら、目の前の女子高生をじとーっ、と見つめる。

 もちろん、あたしの部屋に上がりこむような女子高生は……。


「……何? 維織ちゃん」

 ……夜空以外にいるわけもないのであった。



「夜空さー。……こんなとこにいていいん?」

「今更、何を言っているの維織ちゃん。私、もうほぼこの部屋に住んでるようなものでしょ」

「いや、人の部屋に勝手に住むなよ……。まあ、それは確かに今さらだとしても! 今日は……」

 そう、今日は24日である。

 ……12月の。


「こう……さあ、若人(わこうど)のクリスマスってもっとみんなでワイワイしたりとか、そういうことすんじゃねーの?」

「……維織ちゃん、微妙に年寄りっぽい」

「うっさいわ。……だからさ、華の女子高生がな、クリスマスイブに酔っ払いにお酌してるのもどうかと思うんだよ」

 そう言うと夜空は、スッ……と目を細める。

 ……ヤバい、悪寒がする。



「私にとって維織ちゃんと過ごすこと以上に大切なことなんてないし。……それとも維織ちゃん、私以外に(・・・・)一緒に過ごしたい人でもいるの……?」

 据わった目つきでこちらににじり寄ってくる夜空、ていうか顔が近い近い近い!


「待て待て待て待て、ちょっと落ち着け!」

「ううん待てない、維織ちゃんに悪い虫がついてないかどうか確認するのは私の義務だから」

 いや、そんな義務ねーよ! ……とは到底言えない雰囲気。

 ええい! もうこうなりゃヤケだ!


「そんな相手がいるわけねーだろ! ここんとこずっと夜空とばっかり一緒にいてそんなヒマがあるもんか!!」

 ああもう恥ずかしい……。

 けど、こんなセリフを放った甲斐あってか。

「ふうん……。そうか……そうなんだ」

 夜空が落ちついてくれたのはよかったけども。

 自分の髪の毛を手先でもてあそぶのは、昔から夜空が照れているときのクセだ。

 ともかく機嫌を直してくれたようで一安心……。




 しかしまあ考えてみれば、ここ数ヶ月はずっと夜空とべったりだったことに改めて気づく。

 それこそ本当の恋人のように……。

 夜空があたしとそういう関係になることを望んでいるのは確かだ、ではあたしのほうはどうなのか?

 そろそろ、きちんと答えを出さなければいけない気がしている。

 あのデート以来、特に、強く。

 

 夜空は答えを急かすようなことはしないけれど。考えてみればずっと宙ぶらりん状態なのは不安だろう、それはあたしにだってわかる。

 だから大人として、けじめをつける必要があるのだ、きっと。

 ……ただ、肝心のあたし自身の気持ちがよくわからない。

 いい歳をして、なにを思春期のガキみたいなことを言ってるんだとは自分でも思うけど!


 けど、夜空とのことは、納得したうえで決めたい。

 たぶん、同情から付き合うことを決めても、夜空は喜ばない。

 だから、しばらく時間が欲しい。あたしが自信を持って、「夜空が好き」と言えるようになるまで――。

 



 ……と、そこまで考えたところで意識を引き戻す。

 このままでは、なんか難しい顔をしているあたしと、なぜだかニヨニヨしている夜空という、意味不明な空間になってしまう。

 せっかくのクリスマス・イブだ、楽しんだほうがいいに決まっている。


 さっきから照れくさそうにしていた夜空も再起動してきて、パンをかじりはじめる。

 で、あたしはチキンをつまみに安ワインをまた一口。

 まあ、一応クリスマスということでそれっぽく、(夜空が勝手に)買ってきた、クリスマス惣菜一式である。

 ケーキもあるよ! ……という感じ。

 まあ、こういうクリスマスも悪くないか。



 ……ああ、でも1つだけ言いたいことがあるんだった。


「なあ、夜空」

「何?」

「本当に、友達とかと一緒じゃなくてよかったのか?」


 そう、気になるのはそこだった。

 夜空の交友関係はあたしもよく知らない。

 しかし最近、あきらかにあたしと過ごす時間が長くなっている。……ということは、ひょっとして友達をないがしろに……?

 いや、夜空のことだから、クラスメイトとかともうまくやってるとは思うんだけど……!

 過保護と笑いたければ笑え! 夜空のことはいつだって心配なんじゃ!

 ……結局のところ、あたしはまだ保護者のつもりでいるのかもしれない。



「ああ、そういうこと? ……維織ちゃんはやっぱり優しいね、私のことを心配してくれてるんでしょ?」

「いや……まあ、な。うん」

 くすり、と微笑んだ夜空は言葉を続ける。


「確かに最近、付き合いが悪くなってるのも事実だけど……。ちゃんと友達はいるし、仲良くもしてるから大丈夫だよ?」

「……そうか。ならいいんだけど」

 ウソをついていたり、強がっていたりする様子もない。

 一安心するあたしだったが、夜空の言葉にはまだ続きがあった。


「……それにさ、維織ちゃん。クリスマスイブに暇な子って……あんまりいないよ?」

「へっ?」

「彼氏持ちも多いから。だからクリスマスにわざわざ約束したりはしないし」

「おお……そうか……」

 進んでんなぁ、最近の女子高生……。

 あたしが高校生のころはもっと……って、考えると悲しくなるからやめよう。



 ……と、まあ、そこまではよかった。

 しかし、夜空はまた。


「……だから私も、クリスマスは本命と過ごすって言ってあるし」


 爆弾発言をぶっこんでくるのだった……。




「……って、おま……! それって……!」

「ああ、安心して維織ちゃん、流石に詳しいことは話してないから」

「そ、そうか……」

「ただ、『心に決めた人がいる』ってだけだし!」

「おおう……」

 まさか友達にもそんなことを言っていたとは……。


「まあ後は、本当に信頼できる……っていうか、理解がありそうな友達にカミングアウトはしてるけど」

「……おいこら待て、今なんて言った……?」

「維織ちゃんの名前とかは出してないよ、安心して。ただ、『なかなか振り向いてくれない年上の女性がいるんだけど、どうしたらいいかな』って恋愛相談を……」

「いやだから待て! いったいなにを……!」

「んー……。下準備?」

「なんの準備だよ!」

 言うと、ふと夜空は真剣な目つきになって。


「……だってさ。どうせなら祝福してほしいじゃん? あらかじめ話しておいて、それで離れていくような相手ならそれまでだよ。……幸い、理解してくれる子がほとんどだったけど」

「…………」

 あたしはなにも言えない。

「それに、最悪でも維織ちゃんだけいてくれれば、私は平気だし」

 ……けれど、それに対しては反論したくなった。



「いや、それは違うと思うぞ、夜空」

 その目をしっかりと見つめて伝える。

「友達ってのはまあ……いなけりゃいないでどうにかなるけど。でもせっかく友達になったんなら、その縁は大事にしろ」

 あたしが正しいとは限らない、けれど夜空にも知っておいてほしいことがある。


「いざというとき、なにかと助けてくれたりするもんなんだよ、友達ってのは。……少なくとも、あたしにとってはそうだった。……実家に戻ってきたとき、夜空に救われたのは確かだけど、あいつら――智美や美樹にだって助けられた」

 悪友たちの顔を思い浮かべる。そう、夜空にもきっと、ああいう友達が――。


「それに、学生時代の友達ってのは、なんだかんだ長い付き合いになったりするからなぁ……。気に入らないなら縁を切ったっていい、けどなるべく繋がってはおけ。思わぬところで助けになるかもしれない」


 ……ああ、偉そうに説教してしまった……。

 やっぱり、あたしはどこまで行っても「保護者」なのだろう。

 


 けれど、夜空は。

「……うん、分かった。維織ちゃんが1番なのは変わらないけど、友達ももっと大切にしようと思う」

 素直にうなずいてくれた。




 ……ただ、夜空がこれで終わるわけもなく。


「……ねえ、維織ちゃん」

 またしても距離を詰められる。お互いの吐息がかかるほど、近く。

「友達とはもっと仲良くすることにするけど……」

 その瞳に射抜かれると、なぜだか息苦しくなって。

「維織ちゃんとも、もっと……仲良くなりたい、な?」

 そしてそのままあたしの肩に手をかけ――。




 ああ、うん、やっぱりこうなるのね……。





***





 12月25日、クリスマス当日。……の早朝。

「……ふふふ」

 維織ちゃんの寝顔はやっぱり可愛いなぁ……。


 ……でも、昨日は久々にお説教されてしまった。

 けれど、どちらかといえば注意という感じだし、何よりも私のことを大切に思ってくれているからこそ、あんなことをわざわざ言ってくれるんだろう。

 愛されてるなぁ、私。


 ……それが、どうも子供扱いされてるかららしいのは釈然としないけど。

 確かに、維織ちゃんから見れば私はまだまだ子供かもしれない。

 でも。

「……私、もう結婚できる年齢なんだよ」

 ぼそりと、そう呟く。


 まあ、女性同士の婚姻は今の日本では認められていないわけなんだけど、そこはそれ。

 私はまだ大人ではないかもしれない、しかしもう子供でもない。

 だから、維織ちゃんにももっと……。


 ……でも、そんなこと言っている間はまだまだ子供だ、という気もする。

 実際、維織ちゃんは、子供っぽくて、だらしなくて、可愛いところもあって。

 けれど、いざ、という時はとても頼れる大人だ。

 そんな維織ちゃんを見ていると、まだまだかなわないなぁ、という気がしてくる。



 ただ、維織ちゃんは頼りになるところもあるけど、そうじゃない部分もある。

 ……例えば、私との関係については、いい加減に結論を出してほしいかなぁ、とは思っている。


 あのデート以来、維織ちゃんが何やら悩んでいるのは分かっている。

 それはまあ……今まで妹のように扱っていた相手と恋人関係になろうというんだから、悩むのは分かる。

 けど。

「……いくらなんでも待たせすぎでしょ……このヘタレ……」

 ちょっとした意趣返しも含めて、その柔らかいほっぺをツンツンする。

 


 自信はあるのだ。

 維織ちゃんもきっと、私のことが……。

 ……最近、抵抗も弱くなってきたし。


 けれどやっぱり、こう長らくはっきりしないままだと、流石に不安になってくる。

 ずっとこの状態のままでも悪くないかな……と、思ってしまうくらいに。


 ……しかし、いつまでも今のままではいられない。

 先に進まなければいけない時が、きっと来る。

 少なくとも、私はそう思っている。


 もっと攻めてみた方がいいのかなぁ……と考えつつ。

「……ヘタレ」

 私は再びその頬をつついた。







私事になりますが、4月より多忙のため更新が不定期になる可能性があります、ご承知おきください。

ただ、この2人に関しては、何があろうとも最後まで書ききるつもりですので!

よろしくお願いいたします!

結末までの流れはおおむね完成しているんだ……後はそれを書く時間があるかどうか……。

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