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第4話 女子高生とデートした件。前編

ちょっと短めです。



 風がすっかり秋めいてきたころ。

 あたしと夜空は向かい合って座っていた。


「えーっと……。まあ、なんだ、合格おめでとう」

「ありがとう、維織ちゃん」


 場所はいつものあたしの部屋。

 今日は夜空の大学合格祝い……、ってほど大層なもんでもないけど。

 ともかく、合格したんだからとりあえず祝うことにして、夜空を呼び出した。

 ……正確に言えば、夜空のほうが勝手に来たんだけど。

 最近、夜空はあたしの部屋にいないことのほうが少ない気がする……。


 まあそれはともかく!

 大学に合格したのはめでたいことだ。

 ほめてやらねばなるまい!



「いやー、しかしさっすが優等生」

「別にそんな大したことじゃないよ、推薦だから内申さえ良ければ後はどうとでもなるし」

 夜空はそう言うけど、高卒のあたしからすりゃ充分にすごいことだ。

「言っても、けっこういいとこの大学じゃねーか」

「毎年うちの学校からは何人か行ってるからね、私が特別優秀な訳じゃないよ?」

 夜空は謙遜しているが、頬が少しゆるんでいる。

 そういや昔から、あたしにほめられるとうれしそうにしてたっけ……。



「まあそれはともかく……カンパーイ!」

「……維織ちゃん?」

「ほれ夜空、ノンアルコールもあるぞ、飲め飲め!」

「ありがとう。……でもやっぱり維織ちゃん、私の合格祝いにかこつけて飲みたいだけじゃないの……?」

 夜空のジト目が突き刺さる……!


「はははー、まさかそんなー」

「……せめてこっちを見て言ってくれない?」

 ごまかすようにチューハイを一口流しこむ。

「……まあ別にいいけど。維織ちゃん、どうせ毎日飲んでるんだし。私を祝ってくれる気持ちがあるだけでもいいんだけど、ね?」

 夜空は口ではそんなことを言いながらも。



 じーっ。

「……なあ、夜空?」


 じーーっ。

「……夜空?」


 じーーーっ!

「あの……夜空さん……?」


 なんかすごく凝視されてる……!

「……何? 維織ちゃん」

 うおぅ……かなり冷たい口ぶり……。


 ややひるみつつもあたしは口を開く。

「……あのさ。なんか欲しいものとかないか?」

 そう、夜空の合格を祝う気持ちはウソじゃない。

 ……まあ飲みたかったのも事実だけど……。

「……欲しい物?」

「そう、欲しいもの。あたしも働きはじめたことだし、やたら高いもんでもなきゃ買ってやるよ」

 たまには大人らしいとこも見せないとな!



 ……しかし次の瞬間、あたしの脳裏に嫌な予感が走る。

「欲しい物……欲しい物、ね……」

 夜空はそうつぶやくと、薄く笑みを浮かべたのだ……!

「あのー……、夜空さん?」

「私が欲しい物なんて決まってるでしょ、もちろん維織ちゃ」「はーい却下ー!」

 あっぶねえ……油断してた……。


「……駄目なの?」

「ダメに決まってるだろ!」

 この雰囲気……間違いなく冗談じゃない……!

 夜空は本気だ!


「……どうしても?」

「ダメだっての! だいたいあたしはモノじゃないぞ!」

 ヤバかった……。

 最近の夜空、以前にも増してグイグイ来るんだよな……。

 こりゃそう簡単には引き下がってくれないだろうなぁ……。



 しかし、そんな予想に反して。

「そう…………」

 夜空がそれ以上、詰め寄ってくることはなかった。

「………………」

 でもこう落ちこまれるとさすがに気まずい……!

 だからあたしは、つい言ってしまったのだ……。


「ええとさ、ほら、他のことなら! 他のことならいいから!」

 それを聞いた夜空は、ニヤリと笑って……って、ニヤリ?

 まさか……。

「じゃあさ、維織ちゃん。……デート、しよう?」


 ……はい?

「え、デートって……。あのデート?」

「他に何があるっていうの?」

「いや、それはわかってるんだけど、なんであたしと夜空がデートなんて……」


 そう、最近忘れがちだが、あたしたちは女同士。関係性は、まあ、ただの幼馴染み。そう、誰がなんて言おうと幼馴染み……!



「……だめ?」

 ……あ、ダメだ、これ断れない流れだ。

 そんな……そんなうるんだ瞳で見つめられたら……!

 

 あたし、夜空のこの目には弱いんだよなぁ、と思いつつ。

「………………わかったよ」

 承諾の返事をする。

 ……もしかしてあたし、最初から夜空の手の平の上か……?



「……じゃあ、明日でもいい?」

「急だな、おい。まあ別に構わねえけど……」

 えへへ、と微笑む夜空。

 あたしとのデートでこんなに喜んでくれるなんて……。

 胸の奥のほうがキュンとするような……。



 ……って違う違う違う!

 あたしは断じて女子高生相手にときめいたりなんてしてない!


 もだえているあたしを眺めながら、夜空はずっとニコニコしている。

 鉄仮面……とは言わんまでも、ふだんは表情の硬い夜空が、だ。

 まあ夜空がうれしいならいっか、という気持ちにもなってくる。


 そうして、あたしが心のモヤモヤを棚上げした時。

 気づけば、目の前に夜空。

 夜空はここ数ヶ月ですっかり見慣れてしまった、怖いぐらいに艶っぽい目をあたしに向けてきていて……?



 ……ってまさかこれは……!

「……ふふ、ありがとう維織ちゃん、私のわがままを聞いてくれて」

 夜空はそう言いながら、グイッ、と顔を近づけてくる。

「いや別にたいしたことじゃねーし。それより夜空、ちょっと離れ」

「今日はそのお礼に……、たっぷり、可愛がってあげるね?」

「いや待って明日デート行くんだろ、今日は……、あ、そこはダメだって……! や、やめ……!」

 抵抗しようにもできず、あたしはそのまま流されていくのだった……。


 ……最近、どんどん流されやすくなってる気がする。








 ……翌朝。

「…………」

 一晩中、夜空にあれこれされていたせいで身体が重い……。

 しかし、そんなあたしとは対照的に、

「ごめんね、維織ちゃん、やり過ぎちゃったかも……」

 夜空は口では申し訳なさそうにしながら、満面の笑みを浮かべている。

 しかも肌艶は昨晩より良くなっているような……。

 これが! これが若さか!


「……まあいいけどさ」

 別に今に始まったことじゃないし。


 ……いや待て、これって慣れちゃいけないことなのでは?

 ふと思い悩むあたしを尻目に、夜空は言う。

「それじゃあ……今日のデートは午後からにしとこっか」

「ああ……うん。正直、そうしてくれると助かる……」

 本当、夜空はぜんぜん寝かせてくれねぇんだもん……。



「じゃあ……とりあえず13時に駅前集合でいい?」

「おう。……ってあれ? わざわざ外で待ち合せなくても……」

 どうせ向かいに住んでるんだから一緒に行けば……、と言おうとしたら。

「……はぁ〜〜〜」

 ものすごく大きいため息をつかれた……。


「維織ちゃん……分かってない、全然分かってないよ、駄目駄目だよ。まあ維織ちゃんが駄目なのは今に始まったことじゃないけど」

「……なんでそこまで言われなきゃいけないんだ……」

 あたしのぼやきを聞き流し。

「いい? 維織ちゃん。デートっていうのはね、相手に会う前から始まってるんだよ。待ち合わせ場所に向かうまでの時間が大事なの! ……全く、女心が分からないんだから維織ちゃんは……」

「いや、あたし女。あたしも女だから!」

「と・に・か・く! 駅前で待ち合わせ! いいよね?」

「ああ……うん、わかった……」

 結局。

 あたしは夜空の剣幕に押し流されることになるのだった……。

 いや、まあいいんだけど。待ち合わせするぐらい、さ。



 ……そう、この時のあたしは。

 『夜空とデートする』という事実を、あまりにも甘く見過ぎていたのだった……。




***




「……これで、大丈夫……かな?」

 自分なりに勝負をかけるつもりで、服装を整える。

 出来るだけ可愛く、かといって気合いが入りすぎて引かれないように。

 普段はあまりしないメイクも、今日ばかりは……。


 ここ数ヶ月、ずっと維織ちゃんにアピールを続けてきた訳だけれど、最近どうも進展が見られない……。

 というか現在、恋人でもないけどただの幼馴染みでもない、という微妙な関係性に落ち着いてしまって。

 これが不思議と安定していて、お互い居心地がいいというか何というか……。

 でもこのままではいけない……というか、現状維持では私が満足できない。

 じゃあ何が足りないんだろう……と考えた時、気付いた。


 デートをしたことが無い!


 私としたことがうっかりしていた……。

 幼馴染み故の弊害だろうか、改めて維織ちゃんと2人で出かける、という発想が思い浮かばなかったのだ!


 もちろん、今までにも維織ちゃんとお出かけしたことはある。

 今でもまだ、維織ちゃんはかつてと同じ感覚でいるかもしれない。

 けど……私はもう、大人だ。


 『デート』という事実を突き付けて、維織ちゃんにもっと私のことを意識してもらう……!

 いくらあの朴念仁でも、デートとなれば少しは思うこともあるだろう。

 そう、これは勝負なのだ。

 往生際の悪い年上の幼馴染みを押し切って、新たな関係に進むための……!


「……よし!」

 私はもう1度気合いを入れ直し。

 決戦(デート)へと向かうのだった……!




タイトルに偽りあり! ……すみません本当に。

2人のデートの模様は次回になります。

いやー……筆がノリにノリましてね……。今日中に書き上がりそうになかったのですよ……。

出来れば毎週更新を続けたかったので、前後編に区切ることにした次第です。


ただ今週はちょっと忙しいものでして。週末に更新できるか分からない状態です。

上げられなかったらすみません! 気長にお待ちいただけると幸いです!

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