第3話 だんだん包囲が狭まっている気がする件。
続きました。
皆様の応援、感謝です。
「「「カンパーイ!」」」
カチン、と3つのグラスをぶつける。
そしてカシスオレンジをグイっと一口。
そう、あたしは今、飲み会の真っ最中だ。
「ヴァァァー……。この一杯のために働いてる……」
いきなりおっさん臭いことを言い出したのが智美。昔は派手に染めていた髪も黒に戻し、今じゃまっとうな会社員。
「智美は相変わらずだねぇ〜」
こっちのほんわかしたやつは美樹。落ち着いた色の茶髪で、こんなでも教師をしている。
まあ、2人ともあたしの旧友ってやつだ。
どっちかというと悪友……っていうか腐れ縁の方が近いかもしれないけどな。
乾杯がすんで早々。
「……でさぁ、実際どうだったの?」
智美が出し抜けにそんなことを聞いてくる。
「あ〜、まあねえ……」
あれからしばらく経つけど、いまだになんて言えばいいのか言葉に悩む……。
「ムリして話さなくてもいいけどねぇ」
美樹にも智美にも、露骨に気を遣われてるのがわかる。
まあそりゃそうか。
あたしだって離婚した奴にどう声をかけたらいいのかなんて、さっぱりわからない。
「ま、色々あったけどさ。案外、引きずってはないよ。むしろスッキリ?」
こいつらにそこまで詳しく説明する気はない、面白くもなんともない暗い話だしな。これ以上、変に気を遣わせても悪い……。
「……そっか」
「そうか〜」
なんだかんだ長い付き合い、2人ともあたしの思いは察してくれたようだ。
……が。
「なあ維織、もう1つ気になってることがあんだけどさぁ……」
「なんだ?」
「いやぁ……あのな?」
智美が妙に言いよどんでいる。
おかしい……こいつはさっきもそうだったように、たいていのことはズバッと言う。
離婚についてすらノータイムで聞いてきたような奴がためらうって、いったい何を聞くつもりなんだ……?
なんかイヤな予感がする……。
「……な、なんだよ、早く言えって」
「いや……なぁ……」
本当になんなんだいったい!
あたしと智美が膠着状態に陥っていると。
「ねえ維織〜? ……女子高生と付き合ってるってホント?」
美樹が、特大の爆弾を、落とした。
「……へぁ?」
虚を突かれたあたしは一瞬フリーズ。
そのあたしを見て美樹は……。
「……あ〜、その反応は図星?」
「!?」
やっべ……バレた?
つうかどっから漏れた!
「……マジか」
あ、ヤバい、智美にも確信を持たれたっぽい。
「え、ええとだな、その、なんていうか」
まあこんな動揺してたらバレバレだわな!
けど、この関係はあたしたち以外知らないはず、いったいなんでこいつらが知って……。
「ああ、ちなみにこれはねぇ、かわいい女子高生さんに聞いたんだけど。……夜空ちゃんだっけ? 相変わらず美人さんだったねぇ〜」
……って、おいおいおいおい。
ま・さ・か・の!
夜空が流出元かぁーーーい!!
「……いや、悪いけど事の次第を最初っから説明してもらっても……?」
「もちろんいいよぉ〜」
混乱しながらもなんとか聞き出した話によると。
「……え? 夜空にいきなり呼び出されて? そこであたしと、つ、付き合ってるっていきなり言われただぁ?」
予想外の事実……。嘘だと言ってくれ!
「……うん、美樹と一緒に呼ばれてね。……なかなかに熱烈な告白だった」
2人の顔からしてどうも事実っぽい。
よ、夜空……なんでそんなことを……?
「最初はなんの冗談かと思ったけどねぇ〜。あんまりにも真剣なもんだから」
「一応、維織にも確かめてみるべきかと思って」
「飲み会にかこつけて呼びました〜!」
……そうかー。飲みの誘い、てっきりあたしを慰めてくれるためかと思ったんだけどなぁ……。
「……なーんで夜空はそんなことしたんだろ」
そう、そこがわからない。
いや、最近、夜空の行動は予測できないことが非常に多いんだけどね……。
まあ、幼馴染みだからってすべてを理解できるってのは幻想に過ぎない……。それはここんとこの経験で痛感したけどさ!
「さぁ? それは私らには分かんないね。……まあけど安心したよ」
「? なにがさ」
「いやだってさ、維織の件で話したいことがあるって言われて行ったら、『維織さんとお付き合いさせていただいてます!』だよ? 何かの冗談か、さもなきゃ変なことに巻き込まれてるのかもって思うじゃん」
「……そりゃそーだ」
あきらかに不審だよ、夜空……。
何がそこまであの子を駆り立てたんだろ……。
「けど維織の反応を見れば分かるよ。……本当に付き合ってんでしょ?」
「……はぁ〜? ないない、そんなのないって、マジでないから!」
いやさすがにね? 女子高生とどうこうっていうのは外聞的によろしくないっていうか……。
……ってそもそもあたしと夜空は付き合ってない! ただの幼馴染み!
「……いや〜、うそをつくのがヘタなところは変わんないねぇ、維織」
「いやいやいやいや、マジ! マジだってば!」
「……目がものすごく泳いでるよ、維織……」
なんか2人ともあたしをニヤニヤしながら見てきやがって……!
「だいじょーぶだいじょーぶ、私、そういうのに偏見ないから」
「わたしも〜」
友人2人に受け入れられたのは安心材料かな……って違う!
「別に付き合ってないから!」
けどどちらもあたしの言葉には耳を貸さず。
「いやー、思ったより維織が落ち込んでなかったのは夜空ちゃんのおかげかな?」
「だね〜。わたしたちもこれで心配してたんだけど、無用だったみたいだね〜」
「いいじゃん、私は応援するよ? あの娘、きっと維織を幸せにしてくれると思うし」
「そうだね〜。心から維織を大切に思ってるのが伝わってきたし〜」
……いいよもう、好きに言え。
その後あたしは、楽しげにからかってくる悪友どもを前に、ひたすら酒を飲み続けるほかなかったのだった……。
***
「たっらいま〜」
ああ、憩いの我が家!
あたしは2階の自室を目指す。
さすがにちょっと飲み過ぎた……。足元がふらつく。
そんなことを思いながらドアを開けると……。
「……おかえり、維織ちゃん。……遅かったね」
最近、あたしの部屋に居座りっぱなしの幼馴染みが、いた。
「おー、ただいまー!」
足を伸ばした状態で、あたしの部屋に座っている夜空……。けどさすがにもう驚かん。
ここんとこ、夜空がいない時のほうが珍しい気すらするしな……。
「今日も泊まりにきたのか〜? おじさんたちに言ってあるなら別に構わんけど」
「……大丈夫」
「そうかそうかー」
夜空が泊まるってなると、多少そっちのことも考えなくないけど……でも別にいいっていうか……。
…………ってそうじゃない、期待なんかしてないしなんでもない、ただ夜空が望むなら拒否はしないってだけで……ってそれも違う!
……まあいいや、酔ったせいかうまくものが考えられん。
ということであたしは。
「夜空ぁ〜!」
とりあえず夜空に向かってダイブした。
「え、ちょ、維織ちゃん?!」
なんか夜空が動揺してるよーな気がするけどまあいいや。
「ほ〜れ、わしゃわしゃ〜」
夜空を抱きしめつつ、右手で頭を撫で回す。
ほのかなシャンプーの香り。けどそれだけじゃなく、どことなく甘い匂いもする。
さすがにこの歳でまだ香水なんかはつけてないはずだから、これが夜空の香り……?
「……スーハースーハー」
あ〜……。落ち着くわぁ〜……。
「ちょ、ちょっと維織ちゃん何してるの! ま、まさか嗅いで……? い、い、維織ちゃんの変態ぃ〜!!」
夜空がなんか言ってる気がするけど、よく聞こえない……。
「維織ちゃん絶対に酔ってるでしょ! 少し落ち着いて!」
「え〜? 酔ってなんかないにゃ〜ん」
「か、かわ……! ……じゃなくて! とりあえず離れてってばぁ!」
あたしは押しやられてごろごろ〜、と。
突き放されてしまった……。
「全くもう……。飲むな、とは言わないけどもう少し加減ってものを……」
夜空がブツブツ言ってる間に。
「ええい、スキあり!」
今度は夜空の脚に向かってアタック!
「ひゃっ!」
そのまま寝返りをうって、後頭部を太ももに持っていく。
「維織ちゃん、今度は何を……!」
……うはぁ〜、やわらかい。
夜空の脚は、はたから見ると結構きゃしゃに見えたけど、案外しっかりしている。
ほどよい弾力、そして頭を包みこむかのような感触……!
あ〜、これはいいわ。
「最高……」
「いきなり何するの、維織ちゃん……」
なにって……そこに太ももがあったから!
それと……。
「いや〜、前から膝枕ってやってもらいたかったんだよねぇ〜。恥ずかしくてなかなか言えなかったけど〜」
「維織ちゃん……。もう、そんなこと言われたら怒れないじゃん」
「いやははは〜」
いや、やはりこれはいいものだ。
なんで今までやってもらわなかったんだろう。
そのまま、しばらくボーッとしていた。
夜空はどこか嬉しげな微笑をたたえてあたしを見つめている。
「あ、そうだ」
肝心なこと思い出した。
「何? 維織ちゃん」
「あんさ〜、夜空。……智美と美樹に会ったろ?」
そう、夜空の真意を聞いていない。
夜空は表情をわずかに変え、楽しげな顔になる。
「ああ……。私達の恋人関係を暴露した件?」
「いや、恋人じゃない!」
そう、まだ違う……でもない! あたしたちはただの幼馴染み!
「そっか、まだ駄目か」
「そ、そんなことはいいから! なんであんなことしたのか教えろって!」
あたしの問いに、夜空は楽しげな笑みを少し深くして。
「それはもちろん、維織ちゃんのためだよ?」
と、言い放った。
「は……? あたしのためって、それどういう」
「正直に言えば私自身のためでもあるんだけど。……維織ちゃん、女同士だからって悩んでたでしょ?」
あー……。
「まあ、そんなこともあったな……」
「うん。だから友達とかにも打ち明け辛いかなって」
「そりゃそうだけど……。……まさか?」
「と、いうことで。維織ちゃんに代わって私がカミングアウトしてあげた」
「……はぁ〜?」
おいおい、あたしの知らぬ間になにを……。
「私が勝手に言う分には、維織ちゃんにも迷惑かからないかなって。私が変なこと言い出しても、維織ちゃんが否定すればそこでおしまいでしょ?」
「ん〜、まあ、そうなの、か……?」
なんかダマされてるような気もすんだけどなぁ……。
「それにぃ……。やっぱ維織ちゃんの親友には認めてもらいたいなぁ……、って思って」
「そうか……」
……って、うん?
「認めるもなにも、あたしと夜空の間にはなにもないだろ!?」
夜空は珍しくニヤニヤ顔になって……。
「うん、まあそういうことにしておいてあげる。……今はね」
「? なんか言ったか?」
「なーんにも。まあいずれにせよ、誰彼構わず言いふらす気はないから安心して」
「……ああ、わかった」
ホントに安心していいのかな……。
まあ今日のところは納得することにして。
あたしは膝枕を堪能する態勢に戻った。
やっぱこの感触、たまらん……。
そして、大事なことを話し終えて緊張が解けたのか。
あるいは酔いのせいか、はたまた枕が良すぎるのか。
あたしの意識はだんだん――――。
「……維織ちゃん」
夜空が顔を近づけてきたような……。
「……ってあれ? 維織ちゃん……?」
けどもう限界……。
「え。ちょ、まさか維織ちゃん……寝てる? ついさっきまで普通に話してたのに……!」
ああ……こりゃ快眠できそうだ……。
「維織ちゃん……生殺しだよこれ……」
なんか夜空の嘆きが聞こえた気もするけど。
あたしはそのまま夢の世界へと旅立った……。
***
「維織ちゃん……ほんとに寝ちゃったの……?」
維織ちゃんの部屋。
本人は私の脚を枕にすやすや眠っている。
ついさっきまで割といい雰囲気だったと思うんだけど!
ここで寝るってどうなのさ!
全く維織ちゃんはもう……。
凄く近いのに!
そして今日はまだキスもしてないのに!
ここで寝るって……。
まあ、維織ちゃんに膝枕、というのは悪くない気分だ。
冷房が効いているとはいえ、ここまで密着するとやはり暑く感じる。
でもこの温度こそが維織ちゃんと触れ合っている証拠だと思うと……。
それに維織ちゃん、素面だったらここまで素直にやってくれたかどうか。
それらのことを考えると、必ずしも悪いことばかりではない。
けど……。
(物凄く可愛い寝顔なのに触れられない! 触れたら起こしちゃう!!)
そう、ぶっちゃけ維織ちゃんが可愛すぎて辛い。
普段は大人の雰囲気を漂わせているのに、寝顔はどことなく無防備な子供のようで。
維織ちゃんの寝顔、マジ天使。
……正直なところ、そのギャップにムラッときてしまう。
でも触ったら起こしてしまいそう。流石にそれは忍びない……。
(でも可愛いんだよぉ〜!!)
そう、さっきから滅茶苦茶にしてやりたい気持ちを抑えつけるのが大変なのだ。
「う〜〜〜…………」
襲いたい、でも手を出しちゃいけない。
まさに生殺し状態。
「……起きたら覚悟しておいてね、維織ちゃん……」
私は腹いせにそんなことを呟くと、目を閉じた。
……間違いなく寝られる気がしないけど。
夜空、(珍しく)押し倒すのに失敗するの巻。
まだ続く予定です。
1週間ごとぐらいに投稿できればなぁ……と思っていますが、あくまで目標なので実際にはもっとかかるかも……。
気長にお待ちいただけると幸いです。