最終話 そして、結末。
大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした……!
2人の関係、ついに決着です!
3月。
まだ桜も咲いておらず、若干の肌寒さを感じるころ。
穏やかな陽光の下で、あたしは夜空と向き合っていた。
……それというのも、今日は。
「……改めて、卒業おめでとう、夜空」
「ありがと、維織ちゃん」
夜空の卒業式だったからだ。
いまだ花見シーズンでもない公園には、あたしたち2人きり。
そんな中、桜の樹を背にした夜空は、微笑を浮かべている。
……と、何を思ったのか、夜空が突然、その場で一回転した。
「……なんだ?」
「なんだ、じゃないよ維織ちゃん。……どう?」
「……いや、だから何がだよ」
「私の制服姿。……今日で見納めになるんだけど」
「……いや、別にどうってことも……」
その答えは夜空のお気に召さなかったのか、卒業証書入れで頭をポコリ、と叩かれる。
「全く……維織ちゃんはノリが悪いんだから。……私のJKブランドは本日限りなんだよ?」
「ブランド言うのやめい」
「もちろん維織ちゃんが望むならいつでも着てあげるけど……。本物ではなくなる訳だし」
「いや、あたしは――」
「……維織ちゃん、私の制服姿で興奮してたくせに」
「待て、そんなことは……!」
「……違うって、言い切れる?」
「…………すみませんでした!」
いや違うんだ、別に興奮してたわけじゃなくて制服だと余計に背徳感が……ってそうでもなくて!
心の中で必死に言い訳するが、現実として夜空とあれこれしたのは事実なわけで、否定しきれないのがつらい……。
「ごめんね、維織ちゃん。これからは女子大生だから、特に制服とかないし……」
「……人をまるで制服フェチみたいに……」
「違うの?」
「違うわバカ! あたしは制服がどうこうじゃなくて、相手が夜空――」
言いかけたところで言葉を止める。
……いや、これもしかしなくても、めっちゃ恥ずかしいこと口走ろうとしてない? あたし。
案の定、夜空も気づいたようで、ニヤニヤした顔でこちらを見つめてくる。
「維織ちゃん? 私が、何?」
「……な、なんでもない」
「ふーん。へぇー。そっかー」
「………………」
……うおぉぉぉ、ものすごく恥ずかしい……!
夜空のにやけ顔から目をそらし、あたしはそっぽを向いた。
けれどまあ本当に、感慨深いものがある。
それこそ赤ん坊のころから知っている相手が、ついに高校を卒業した、というのは。
ガキのころは7歳という年齢の差もあって、あたしは姉貴分気取りでいろいろと世話を焼いていた。
だから、ずっとそのままの感覚を引きずり続けてもいた。
……でも、今の夜空はもう子供じゃない。
桜の樹の下で、おとなびた微笑みを浮かべるのを見て、そう思う。
……そして、気付く。
夜空が、いつまでもあたしのそばにいる……なんていう確証はない、っていうことに。
1度は、あたしのほうから夜空のもとを離れた。
戻ってきたあたしを優しく受け止めてくれた夜空だけど。
……今度は、夜空のほうがあたしのもとを離れていくかもしれない。
それを思うと、なんだかとても、恐ろしくなって。
……ふっ、と気付いた。
あたしにとって夜空は、いなくてはならない存在になっている、ということに。
……我ながらバカなんじゃないのかと思う。
あたしが夜空に依存しつつあるのなんて、とっくにわかりきっていたことなのに。
あたしはずっとそのことから目をそらしてきた。
夜空は、あたしの中ではずっと子供のままで。いつまでも変わらずにいてくれると、そう思っていた。
……でも違うんだ。
高校を卒業した夜空は大学へ進学する。大学も卒業したら就職――、そうすれば、もう立派な大人だ。
……自分のいるべきところを自分で選び取ることができる、大人になる。
だから、あたしのもとにずっといてくれるとは限らない。
……行動しなくちゃならない。
自らの望む未来を、つかみ取るためには。
――突如として考え事にふけり始めたあたしを、夜空は春のひざしと同じような、暖かな目付きで見つめていた。
それは、あたしのこれからの行動を待っているようで。
……すっかり見透かされているようなのがしゃくにさわる。
けど。
夜空の『姉貴分』としては、期待に応えなくちゃなるまい。
――長らく待たせ続けた、この女の子に報いるためにも。
緊張で固くなった口を、なんとか押し上げるように開く。
「……なあ。夜空」
夜空は、花開くような笑みで答えた。
「なに? 維織ちゃん?」
「ええと……その、だな」
いかん、ここに来て日和りそうだ!?
ダメだダメだダメだ、こんな時ぐらい年上の威厳を見せなきゃ……!
大きく息を吸い、覚悟を決める!!
「夜空! あたしは――お前が好きだ!! 付き合っちぇくれぇ!!」
……噛んだーーー!!! 思いっきり肝心な部分で噛んじまった!!!
「………………あ〜、畜生。失敗した……」
こんな時ぐらいカッコよく決めたかったのになぁ……。
「……ふふっ」
けれど、夜空のいかにもおかしげな笑みは。
あたしを見惚れさせるには充分だった……。
「さーすが維織ちゃん! ここでそう来るなんて!」
言いながら、夜空も緊張がほどけたかのように笑っている。
「笑いたきゃ笑えよ……。どーせあたしは三枚目なんだ……」
本当に、肝心なところで締まらない話だよ……。
けど、夜空は嬉しそうに。
「……いいよ、維織ちゃん。……付き合ってあげる」
そう、答えてくれた。
「けどね、維織ちゃん。いくらなんでも言い出すのが遅すぎない?」
「あー、それはなんというか……すまん」
そこに関しては謝ることしかできない。
「私、かなり長く待たされたんだけど」
「本当に申し訳ない……!」
それはまあ、1年近く爛れた関係を続けながら、一向に告白する度胸はなかったってんだから、夜空もあきれるだろう。
……と、思っていたのだが。
「……ま、いいけど。維織ちゃんがヘタレなのは今に始まったことじゃないし……いざとなればこっちから告白するつもりだったし?」
「夜空……?」
「一応、今日がリミットだったかな。出来れば維織ちゃんの方から言ってほしかったけど、私もこれ以上は待てそうになかったし?」
「……あの、夜空、それって」
「まあ今夜にでも? 押し倒してから結婚することに『うん』って言わせてみせようかなって」
「……え? 結婚……?」
「なぁに維織ちゃん。……今さら私から逃げられるとでも思った? 諦めなよ、私、維織ちゃんのことなら地獄の果てまで追っかけられるから」
その衝撃の言葉に、なぜかあたしは。
「……夜空ぁ」
ぽふん、と夜空の肩口に顔をうずめ、そして――。
「おっと。……維織ちゃん、泣き虫さんだねー?」
「…………」
「だいじょうぶ、私はずっとそばにいるから」
「……あたしをおいていかない? どこかにいったりしない?」
「もちろん! 私は絶対に維織ちゃんを一人きりになんてしないし、させてあげないんだから!」
その力強い笑みに、あたしは――。
「いやー、維織ちゃんの泣き顔なんて、珍しいものが見れたねー」
「……言うなよ」
ブスッとしながら答える。
不覚だ、この妹みたいな幼馴染みの前でガチ泣きしてしまうとは……!
「さっきも言ったけど、大丈夫だよ。だって私達……家族じゃん?」
夜空にはすっかり見透かされていたんだ。
「家族って、ずっと一緒にいるものだと私は思うから……」
あたしが、1人になるのを恐れていることを。
だから。
「……死ぬまで、ずっと、一緒だから」
その言葉は、あたしの胸を射抜いた。
「……さて! めでたく恋人同士になれたところで、今日はもう帰ろっか!」
「……そうだな」
夜空にうながされ、帰路につく。
唯一、悩ましいのは。
「……おじさんとおばさんにどう言おう……」
……夜空の両親へのあいさつぐらいなものだった。
「大丈夫だって! 前にも言った通り、もうすでに説明はしてあるから!」
けど、そんな不安も、夜空の笑顔を見ているうちに霧散していって。
「……そうだな!」
あたしはただ、幸せな将来の夢を見ていた――。
***
「えへへ……」
ニマニマ顔がやめられない。
なにせ……。
「ついに……維織ちゃんと恋人同士に……!」
あのヘタレの維織ちゃんが!
真っ赤な顔をしながらも、告白してきてくれたことが嬉しすぎて……!
「幸せすぎる……!!」
本当に、これ以上長引くようなら、こっちから告白して押し切るつもりだったから、今日のことは嬉しかった。
お陰で夜の方もいつになく燃え上がり――、って、それはともかくとして。
「……けど維織ちゃん、やっぱり不安だったんだな」
私の前では常にカッコいい姉貴分だった維織ちゃんが、あの時見せた涙。
それはきっと。
「……絶対に元旦那のせいだな。呪ってやる……!」
……家族を喪失する、という恐怖。
情の深い維織ちゃんにとって、それは深い心の傷として刻み込まれたことだろう。
だから、私は。
「一生、そばにいるからね? 維織ちゃん……」
それを、長い時間をかけて癒やしてあげたいと願う。
どちらにしろ。
「……もう二度と、逃がさないから……!」
維織ちゃんを手放す気は、全く欠片も僅かにも無いのだから!
そうして決意を新たにし、床についた私は。
2人の幸せな将来の夢を見た――。
3ヶ月もの長い間更新できず、誠に申し訳ありませんでした……!
それにも関わらずお待ちくださった読者の皆様には、深く感謝を申し上げます!
そして、「最終話」と銘打っておりますが、実はもうちょっとだけ続きます。
エピローグの更新まで少々お待ちくださいませ。
今度は何ヶ月もお待たせすることはありませんので! 更新のメドは来週中です!




