第一話 しゃべったぁぁぁあ
王都のとある雑貨店で少女が探し物をしていた。
「ん?嬢ちゃん今回は何をお求めで?」
「魔道書ってありますか?」
魔道書とは魔導師が魔術を行う時、触媒として使う為の物でその他にも多岐に渡り使用出来る便利な本のことである。
さらに
幻想級
伝説級
希少級
一般級
というように階級が存在していて、幻想級にはインテリジェンスウエポンが該当する。
「あぁ.......魔道書ね、あるけどオススメ出来ないなぁ」
「?...どうしてですか?」
「.......この魔道書、誰も使えないんだ」
そう言って店主が持ってきたのは異様な魔道書だった。
誰もが見ただけで恐怖するプレッシャーを放ち、さらにそのプレッシャーに負けない程の存在感がある鎖で閉じられている。
「こ、これは」
「存在感だけは一級なんだがなぁ」
少女に店主の言葉は届いていなかった。
「もってみてもいいですか?」
少女は魔道書に魅了されていた。
「はいよ」
「ありがとうございます」
少女が魔道書を手に取った。
「ッ!?」
その刹那、魔力の奔流が起きた。
まるで封印を紐解いていくように、まるで新たな物語の始まりを祝う様に、神々しい奔流が巻き起こった。
「おいおい........何なんだ、こりぁ」
「.....暖かい」
周囲の人々が各々の反応をする中。
『誰ダ、我ノ封印ヲ解キシ者ハ』
「「.....喋っ、しゃべったぁぁぁあ」」
魔道書が......喋り出した
『我ノ封印ヲ解キシ者ハ誰ダ、ト言ッテイル』
「は、はい.....多分私です」
少女がおずおずと名乗りを挙げると
『フム、汝カ.......コノ魔力、ドウヤラソノ様ダ』
瞬間、魔道書はこれでもかというほどのプレッシャーを放ち問うてきた
『何故、我ノ封印ヲ解イタ、力ヲ欲シタカ?ソレトモ名声カ?』
少女は泣きたかった。それもそうだろう魔道書を探しに来ただけで大の大人が泣き喚き逃げ去る程のプレッシャーを受けているのだから。
少女が泣いていないのは魔道書がプレッシャーを調整して泣けないようにしているのだ。
「わ、私は、魔道書を探してて。私どんな魔道書を使っても魔術が上手くいかなくて、学園では結構有名なんですよ?出来損ないだって.........たはは、笑っちゃいますよね」
少女は偽物の笑顔を貼り付けて笑った。
『......デハ力ヲ欲シタノカ』
「そう、ですね。私は力が欲しいです。皆を見返せるくらいの力が」
『ダカラ我ノ封印ヲ解イタト?』
「あぁ、いいえ。貴方に出逢ったのは偶々で、封印も偶々です」
『ハッ?』
魔道書が間抜けな声を発したと思ったら
『ソンナワケアルマイ。アァ..イヤ,,マサカ..』
と何かを呟き
『ッハハハハハ........ソウイウコトカ』
「?えっと、どうしました?」
『汝........コレダト喋リニクイナ........なぁ、君』
魔道書は喋り方を変え、今までのノイズが入った機械的な声と変わり、聴くものを安心させ思わず聞き惚れてしまう、優しく体に溶け込んでくる声になった。
「⁉︎はっ、はいっ//」
少女は魔道書の声に聞き惚れていた事に気づき少し恥ずかしくなった。
『俺と契約しないか?』
「契約...ですか」
『あぁ、君は見返してやりたいのだろう?力が欲しいのだろう?』
まるで悪魔の囁きの様だ
『君は出来損ないなんかじゃない、君は一流以上の魔導師になれる』
「わ...私が、私なんかが、ほん、とうに、魔導師に、なれるのですか?」
少女にとっては大きな励ましとして、今まで言われなかった、言ってもらえなかった言葉を貰った。
『あぁ、俺が君を導いてあげよう、今まで君が諦めていた道を一緒に歩んで君を立派な魔導師へと変えてあげよう』
「....................っ」
『さぁ、君の望みを言ってごらん』
少女は限界だった、今まで押し込めて来たものが溢れ、彼女は初めて人前で泣いた。
「....わ...私、なりたい.....なりたいです、魔導師に、立派な、魔導師にぃ...」
『君の望み確かに聞き届けたッ』
とある伝説の魔道書が存在する、人々の願いを聞き届け叶えて続ける神をも凌駕する魔道書があると。
『俺の名はグリム・グリモワール』
その魔道書の名を、グリム・グリモワール世界の創世記より存在する最古の、そして最強の魔道書。
出来ぬことは無いと謳われる世界に二つと無い、幻想の魔道書。
その魔道書が、
『君の名は?』
とある不遇の少女に微笑んだ。
読んで下さりありがとうございます。
この後の展開を考えていない見切り発車ですが頑張って行きたいと思います。
誤字やその他のアドバイス、批判等して頂けたら嬉しいです。