レイド戦 KT
今回はヒロ君の視点ではありませんが、全話の最後で観賞し始めたレイド戦の模様です。
本来、レイド戦は一体の巨大なボス、あるいは無数の取り巻きを引き連れた強ボスに対し、最大で50機編成のプレイヤー軍が挑むものである。
だが、今このレイド戦のステージにいるのは、ただ一機のプレイヤー機と一体の巨大なボス、それだけであった。
プレイヤー機の前には、まるで山のように巨大な体格を持った、さながら空中要塞とでも呼ぶべき異形が浮かんでいた。それの全身は至る所に棘のような砲塔が埋め込まれていた。その身体は卑猥ささえ感じる黒ずんだ芋虫そのものであり、見る者によっては外見だけではなくその動きにも生理的な嫌悪感を招き、近くに寄ればその脈動が感じられたであろう。そして、その巨体に無防備に近付けば、あっさりと押し潰されてしまいそうな剣呑な雰囲気があった。
対する機体は、それの巨大さに比べれば如何にも頼りなく見えた。だがその姿は決して卑小な存在ではないことを示す、威風堂々と誇りに満ちた、空の王者と言える鷲を模したものであった。
ただの鷲では無い。
堂々と両の翼を広げたその機体は、通常の進化ではたどり着くことが出来ない、そしてそれまでほとんど誰にもその存在を知られず、誰も見たことが無かった究極進化を遂げたイーグルタイプの機体である。まるで鷲そのものにも見えるその全身は黒みがかった金色で、本物の生物では無いことの証しにその頭部には操縦席が埋め込まれていたが、陽光の反射で内部の操縦者の姿ははっきりとは見えなかった。
アルティメット・イーグルはボスへと向かって加速すると、お互いに射程距離の外にも関わらず芋虫の全身から数多の白い光点が飛んでくる。だが鷲は臆することなく飛び続け、芋虫の側面へと頭を向けた。接近後、鷲は最少の動きで敵の弾を掻い潜りつつ、芋虫の体の側面にびっしりと生えた数え切れないほどの砲身へと、極太の雷撃を叩き込んだ。
雷撃は雷系の最上級武器のデグ・ライトニング・ボルトである。機体本体よりも幅の広い、一本の雷撃が近くの敵へ向かって複雑な軌道を描いて落ちていく。落雷地点の周辺にも小さな電光が迸り、ある程度の被害を振り撒いていく。
雷撃だけでは無い。サブウェポンとして、イーグルタイプは最大で3箇所まで装備が可能であり、当然アルティメットの機体にも3つのサブウェポンが搭載されている。
雷撃の討ち漏らしを見逃さないよう、近くの敵へ自動で追尾する小型ミサイルの弾幕を張るスパローミサイル、着弾地にマグマの池を短時間作り出すマグマボム、そして至近距離でしか使えないが敵の弾をある程度まで打ち消す事が出来るフレアクラウドだ。
いずれもほぼ最上位と言っていい性能を持っている。
単機でありながらも圧倒的な火力で芋虫の体表を焼き払い、敵弾を物ともせず突き進むイーグル機であるが、サブウェポンまでフルに稼働させて一度にそれだけの攻撃を行えば、すぐに蓄積されたマナを使い切ってしまうという弱点も持ち合わせている。そうなればマナ・ジェネレーターが稼働して再びマナを充填させるのを待たなければならない。
だが、イーグルのパイロットはそれへの対策を持っていた。
イーグル機はマナが尽きたところで攻撃を止め、無防備にその体を芋虫の残った砲塔へ曝け出したように見えた。だが、実際にはその機体ギリギリを掠めるように、無数の攻撃を回避していく。決して距離を離さず、あえて機体に当たる寸前で躱していく。
「かすり」というテクニックだが、それにより底をついていたマナは通常よりも早く回復していった。ごく短時間でマナがほぼ最高まで溜まったところで、イーグルの雷撃やマグマが再び獰猛な攻撃を仕掛けていく。攻撃対象が無くなれば、飛んで場所を変えて新たな犠牲を探すだけだ。
それを何度か繰り返すと、巨大な芋虫と言えども頭部に近い砲塔は壊滅状態になっていた。この芋虫の攻略としては、一番ダメージが通りやすい頭部へ集中して攻撃を行うことになるが、体表を隙間なく覆う砲身の雨霰のような攻撃にも身をさらすことになる。
そのため、レイド戦では最初に砲身を叩いてからある程度ブレスゲージの溜まった機体が増えたところで、攻撃の緩んだ芋虫の頭に通常攻撃とブレス攻撃の集中砲火を浴びせていく。レイド戦の特殊ルールとして、レイドボスの弱点、芋虫であれば頭部への攻撃が途切れずに連鎖すれば最大で1.5倍のダメージボーナスがつく。よって、効率的な戦い方としては出来るだけ通常攻撃でダメージボーナスを高めたあと、ブレス攻撃を行うことになる。
だが、イーグルはただの一機である。そのためダメージボーナスはつく事がない。それでも、周辺の弾幕を減らすことで余裕をもって、敵の弱点を狙うことが出来る。全身の砲塔は撃破されても一定時間で再生するため、それまでにどれだけダメージを与えることが出来るかが攻略の鍵になる。
イーグルは芋虫の正面に来ると、そこで機体の進行方向からはほぼ90度の角度を取って、機体を敵の頭部へ向けた。これは、飛行中にあえて一瞬だけ減速をして機首を進行方向とは異なる場所へ向けることで可能になるゲームのテクニックだ。成功すれば、進行方向はそれまでと変わらずに機首だけ向きが変わり攻撃がしやすくなる。ゲームのシステム上、その場に留まっての攻撃が行えないため、ある程度の熟練プレイヤーには必須の知識である。
この状態では、敵の攻撃を回避することが難しくなるが、周辺の砲塔を潰していれば芋虫の正面は安全地帯となる。
機首を向けた直後、イーグルからは先程とは違う攻撃が放たれた。雷撃の代わりに隕石を前方へ向けて断続的に発射するメテオ・ストライク、氷でできた槍を撃ち出すアイスランス、マナを消費しないが弾数制限のあるマクロソル・クロー・ミサイルの3つである。
これこそがアルティメット・タイプの真骨頂である。他の機体では、たとえ特殊進化していようが武器の換装はステージの開始前にしか行えない。だが、アルティメットは、事前に設定しておいた組み合わせへと一瞬で切り替えることが可能である。
そのため、最初は広範囲への攻撃を行う武器、今は少しでも威力が高い武器を使用することで使い分けていた。マクロソル・クロー・ミサイルに関しては威力が必ずしも高い訳ではないが、マナを消費しないため一斉攻撃の際には重宝する武器として選択されていた。
その効果は抜群で、芋虫は周囲を震わすような、低い唸り声を挙げた。これまでの攻撃ではほとんど減らなかった敵のHPゲージが少しは減っていたが、それも全体の数%に満たない。
攻撃が強力であればマナ・ジェネレーターが追いつかないほどの勢いでマナが減っていく。そして敵へと機体を向けていれば、その内そちらへ向かって飛んでしまうため、イーグルはそこで攻撃を停止し、敵の弾が集中して飛んでいる方へと方向を変えた。もちろん、先程の要領でマナを回復しつつ、残りの砲塔も減らしていくためである。
並みの腕前を持ったプレイヤーなら、回避するのが難しいその弾幕の中を、まるで自身の機体は隅々まで知り尽くしていると言わんばかりの危なげない様子で、敢えてギリギリの回避を行いマナを溜める。
そして溜まったところで、余計な砲塔へと雷撃を落とし黙らせて安全地帯を作り、芋虫の正面を陣取る。
作戦は単純、しかし回避が重要となるため、単機で実行できる者はごく少数。
レイドボスの中でも弱い方だと言われるこの芋虫、ブラック・スカイ・クローラーは本来多数のプレイヤー機で編成し、制圧するはずの相手。
それをイーグルは己のみで淡々とこなしていく。友軍がいないことで不足している火力は、強引なマナの回復で補っていく。
まるで蝿のように芋虫の周囲を飛び回り、雷撃やマグマでその体を蹂躙し、頭を潰す。
時間はかかっているものの、その繰り返しは少しずつ芋虫のHPを奪っていき、残りは4分の3、半減、4分の1と減少していく。やがてレイド戦の制限時間を5分ほど残し、とうとうその全身は至る所で、生物でありながらも爆発のようなものを引き起こして最期の瞬間を迎える。
それを見たイーグルは、それまで行わなかったブレス攻撃を初めて芋虫へ向けて発射した。そのブレスは虹色に輝き、イーグルの機体と同じほどの幅に広がり、これがトドメだと言わんばかりに芋虫の頭部を貫いた。
その戦いをスクリーン越しに見ていたプレイヤーたちに、MVPプレイヤーとして『KT』の名前が表示されていた。
非常に中途半端ですが、本作品は勝手ながらここで打ち切りとします。
まともな構成とか考えないで始めたので、話が展開し辛いのと、そこら辺が読者が伸びないことに反映されてるので。
もし本作を楽しみにしておられた方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ないですm(_ _)m




