6 第2エリアと武器屋のお姉さん
お久しぶりの更新です。
いい加減設定が増えてきたので、そのうち設定説明回を書く予定。
エリアボスを倒したことで、第2エリアが解放されたというメッセージがメニューに表示されていた。
「じゃ、早速次のエリアへ行ってみようか」
ロージーの言葉に僕は頷く。
「うん、行こう」
エリアを移動するには、メニュー画面から『移動』を選び、第2エリアをタップするだけでいい。一瞬視界が白く染められた後、元の明るさに戻るとそこはすでに第2エリアだ。
潮の香りがする。なんだか空気も暑い。周囲を見回すと、僕たちは如何にもどこか南の島らしいヤシの木が植えられている広場にいた。建物も南国風の木材やヤシの葉が使われている。通行人は男女問わずアロハシャツとハーフパンツの軽装で、中にはセパレートの水着とたっぷりとした布を使ったパレオを腰に巻いた女性もちらほらいたりする。そんな女性が僕の視線に気付くと、笑顔で手を振ってくれたのでこちらからも振り返した。隣のロージーは僕を見てニヤニヤ笑っている。僕はごしごし眼を擦った。もう一度周囲を見回す。やっぱり薄着や水着の人たちばかりだ。ビバ南国、じゃなくて、ロージーに聞いてみた。
「ねえ、このエリアって」
「びっくりした? 見ての通り、南国リゾートのエリアだよ」
「何だよそれ……」
そりゃまあ、びっくりしたけどね。この国って、確か侵略を受けているんじゃなかったっけ。いつまでも同じところにいると邪魔になりそうなので、僕たちは広場の隅に寄った。
「ところで、メニューから『衣装』が選べるって気付いていた?」
「あ、あれ、『衣装』の中に『第1エリア』ってのがあるだけで、どんな意味があるかよく分からなかったんだけど」
「実はね、エリアを解放するか、課金で衣装が増えていくんだよ。さっきもケイトリンたちの服は、ヒロのと違ってたでしょ? 今なら『第2エリア』の衣装が選べるよ」
確かに3人は、グルジアの民族衣装っぽいのやキノコをモチーフにした衣装といった思い思いの格好をしていた。ロージーに言われた通り、新しく『第2エリア』という名前の衣装が増えていたので、それを選択してみた。今までは如何にも中世ヨーロッパの民族衣装を元に、パイロット風の改造を施したような格好だったのが、衣装を選択すると通行人NPCと似たような青いアロハシャツとハーフパンツの組み合わせに一瞬で変更された。
「おお、本当に変わった」
ロージーもアロハシャツに着替えたけど、こっちは女性用なのかピンク色だ。顔は中性イケメンだけど、「似合ってるね」
「ふふ、ありがとう」
そう言うとロージーは少し照れたように笑った。
「でね、MSVって、エリアごとに環境が違うんだよ。第1エリアはヨーロッパ風の町と平原、第2エリアはこの南国リゾート、第3エリアは火山地帯、第4エリアはメルヘンなキノコの世界、第5エリアは雪の降る町、第6エリアは工業地帯、そして第7エリアはいよいよ魔王のいる魔界エリアだよ」
「いくつか気になるエリアもあるけど、環境の違いって町だけ?」
「もちろんステージも違うよ。ここのエリアだと、ステージの半分くらいは海で占められてるかな」
「へー。海だと何か違うの?」
「第1エリアだと地上にも敵がいるけど、第2エリアはそれが海面にいて、時々水の中に潜ることがあるから少し厄介かな」
「水の中に潜られたらどうなるの?」
「潜っている間は向こうも攻撃してこないけど、こっちからも攻撃が当たらなくなるんだよ」
「魚雷とかは無いの?」
「無いの」
武器の話が出たし、いつまでも立ち話をしてもしょうがないので、僕たちは武器屋へ行くことにした。ロージーによると、「期待していいよ」とのことなので、どんな武器があるか楽しみにしていよう。
広場のほど近い場所に、武器屋はあった。店の前あたりに来ると、プレイヤーと思しき人たちが結構いるね。第1エリアは誰もいなかったのに。
よく見ると、男性だらけの人だかりの中心には女性がいるようだけど、ここからはよく見えない。
「うーん、キサラさん相変わらず人気だなー」
「キサラさんって?」
「武器屋のNPCで、プレイヤー人気の高い人だよ。すごく美人さんで、プロポーションもいいし、気さくな性格で相談にも乗ってくれて、いい匂いもするしで私はキサラさんと結婚したいです!」
「ちょ、ロージー、何言ってるの?」
なんか途中から話ずれた! まさか「期待」ってキサラさんって人のことか?
「やだなぁ、半分は冗談だよ」
「『半分は』冗談なんだね……」
リアルじゃこんな子じゃ無かったはずなんだけどなぁ。
僕たちがそんな取り留めのない話をしていると、人だかりを割って女性が近づいてきた。中々の美人さんだね。わ、周りの男連中が睨んできた。ちょっと威圧されてコワイ。
「あらロージー、いらっしゃい」
「キサラさん、今日もお美しいですね。結婚しましょう」
「あらあら、いつもありがとう。でも前にも言ったけどあたしはまだまだ独身でいたいのよ」
ロージーはキサラさんの手を取って、流れるように愛の告白を行った、って、あれ、僕の立場は? っていうか、いつもの事なの? 僕、目から汗が出そうだよ?
「そっちの彼は初めましてよね。あたしはキサラ、ここの武器屋の店主よ」
「は、初めまして、ヒロです」
キサラさんは軽くお辞儀をして挨拶してきた。ヘソ出しタンクトップの上にアロハを羽織っているだけなので、彼女の動きに合わせて豊かな女性らしさを象徴する谷間が少しだけ見え、いやその、ドギマギしてちょっと噛んじゃった。第1エリアの武器屋の不愛想なオジさんとは大違いだよ。
「今日は新しい武器を買いに来てくれたのかな?」
「あ、はい、さっき第2エリアに到着したばかりで、ロージーに連れてきてもらったんですが何があるのかもよく分からなくて」
「そっかー。んー、属性は知ってるよね? 第2エリアからは、武器屋で売ってる武器と、魔王の軍勢にも属性が付くんだよ」
あ、この世界って本当に魔王に侵略されてるって設定なんだ。ステージ以外じゃ全然分かんないや。
「この第2エリアの街、ポリネロンって言うんだけど、見ての通り海に近いところにあるから、魔王軍も水の属性を内包している、魔属性の連中が多いんだ」
あー、MSVって属性が全部で3つプラス無属性しかないから、RPGでよくある水属性じゃなくて魔属性になるんだよね。キサラさんが続けた。
「魔に強いのは光なんだけど、そもそも光属性の武器は少ないのよね。この店に置いてるのはグリーンレーザーとリングレーザーくらいなんだけど、どっちもマナを使うの」
「やっぱりレーザーなんですね……。で、マナを使うって、どのくらい?」
「そうね、メニュー画面で武器装備時のマナ消費が分かるわよ」
「あ、あれですね」
前にガトリング砲を購入した時にも確認したのだけど、武器屋での購入前にはメニュー画面で、仮装備として装備した状態に出来る。そしてマナゲージが満タンの状態から、武器の発射時にどれだけマナが減るかを機体を俯瞰したモデルが見られるんだよね。ガトリングだと大して消費しないから、すぐにマナ・ジェネレーターからマナが補充されていたけど。
だけど、グリーンレーザーとリングレーザーはどちらもマナを結構消費するようで、グリーンレーザーは途中からマナを使い切ってしまい、マナ・ジェネレーターからの供給が間に合わなくて攻撃が途切れ途切れになっていた。サブウェポンは使えない状態だ。リングレーザーはそこまではいかないけど、もし敵の攻撃をもらってしまったらシールドの回復で使い切りそう、っていうか、回復が間に合わずに落ちそうだよ。ちなみに、値段が高いのはグリーンレーザーで、当然威力も高め。でもマナが不足するんじゃあね。
「ありゃー、これはダメだね。実戦では使えないわ」
僕の隣から覗き込んでいたロージーが言った。顔が近いんだけどリアルとは違ってイケメンになってるからかなあ、あまりドキドキ感は無いや。
「これはマナジェネから買い換えないと」
マナジェネーーああ、マナ・ジェネレーターの略か。
「今のを見れば分かると思うけど、たとえ武器が買えなくなってもマナジェネを優先すべし、だよ」
「そうね、あたしもそっちをお勧めするわ」
ロージーの言葉を受けて、キサラさんが続ける。
「ちなみに予算はいかほど?」
「えーっと、12,000ptってところです」
「それならこっちの2つかな」
キサラさんが僕の開いているメニュー画面から、武器屋の商品一覧よりマナ・ジェネレーターを2つ指し示した。いい匂いするなあ。……じゃなくて。とりあえず今の2つをそれぞれ仮装備した状態で、さっきの武器を選択してみた。5,000ptと、8,000ptの2つだ。
うーん、値段が高い、つまり効果も高い方のジェネレーターにしてみても、グリーンレーザーのマナ消費を賄うのはちょっと辛いなあ。サブウェポン込みで見ても、リングレーザーの方がどうにか使えそうな感じだ。だけど。
「いい方のジェネレーターを買ったらレーザーの予算が足りないよう……」
グリーンレーザーは8,000ptで、リングレーザーは5,000pt。安い方のマナ・ジェネレーターだとマナが不足する。ロージーが言った。
「それなら、マナジェネだけ買って、あとはステージを周回してptを集めるのがいいかな。マナジェネだけじゃなくてシールドも買わなきゃだし」
シールドもかー。そこまで考えるとさらに新しい武器が遠のくなあ。
「ま、必ず光属性の武器が必要ってわけでもないから、他のも見てみる?」
キサラさんの勧めにより、他の武器も見てみると、なんだか見覚えのあるブルー・マナ・バレットという武器があった。あれ、これって。
「このブルー・マナ・バレットって、ぷしゅぷしゅ弾のこと?」
「何、ぷしゅぷしゅ弾って?」
「ほら、最初から使える、ぷしゅぷしゅ音がするヤツです」
僕の質問に、キサラさんは首を傾げていたが、その説明を聞くとクスクス笑った。
「あー、君が言ってるのは、多分グリーン・マナ・バレットのことね」
「グリーン? ブルーじゃなくて?」
「武器の名前に色が付いている場合は、グリーン、ブルー、イエロー、レッドの順に強くなるの。で、この店に置いてあるのは、君がいうぷしゅぷしゅ弾、グリーン・マナ・バレットの上位版だよ」
「……ヒロ」
ロージーは呆れた顔をして僕を見ていた。やだちょっと恥ずかしい。
「うっ……そうなんですね」
「マナ・バレット系はマナをそのまま弾として打ち出す武器で、実は無属性なんだけど、マナの消費は少ないからね。そのかわり最強のレッドでもあまり威力は高くないから、装備を揃える余裕が無い人向けね」
「じゃあ、こっちのグリーン・マナ・ガトリングって?」
「マナ・バレットの上位版ね。マナ消費とお値段は上がるけど、連射速度と威力もその分上がるしこっちの方がお勧めかな」
試しに仮装備してみると、レーザーよりも消費は少なくてサブウェポンも使えそうだ。それと、今装備しているガトリング砲よりも強いらしいし。
他にも色々組み合わせてみて、レーザーに拘らず目標としては効果が高い方のマナ・ジェネレーターとグリーン・マナ・ガトリング、サブウェポンは節約のためミニ……ああっと、ミニガイドボムをそのまま使い続けることにした。今の時点でlv5まで育ってるし。オプション装備はシールド+3%にアップグレードを予定。それと、ミドルへ進化したことで2箇所目のオプション装備が解放されたので、マナブースター+1%も狙いたいな。
「でもその前に資金集めだね」
キサラさんはすでに他のお客さんのところへ行っていて、店内にいた男どものちょっとコワイ視線もそっちへ向けられていたので、プレッシャーも無くなっていた。でもあの人たち、買い物せずに店内で睨みを利かせていたら、迷惑にならないのかな。
「オッケー、わたしも手伝うよ……って言いたいんだけど、そろそろ夕食の時間が近いから今日はお終いかな」
「ホントだ、もうこんな時間」
メニューに現実の時間が表示されているので、今の時間はすぐにわかる。もう夕暮れ時なので、それに合わせてポリネロンの町の空も茜色に染まっていた。
「今日は家族揃って外で食事することになってるから、今日はもう無理だけど、明日は大丈夫だよ」
「そうなんだ、楽しみだね」
「うん」
ロージーの家って、家族みんな仲良しさんなんだって。
「ヒロはどうするの」
「うーん、そうだなぁ。やっぱり早めに装備を整えたいから、あとでもう一回ダイブインしてみるよ」
「ソロで大丈夫?」
「そこら辺を確かめるためにも、一人で挑戦してみるよ」
「分かった。もし無理そうなら、ケイトリンたちに手伝ってもらえるか聞いてみるといいよ」
「そうだね、そうするよ」
ケイトリンちゃんたちとは、さっきでフレンド登録してもらえていたので、ルミルミちゃんの素材集めが一段落しているなら一緒に回ってもらえるか頼んでみることにするけど、出来れば一人でチャレンジしよう。
僕たちはお互いに労いの言葉をかけてダイブアウトした。
リアルパートは書きません。
次回は新キャラが出る予定(は未定)。




