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マジック&スカイ  作者: 安良久 理生
6/9

5 新しい出会いとボスへの挑戦

 台風被害に遭われた方には、お見舞い申し上げます。


 前回から時間が空いてしまいましたが、なんとか次話の投稿です。また属性設定を追加したので、2話目以降を修正しました。

 僕とロージーは酒場に来ている。別にお酒を飲みに来たわけじゃない。というか、未成年者はお酒を飲めないようになっているし、そもそも風味だけで酔っ払うことは無いらしい。じゃあ何しに来たかというと、お酒以外にもジュースや食事の提供はされているので、ステージ攻略に疲れた人たちがよく休憩にくるのだ。僕たちもオレンジジュースを飲みながら、サンドイッチに手を伸ばしていた。残念ながら、いずれも味はあまり付いていない。


「スコアアタック楽しかったけど、結構難しいね」

「あれは腕試しって意味があるから、割と難しく設定されてるんだよ」

「ふーん。ところで、さっきから何やってるの?」

 僕と会話する傍らで、ロージーは何やらウィンドウを操作していた。

「ちょっとね、船団のメンバーとチャットしてんの」

「船団っていうと、RPGで言えばギルドみたいなやつ?」

「そうそれ。そろそろみんなにもヒロのことを紹介しておこうかなって。みんなすぐに来てくれるみたい」

「え、それって船団への勧誘?」

「違う違う、新しくゲーム始める友だちにいろいろ教えるってことで、他のみんなと離れたからさ、ヒロとみんなを会わせようかなって思って。大丈夫、みんないい子だよ」

「そっか、気を使わせちゃったね」

「いいって、誘ったのは私だし」


 ロージーは笑って手をパタパタと振った。ちょうどいいタイミングなので、僕は前から気になっていたことを聞くことにした。

「ねえロージー、聞いてもいいかな」

「ん、なに」

「ロージーが僕をこのゲームに誘った理由って何かなって。いや、誘われたのは嬉しいんだよ。でも、その、あんな事があった後だから、やっぱりどうしても気になるっていうか……」


 答えにくい質問かもしれないけれど、片想いの相手に告白してフラれて、落ち込む暇もなくゲームに誘われて、よく考えるとこれってどういうことなのかが理解できなくて。

「そうだねえ………。本当はね、告白された時、少し嬉しかったんだ」

 でも、ロージーからは意外な答えが返ってきた。


「私でも、誰かに好きだって言ってもらえるんだなって、嬉しかったけど、君と恋人同士になるってことは考えられなくて。でも、話していて楽しい友だちだから、これからギクシャクするのは嫌だったし。それなら、同じゲームを一緒に遊んで、ちゃんと君のことを見てみようかなって。そうしたら私の気持ちに変化があるかもしれないし、もしかしたら君が私のことを嫌いになることもあるかもだし」


 君のことを嫌いになんてならない、そう言ってしまいそうになったけど、彼女はきっとそんな言葉が欲しいわけじゃない。だから僕は、それが正解かは分からなかったけど、こう応えた。

「ありがとう、誘ってくれて。たとえ君の気持ちが変わらなくても、僕は君の友だちを止めたりしないよ。だから、ゲームで一緒に遊べるなら、今はそれでいいよ」


 ロージーは一瞬だけ驚いたような顔をしたけど、すぐににぱっと笑顔になった。

「えへっ、こちらこそありがとう、よろしくね!」


 リアルと違ってイケメン風美女なのに、妙に可愛らしくてドキッとしてしまった。二人して照れ笑いをしていたら、声をかけてくる人がいた。


「あ、いたいた、やっほーロージー」

「お、みんな来たね」


 どうやら今来た三人の少女が同じ船団のメンバーらしい。一人は今声をかけてきた、ツリ目で赤毛のポニーテールだ。いかにも元気なスポーツ系といった感じを受ける。その後ろに続く二人目は、青髪のウェーブヘア、残りは銀色のショートヘアだ。いずれも美少女と呼んでいい可愛い人たちだね。


「そこの彼が新人さん? 結構カワイイね」

 ……僕までカワイイって言われた! そう言われないようアバターをいじったのに!

 ロージーも僕が外見にコンプレックスを持っていることは知っているので、ちょっと困ったように笑いながらも僕たちを紹介してくれた。


「彼はヒロ。んでこっちの赤毛の子はケイトリンだよ」

「ケイトリンでーす、よろしくね」

「こちらこそよろしく」

「んで次、青髪の子はルミルミちゃん」

「あ、あの、初めまして、ルミルミです」

「ヒロです、よろしくおねがいします」

「最後、銀髪の子がフユキ。ちょいクール系だけど、怖くなんかないからね」

「最後のは余計。フユキです、よろしくねヒロ君」

「うん、こちらこそよろしくねフユキさん」


 クール系と言われたけど、フユキさんは柔らかく微笑んで挨拶してくれた。おお、なんかぐっと来るいい笑顔だ。

 僕たちは同じテーブルについて、酒場のウェイトレスに追加の注文をした。


「ねえねえ、ヒロ君は機体は何使ってるの」

「今のとこはドラゴンだよ。さっきミドルになったから、このまま使っていこうかなって思ってるんだ。みんなは?」

「ウチはイーグルをメインにしてて、もうグレートまで進化してるよ」

「おー凄い。ねえ、イーグルってどんな機体?」

 ケイトリンはイーグル使いだということで、使い勝手を聞いてみた。


「ドラゴンだとバランスがよくて初心者でも使いやすいし、ビーストは足は遅いけど火力は高いし耐久力もあるからゴリ押しもしやすくてオススメなんだけど、イーグルはねー。スピードは速い代わりにちょーっと打たれ弱いし、火力もイマイチで手数で押すことになるからどっちかというと上級者向けかな。いや、楽しい機体なんだよ? 最終進化したら武器やオプションの装備箇所が一番多くなるし。あ、機体属性は魔ね」

 ケイトリンの後をロージーが引き継いだ。

「イーグルって火力が低めだから、ソロだとボス戦が長引きやすくてね。射程範囲が広い武器が多いから、ザコ相手には他のタイプよりも強いんだけどもサポート機扱いされることも多くて、地雷って言われることがあるんだよ」

 なるほど。


「えとえと、私はドラゴンです、本当はスピリットにしたいんだけど、まだ素材が集まってなくて、ハイドラゴンのままなんです」

 今度はルミルミちゃんだ。どうやら彼女はあがり症というか、少し落ち着きがないというか、若干顔を赤くしながら喋っている。

「スピリットっていうと、特殊進化のやつ?」

「はい、それです。公式サイトの動画を見たら、スピリットの使うブレスが凄い神秘的で、私も使いたくなったんです」

「ああ、あの動画は僕も見たよ。人型に変形して、体が半透明になってうっすら輝いてキレイだったね」

「ですよね! 私もそれでスピリットに憧れて、絶対これに進化するんだって決めました!」

 ルミルミちゃんは勢いよく叫んだ後、大声を出したことに気がついたようで少し恥ずかしそうにしていた。


 普通の機体なら、ブレス攻撃時に人型へ変形なんてしない。変形するのは特殊進化した機体で、ブレス攻撃中の変形は一時的に体が大きくなって被弾しやすくなるため、実は派手な見た目以外のメリットは無い。今のところ特殊進化先として公式から発表されているのは、メカ、デーモン、スピリットの三種類になる。メカのブレス攻撃中なんかどう見ても巨大人型ロボットだ。

 ノービスからミドルへは機体のレベルアップだけでいいけれど、ハイ以上からは、ステージで敵を倒すとドロップする素材を集めて進化する。特殊進化は確か、条件を満たすことで行けるようになる隠しステージのボスを周回してドロップ素材を集めたはずだ。


「ってことは、やっぱりスピリットの出る隠しステージを周回しているの?」

「はい。ロージーちゃんたちにも手伝ってもらってるんですけど、どうもリアルラックが低いみたいで集まりが悪いんです」


 ショボンとした感じでルミルミちゃんは肩を落とした。そこにフユキさんが声をかける。

「大丈夫よ、確か素材の残りは欠片があと2個だけでしょう? 私たちも一緒にやるから、続けてればすぐに揃うって。あ、私はドラゴンのメカ進化をしたわ」

「えっメカドラゴン? いいなあ、僕も目指そうかなあ」

「いいわよメカドラゴン。ブレスはカッコいいし、威力と攻撃範囲もバランスの取れた武器が多いから扱いやすいしね。でも、機体属性がかねで固定されるっていうのはデメリットかな」

「ああ、確か金は魔に弱いけど、魔属性の武器って種類が多いからだね」

「そ。でもメカに進化させたいなら、お姉さんが手伝うわよ」

 お姉さんって、僕とほぼ同い年に見えるんだけどな。

「きゃー、それじゃあ私のメカ進化に付き合ってー」

 ロージーがいきなりフユキさんに抱きついたんで、ちょっとビックリした。

「……仲いいね、君たち」

「あなたはもうグレートまで行ったでしょう」

「じゃあじゃあ、私もドラゴンをメカまで育てるー」

「はいはい、その時は手伝うから離れなさい」

 ロージーはそのまま自分の頭をフユキさんにゴリゴリと押し付けてうらやま、じゃなかった、じゃれついている。フユキさんは少し邪険にロージーをあしらい、ケイトリンちゃんはただニコニコ笑い、ルミルミちゃんはアワアワしている。なんだか彼女たちの関係が分かってきたような。


 それから僕たちはしばらく雑談を続けていたけど、そろそろステージに戻ろうかという話になった。

「私たちはルミルミとスピリットのステージに周回行くけど、ロージーはどうする?」

「んーどうしよっかな。もしヒロがこのあとボス戦するなら、そっちに付き合うよ」

「いいの?」

「もちろん」

「じゃあ悪いけど、一緒にボス戦お願いできるかな」

「任された。ってことで、私とヒロは第1エリアのボスステージに行ってきまーす」

「いってらー。んじゃウチらはスピリットに行っきまーす」

「あ、よろしくお願いします!」

「それじゃヒロ君、またね」


 ケイトリンちゃんたちに別れをつげ、僕とロージーは待機ルームに跳んで、そこでロージーからボス戦の心得を受けた。

「ボスと言っても、第1エリアだからそんなに強くは無いよ。変な攻撃もしてこないし、ミドルまで進化してたら倒せるはずだよ。もし無理でも、私がアシストするから頑張って」

「わかった。出来るだけ僕一人で倒してみるよ」

 多分ロージーの機体だとあっさり片付きそうだけど、 それじゃただの寄生プレイだしね。

「あとはザコ敵だけど、ここまでに出てきた例の蚊とか、遅い弾を撃ってくるやつだけだからこっちも大丈夫のはずだよ」

「それなら問題ないかな」


 僕たちはパーティ状態であることを確認し直してから、それぞれメニューよりボスステージを選択する。あ、BGMは他のステージとは違うのか。なんか緊張するような曲だね。

 例によってキャノピーにステージの目標が表示される。最初は体当たり攻撃をしかけてくる大きな蚊、ビッグモスキートを6体、次に蚊となんかよく分からない黒くて四角いフライボックスの混成部隊を全滅させればいよいよエリアのボス、モスキートの親玉であるブラックモスキートの出番のようだ。……まさかボスの攻撃は体当たりってことは無いよね。


『ヒロ、出来るだけブレスのゲージを貯めといた方がいいから、私はあまり手を出さないからね』

「うん、分かった。でもいざとなったら、助けてね」

『そこは安心してちょうだい』


 僕たちの前に、3体ずつ集まっている2つの蚊のグループが現れた。さあ、いよいよステージ開始だ。

 まずは挨拶がてらに、毎度お世話になっているサブウェポンを発射。弾は遅いけど狙いを付けなくてもいいから楽なんだよねこれ。えーと、ミニガイドボムってやつだ。……だからこれ、魔法で生成してるんだよね? そろそろ慣れてきたけど。

 お、進化直前だと2発で倒していたのが1発で済んでるや。武器のレベルも使いまくったから5まで上がってるし。あ、メインウェポンのガトリング砲が買ったばかりだからlv1だった。照準がちょっと面倒だけど、これも使って育てないとね。って、そんなアップになったらコワイって! あ、ちょ、シールド減った!


 途中少し危なかったけど、無事に6体の蚊を倒したので次の目標が登場。今度は蚊2体と空飛ぶ黒い箱1個の組み合わせを2回倒せばいいんだね。蚊はさっきまでと同じだけど、箱は中心にある核のようなパーツを光らせてふよふよ漂いながら、スピードの遅い弾を撃ってくる。箱単体だと大したことは無いんだけど、蚊が後ろに控えているから早めに倒したいな。

 ガトリングも育てたいので、箱を照準に捉えて攻撃。合わせてなんたらボムも発射。ちょうど蚊が突っ込んできたけど、近くの敵へ勝手に飛んでいく小型の円盤爆弾が迎撃してくれた。ガトリングの弾が何回か当たって箱は消滅したけど、その前に黒い弾を撃ってきた。だけどスピードの遅い弾なので、余裕で避ける。それを2セット繰り返して、ついにボスとのご対面だ。


『ヒロ、いよいよボス戦だけど、用意はいい?』

「大丈夫、ゲージもあと少しで満タンだよ」

 空気が揺れて、何も無かった空中に一際大きな存在が出現する。さっきまで戦っていた蚊よりも大きい。確かドラゴンタイプの機体全長が18mくらいだったと思うけど、その2倍以上はありそうだから大体40から50mってとこだろうか。ブラックモスキートというだけあって、全体がほぼ真っ黒だ。


『普通の蚊と違って、体当たりはしない代わりに遅い弾を撃ってくるから気を付けてね。あとこいつはその場をあまり動かないから、基本のヒットアンドアウェイで』

「わかった、ありがとう」


 幸いにも、ここまではロージーの手はアドバイス以外は借りていない。敵弾を避けつつ、ちまちま攻撃してブレスのゲージをマックスまで持って行こう。

 ボスを正面に捉えらたら、ガトリング砲と何とかボムを発射。ボスも何発か弾を放って来た。弾っていうか、ねじれた棒のような形をしている。大きい代わりに遅いので慌てなければ簡単に回避できそうだ。

 あまりボスに近づきすぎるのはマズイので、ある程度距離が近くなったところで一旦機体を右へ旋回し離れる。十分離れたら再度ボスへ機首を向けて攻撃。その間、ロージーはずっと上空で旋回待機中だ。これを何回か繰り返したところで、ブレスゲージが溜まったことをメッセージが知らせてくれる。


「ゲージ溜まったよ。次で仕掛ける!」

『了解、気をつけて』


 もう一度旋回し距離を取る。正面にボスが来る。ボスのHPゲージは2割ほどしか減っていないけど、

「これで決める! いっけええぇぇぇー!!」

 気合を込めて僕はブレス攻撃のボタンを押した!

 ドラゴンの口からブレスの光がまっすぐ伸びていく! そしてブレスが当たったボスは急激にHPを減らしていく!


 やがてブレスが終わったけれど、ボスはあと少しのHPを残してまだ生きていた。

「しぶといね。でもこの程度なら」

 ボスが最後の足掻きとばかり弾を撃つ中で、僕はガトリング砲と小型ボムを連続発射する。ボムはスピードが遅いのでガトリングが先に命中する。ブレスのあとで少し冷静さを欠いたのか、敵の弾が1発当たってしまったけどシールドはまだ半分以上残っているのでこのまま強引に突破する。しまった、シールドの回復用にマナが取られているため少しガトリングの連射スピードが落ちているな。だけど今のテンションのせいで離れるのが嫌だったので、ギリギリまで突っ込むことにした。


『ちょ、ヒロ、無茶しないで! 回避して!』

 ロージーが叫ぶが無視する。敵のHPは残り僅かだ。きっとイケるはずだ。

 ボスの弾がまた当たりそうになったので、機体を傾けて回避する。その間もずっと攻撃を続ける。視界の中でボスが大きくなる。近くなった分弾の密度が上がる。軽く機体を動かして回避する。ボスがまた大きくなる。シールドの回復が完了してマナが武器に回って来た。ガトリングの弾幕が厚くなる。ボスが大きくなる。回避する。連射を続ける。ボスの体が白く光って、撃破に成功したというメッセージが流れる。


「い……い、いやったー!!!」

 僕は大声で叫んだ。操縦席の中で両手をあげてガッツポーズを取った。気がつくと、町の転送ポイントでガッツポーズをして立っていた。

「ちょっとヒロ、さっきのは本当に危なかったよ!」

 隣にいたロージーに怒られてしまった。

「あーゴメン、なんだかテンション上がってワーってなっちゃって、突っ込んじゃった」

「もーダメだよ、倒せなかったらぶつかって大ダメージを受けて、下手すれば一発ゲームオーバーなんだからね」

「あっはは、それは危ないね」

「もう、笑い事じゃないよ。まあ私のミサイルが間に合ったんで無事倒せたけどね」

「……え、マジ?」

「マジ。私の攻撃が間に合わなかったら、ヒロはボスとぶつかってたよ」

「そっか、ありがとうね」

「別にそれはいいんだけどね、最初から危なかったら助けるつもりだったし。でも無茶はダメ」

「……はい、反省してます」

「分かればよろしい」

 そっかあ、最後はロージーの攻撃で倒してたのか。むう、周りが全然見えてなかったよ。

「……でも」

「でも?

「このゲームって楽しいね、ロージー!」


 僕は笑顔でロージーに伝えた。なぜかロージーはドギマギした様子で「う、うん」と頷いていた。

 次回の投稿も、また一週間くらい空くかも。

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