4 進化とスコアアタック
その後ステージを2つクリアして、機体のレベルが5に到達した。これで僕のドラゴンは、最初の段階であるノービスから次のミドルへ行けるわけだ。
「でもノービスの次がミドルって、なんだかなー」
「ミドルの次のハイまで行って、やっと一人前ってところだからね。私は前にも言ったようにハイの次のグレートビーストだよ」
僕たちはロージーの先導で、町の進化ショップに向かっていた。進化ショップ、進化屋と呼ぶ人もいるけど、NPCが経営している施設であり、機体を進化させられるのはここだけだ。武器屋は町のあちこちで見かけるけれど、あまり進化の頻度は高くないためか、町ごとに一カ所しかないらしい。実際、今も店の客は僕たち二人だけだ。
「さあ、着いたよ」
ロージーが指さす先に、『進化ショップ』と日本語で書かれた看板を掲げた店があった。うん、町並みや住人という設定の通行人NPCはヨーロッパ風なのにこれは違和感が半端ないな。通行人は話しかけても微笑んで「こんにちわー」しか言わない、ホントにただの賑やかし要員の通行人役だ。
「あいよ、いらっしゃい」
出迎えてくれたのはこれといった特徴のない中年男性だ。気のせいだろうか、なんだか暇そうだな。
「あっ、えっと、機体の進化をお願いしたいんですけど」
勝手が分からず、どぎまぎしながら僕は尋ねた。
「じゃあメニューから進化したい機体を選んでくれ」
店主がそう言うと、目の前に機体一覧のメニューが開かれる。その中からドラゴンをタップ。すると進化先として、『ミドルドラゴン(無属性)』と進化費用として1,000ptかかることが表示された。このptというのは、実はステージで獲得したスコアのことだったりする。
ptも十分なことを確認して、僕は『ミドルドラゴン(無属性)』を選択する。
「はいよー、ミドルドラゴンへの進化でいいんだね」
「あ、はい」
「はいよー、それじゃこれで進化完了だよ、あんがとさん」
「……え?」
進化が完了したってメッセージは出たけど、このおじさん、何もしてないように見えるんだけど。ロージーを振り返ると、彼女は笑って言った。
「進化って、一瞬で終わるんだよ」
「……ありがたみとか、達成感とかが何もないね」
「まあ、少し残念だけど待たされずにすむわけだし、私はこれでいいかなと思ってるよ。さて、機体が進化したからには、オプション装備も一カ所選択可能になったはずだよ」
「あ、ホントだ」
「武器屋もすぐ近くにあるし、行ってみようか」
「そうだね」
武器屋の店主も、やっぱりこれといった特徴のないおじさんでした。
「他の町だと美人のお姉さんがいたりするけど、最初の町はこれだからねー」
ロージーが苦笑しながら教えてくれた。最初の町でくすぶってないで、早く次へ進めってことかな。そんな面白味のない店の中で、僕は魔力弾よりは強い、ガトリング砲にメインウェポンを変更した。武器によっては、氷の弾やら雷やら属性の付いたいかにも魔法攻撃っぽいのもあるらしいけれど、ガトリング砲ですかそうですか……。
オプション装備には生存率を少しでも上げるため、シールドの1%強化を購入。先の町ではもっといいものが買えるらしいので、それまでの辛抱だ。あと、シールドとマナ・ジェネレーターも機体が進化したので、いいのが買えるかなーと思ったんだけどこの町には売ってないんだって、残念。機体の進化は装備箇所以外には攻撃力と防御力しか増えないので、色々買い替えなきゃだね。
「この後はどうする? このままボスまで行っちゃう?」
「うーん、さすがに今はそこまではいいかな。それよりもスコアアタックがしてみたい」
「どうして?」
「だって、進化した機体が使えるんでしょ?」
スコアアタックは、プレイヤーが育てた機体ではなくて、公平を期すために全員同じ機体と同じ装備を使用することになる。つまりプレイヤーの実力が物を言うのだ。僕のドラゴンだって進化したけど、スコアアタックの機体は4段目、グレートになるらしいのでどんな強さなのか気になるじゃないか。ああ、これで初心者プレイヤーのモチベーションを高める目的もあるのかもね。
「そだねー、じゃ私も一緒にやろっかな」
僕たちは再度待機ルームへ跳ぶ。特殊ステージもここから行けるのだ。今日は平日なのでレイドステージは開催されないけれど、スコアアタックのステージは常設だ。今の期間で使える機体は、ドラゴンの4段目であるグレートドラゴンの無属性に、おお、雷系の武器のサンダーボルトだって。雷系は金属性だね。サブウェポンは前方へ発射されるタイプの小型ミサイル、マナを消費しない代わりに弾数制限がある強力なクローミサイル、オプション装備はマナの回復速度が8%アップするマナブースターと、武器の射程距離を15%伸ばすロングレンジ・アシストだ。シールドとマナ・ジェネレーターは多分強いやつだと思う。この機体を使って、世界中のプレイヤーとスコアのランキングを競うのだ。プレイ時間は10分、ランキングと機体は5日ごとにリセットされ、上位プレイヤーには特殊素材や賞金、名誉を示すカップが報酬として与えられるので、少しは賞金、まあptのことなんだけど、それが貰える5,000位以内を目指したい。
僕たちはそれぞれメニューからステージを選択し転送される。個人戦なので、パーティを組んでいてもステージでは一人になる。今僕はグレートドラゴンに乗って、仲間もなくたった一人でこの大空に挑もうとしているのだ。
さあ、グレートドラゴンよ、その偉大なる力を我に示しお前を従える我の翼としてふさわしいところを見せてくれ給えよ、ふわははははは!!
………ごめんなさい、ちょっと調子に乗りました。
グレートの機体、というか操縦席はあまりノービスと変わらないみたいだ。操縦席はカスタマイズが可能なのだけど、僕はまだいじっていない。この機体もほぼデフォルトのようだ。外観も操縦席の片隅に立体で表示されてるけど、なかなかいい面構えになっている。全体的に少し鋭角的なフォルムだ。
ステージを構成するフィールドはノーマルとさほど変わらない。キャノピーに『ステージ開始』と表示されると共に、視界には無数の敵が出現し空を黒く染めた。大地にも沢山の魔獣が蠢いている。
「い!?」
何あれ、聞いてないよー!!
全方位を囲まれているわけではないけれど、ああそうか、この機体だとあの群れにも対処可能ってことか。ブレスが使えればスコアの大量獲得も夢ではないね。よーし、やってやろうーじゃないですか!!
僕は気合を入れて、機体を加速するーーことはせず、青い稲妻と小型ミサイルを発射する。いや、だって、少しでも敵を減らしておきたいし。地面に見える敵はこの際無視することにした。爆弾が無いので攻撃するには機体の向きを変えなくてはならないしね。メインウェポンであるサンダーボルトの名に恥じず、稲光と共に雷鳴が鳴り響き機体を震えさせた。おお、さっきまで使っていたぷしゅぷしゅ変な音の出る武器よりずっとカッコいいね。攻撃はギリギリ射程距離内にいた敵に届いたようで、先端が複数に細かく枝分かれした稲妻に触れた敵が消滅し、ミサイルの爆発も見える。ブレスのゲージがほんの少し溜まって、スコアもアップしている。
「ようし、これならイケる」
やっぱりグレートの名前は伊達ではないようだ。その場でホバリングのように停止することは出来ないため、敵との距離は少しずつ近づいて行くが、この機体なら心配ない。そう思った直後、機体が大きく揺れてシールドが減少する。
「え、なになに?」
どうやら地面にいる敵が対空攻撃を仕掛けてきたようだ。マナ・ジェネレーターがうなり声を上げてシールドを回復させ始める。が、これを切っ掛けに次々と敵の放った黒い魔弾による攻撃がシールドを削っていく。機体性能のおかげか、シールドはすぐに回復していくけどマナも減り続けており、連続で被弾出来るほどの余裕はあまり無い。空中の連中まで加わったらマズいことになりそうだ。
仕方がない、先に眼下の敵を叩こう。機首を下げて今度はクローミサイルで攻撃する。他の武器だとマナを消費してしまうからだ。全弾を撃ち尽くすと敵陣に空白地帯が生じた。弾数制限がある武器は、一定時間経過で弾数が回復するのだがしばらくは使えないだろう。その代わり敵の攻撃も少し収まったので、その隙にサンダーボルトをバリバリ撃ちまくる。それでゲージがマックスになったので、早速ブレスを使う。
「おお、これスゴい!」
グレートのブレスはノービスよりもずっと太く輝き勢いがある。射線の先にいた連中はあっという間に数を激減させた。ブレスが終わる頃には、地上の敵は半分以下になっていた。
「これ気持ちイイー!!」
残った分は放置して、空の敵へと向かう。って、もうこんな近くまで来てたよ、飛んできた燃えてる弾に当たったよ。そりゃこっちの攻撃が当たる距離だしね、敵の弾だって当たるよねー。むう、またマナが減ってくなあ。シールドを回復させるにも、攻撃するにもマナがいる。シールドの回復を優先すれば敵は減らせず、かと言って攻撃するとシールドの回復が遅くなって全損の危険が高くなる。よし、ミサイルはマナの消費が少ないようなのでこれを周囲に撒き散らしたら一旦距離を取ろう。
って思ったんだけど、敵さんもそんなに甘くはないですよねー。残った連中から怒涛の攻撃を受け続け、ガリガリシールドを削られてステージ開始から3分後には撃墜されましたとさ。とほほ。ランキングも5,000位以内は無理そうだよ。僕と違って、ロージーは制限時間の10分をフルに使い、ランキングの3,000位台に着けていた。むぅ、世界の壁は厚いなあ。
チュートリアル的なお話は今回までの予定です。
次の投稿まで少し時間がかかる予定。
いい加減キャラクター増やさなきゃ。
属性を追加したので、一部表現を修正しました。




