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マジック&スカイ  作者: 安良久 理生
2/9

1 僕がゲームを始めたワケ

「お疲れさまー」

「うん、本当に疲れたよ……」

 やっとステージをクリアして、空の操縦席から地上の町へと転送された僕たちは、お互いに労いの言葉をかけた。せいぜい十分程度のプレイ時間だったのだけれど、シューティングゲームなんてVRでは初めてだったので、なんだかとても疲れた気がする。

「どうだった、初めてのMSVは」

 MSVとはこのゲーム、『マジック&スカイ』(Magic&Sky)のMSと、VRのVをつけた略称だ。海外で使われていた略称が、日本でも使われている。

「やー、すごかった。RPGは前に遊んだことあるけど、空を飛べるゲームって初めてだったし、自分から敵に突っ込んでいきそうでびっくりしたよ」

「でしょー」

 僕はロージーに笑いながら答える。


 僕はつい数日前、彼女にリアルで告白をした。

「好きです、僕と付き合ってください!」

 僕たちは同じ学校に通う高校生で、クラスも同じだ。彼女は特に目立つでも、地味でもないごくふつうの少女だったが、顔はそれなりに整っていて美少女と呼んでいいと思う。席が近く、よく話しているうちにどんどん彼女が好きになっていった。

 夏休みを迎える少し前に、誰もいない教室で勇気を出して彼女に告白をしたのだ。そして返ってきた言葉は。

「ごめんなさい」

 彼女は少し困ったように眉を下げ、そして頭を下げた。

「………うん、いきなりこんなこと言われたら困るよね、僕こそごめん」

 もちろんフラれたことはショックだけど、それでも夏休みを彼女と一緒に過ごせたら、そう思っていたのだ。だから、彼女の続く言葉にはびっくりした。

「恋人とかは無理だけど、君とはこれからもお友達でいたいな。それでもいいかな」

「え? う、うん、もちろんだよ」

「良かったー」

 彼女はほっと胸をなで下ろしたようだ。

「いや、こちらこそ良かったよ」

 僕は嬉しくなって、笑顔になった。我ながら現金ではある。

「それでね、ちょっとしたお願いがあるんだけど」

「え、なに?」

 そして彼女のお願いとは。

「ちょっとね、女装してみない?」

「………は?」

「女装」

「ごめん、ジョソウってなんだっけ」

「女の格好をすること」

「やっぱりそれなの?」

「それなの。だって君、割と女顔してるし」

「だーっ、それ気にしてるのに!」

「そうなの? いいじゃない、似合いそうだし」

「絶対やだ! 女装なんてしないよ!」

「ウィッグだけでもいいから」

「いやだよ! 絶対そこからエスカレートしていきそうだよ?」

「当然じゃない」

「当然? 今当然って言った?」

「大丈夫、絶対似合うから」

「似合いたくないよ!」

 なんで告白して玉砕直後にこんなアホで悲しい会話をしなくてはいけないのだろうか。

 しばらくそんな問答を続けていると、彼女が言った。

「じゃあ、ゲームの中だけで女装するのでもいいよ」

「ゲームの中でも女装はしません!」

「えー、女性型のアバターでプレイする男性って結構いるじゃない」

「いると思うけど、僕はいやなの!」

「髪をのばしてみるだけでもいいから」

「まあその程度なら……って、やっぱりそこからエスカレートするよね?」

「大丈夫、ゲームのアバターって、一度決めたら修正できないわよ」

「あ、そうなんだ。それくらいなら、まあいいかな……」

「そして現実ではウィッグをかぶることに抵抗感が無くなることを期待します」

「期待しないでよ!?」


 女装も女性型アバターも却下したけど、同じVRゲームで遊ぶっていうのは僕にとってもやぶさかではないことなので、彼女のいう『マジック&スカイ』というVRゲームを購入することにした。すでにフルダイブできるVRゲーム機が世の中に浸透して何年も経っており、僕が所持しているハードでも遊べるゲームで、学生の夏休みを狙ってのことだろうが割引キャンペーンも行われていたのだ。だから僕の小遣いでも足りるし、今まで遊んでいたVRのRPGにも少し飽きてきたところだったのでちょうど良かった。


 で、アバターを作って今日初めてMSVにダイブインしたのだが。

「なんで男の格好してるのよー!!」

「ちょ、男なんだから当たり前だよね!? だいたいそっちも何それ?」

 僕はリアルのもやしと違って、細マッチョな男性アバター。彼女もやっぱりリアルと違って、まあ一言で言えばヅカ系というか、キリッとカッコいい姐さんのアバターだった。

「だってこっちのが女の子にモテるし」

「え」

「君って女顔でカワイイのに、もったいない」

「いや、そんな恨めしそうに言われても」


 もしかして、彼女って女の子の方が好きなのだろうか。そして僕は顔だけで選ばれたのか。

 彼女の意外な趣味らしきものを初めて知ることになったのだが、無事僕たちは二人で一緒にゲームを始めることにした。僕は初心者だが、彼女はすでに二ヶ月ほどプレイしている中堅とのことで、彼女、プレイヤー名ロージーからいろいろ手解きを受けることにしたのだ。

「なんでロージー?」

「フィーリング。君は本名からとってヒロ、か」

「もう使われてるかなーと思ったけど、大丈夫だったよ」


 こうして僕たちの空の冒険が始まったのだ。


「ねえ、今からでもアバター作り直さない?」

「まだ言うか!!」

書けたので次話投稿。

作者のアホな部分がにじみ出た気がする。

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