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金の翼は闇を翔び  作者: たまねぎごはん
9/9

朝露の民-1

緑豊かな木々の生い茂る美しい森。

そこには朝露の雫で目を覚まし、星の瞬きと共に眠りにつく小さな国「プリムローズ」があるという。

ある時は花と言葉を交わし人々のオーラを理解し整え、またある時は木々の声を聞き未来の予言を語り継ぐ。

森を愛し花を愛でるフォリア族が暮らしているという。


「オルテンシア、起きなさい!朝だわ!急いで!」

バンバンと枕元を叩く音。

耳元で起こそうと必死に声を掛けてくる。

それだけではない、騒がしく足音までバタバタされては重い瞼も開くしかない。

「解った、ホーザ。解ったからそんなに騒がしくしないで。頭でぐわんぐわん鐘が鳴ってるみたいだから」

「4つの目覚ましを鳴らし続けたんだもの。それは寧ろ当たり前だわ」

「…」

嘘だろ?という自身の疑問を目線で投げ掛ければ腕を組み、呆れた様子で首を振る妹のホーザ。

「とにかく、もうすぐ朝露の時間よ。寝ぼけるのも程々にしておきなさい」

朝露の時間。

プリムローズでは朝9時になると「神木の聖堂」で一日の幸福を願う。

その神木は古くからこの森にある大樹で朝露を受け取れば幸せの恩恵を受けられると言われている。

私としてはそれの為に早起きさせられるのは正直納得しがたい。

風習みたいなものだから拒否権がないのが嘆かわしい。

一つ嘆息すれば仕方なくいそいそとパジャマから着替える。

「え、またその服?ちょっとはおしゃれしないとだわ」

まだかまだかとう玄関から様子を伺うホーザ。

服のセンスは人それぞれだし文句は受け付けない。

お気に入りの紫のスカーフを巻けば玄関へと向かう。

「急いで、あまり時間もないし神風に乗りましょう」

神木には不思議な力がある。

幸福を受けられるのもあるがこの神風も神木の力だ。

不思議な事にプリムローズのどこからでも何故か神木に向かう風が吹いている。

「今日は初めて使う布よ!丹精込めて織り込んだのだから!」

意気揚々と広げた布には黄緑の下地にアゲハ蝶の模様が織り込まれていた。

ホーザは織物を得意としている。

そして神木への風にはこの蝶の模様が入った織物でしか乗ることができない。

それが絨毯だろうがスカーフだろうがハンカチだろうが関係ないみたいだが、重要なのは"プリムローズの民が手掛けた蝶の織物"だという。

"いってらっしゃい""気をつけてね"

庭の花や木が見送る中、織物は風に吹かれ舞い上がる。

「まったく、毎日の日課だというのにどうしてこう寝坊ばかりできるのかしら」

ぷんすか隣で頬を膨らますホーザを見ないように流れる景色に目を向ける。

季節は春。

今から咲く花の蕾が朝日に向かい頭を垂れている。

新緑の芽も少しずつ準備を始めているのか枝が青い。

自然とフレッシュな気持ちになれば程なくして神木の大樹へと舞い降りた。

ギリギリ間に合ったのかまだ辺りは賑やかだ。

「おはようオルテンシア。今日は寝坊しなかったのか?」

驚いたように声を掛けてくるのはパルドブロム。

いつも昼過ぎに家に来ては大抵寝坊で遅れる私に説教垂れる古くからの友人だ。

「それは私のお陰と思いなさい!たまには起こしてあげる愛と優しさ尊べば良いのよ!」

自信満々に胸を張るホーザを余所に私は朝露の時間の行われる白の遺跡へと踏み込んだ。


白の遺跡。

神木の大樹を祀るため、フォリア族の祖先が遠い昔作ったと言われる神殿だ。

大理石で作られた床は朝日を受ければ反射し遺跡の中を神秘的に照らしている。

上から見れば八角形の形をした建物は神殿の大樹の前に広がる湖の上にまるで浮いているかのように建てられている。

天井を支える大きな八本の柱には金の装飾が施されまわりには緑の草や鮮やかな花が植えられた鉢植えが置かれている。

「無視するなんて酷いじゃない」

「ホーザのその自信は何処から涌き出てくるんだ」

ドタバタと追いかけてくるホーザに呆れながら後につくパルドブロム。

神殿の一番奥、そして神木の大樹に一番近い場所には少し段差があり新芽と木のみを象った像が鎮座している。

祭壇と言われるそれにいつも御子様が朝露の雫を神木の大樹から授かり民に配る。

雫を浮けとるのはフォリア族が全員身につける"フォリアの首飾り"だ。

これは葉っぱの形をした小瓶になっている。

大抵夜には蒸発して無くなりそうになってしまうが何故か朝にはまだ微量だが残っている。

祭壇と神木の大樹を繋ぐのは大きな蓮の葉が連なる自然の橋。

白の美しい髪を揺らし、エメラルドに光る不思議な瓶を両手で抱えその橋を渡るのは御子であるプリムラ様だ。

「そろそろ時間ですわね。いつもあの神々しさには尊さを感じます」

何に感動しているのかうっとりと頬を赤らめるホーザを余所にパルドブロムはフォリアの首飾りを服の中から取り出す。

「俺達にはこんな小瓶でも全員に配るにはあれだけ大きな瓶じゃないと入りきらないんだよな」

プリムラ様は身長的には150cmを少し上回る程度で、とても大きくはない。

エメラルドの瓶はプリムラ様の身体をほとんど隠してしまっている。

朝露の量も相当であろう事は容易に想像できる。

祭壇上に到達すれば既に集まったフォリアの民に一礼しプリムラ様は手を広げる。

「皆様、良い目覚めを迎えた朝に、今日も幸福を願い神から賜る朝露を、どうか受け取ってくださいませ」

にこりと微笑めば祭壇に並ぶ民の首飾り一つ一つに朝露を取り分ける。

私たちも習い列に加わり朝露を受け取る。

自然と身体に力が漲るのを感じれば一日がやっと始まった、と各々は己の務めへと足を向かわすのだった。

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