裏路地の占い師-4
光を見つけても決して導かれてはならない。
光は人々の希望であり、人々の願望であり、未来に確立するとは限らないからだ。
光は清く正しく善なるものであることに代わりはないが、継続することはできず必ず崩壊が決定している。
闇を見つけても決して踏み入れてはならない。
闇は人々の欲望であり、人々の本能であり、誰しもが陥る可能性を秘めているからだ。
闇は苦しく悪しきものであることに代わりはないが、継続すれば己が命をも落とす事になる。
光と闇の対を描いたこの文に、僕は興味を惹かれた。
一見誰しもがそう唱えるであろう光と闇の例えは、しかし大抵お金持ちの大富豪だったり政治家やどこかの社長など上に立つ人しか口にはしない。
もちろん光を目指す、言わば希望を目標にしている謳い文句だ。
だが、この文面は違う。
光にも闇にも属さない。
そう呼び掛けているようだった。
「察しがいいじゃないか、君にしては良く気づけたものだね」
濡れた髪にタオルを乗っけてドアにもたれ掛かる彼女はバスタオル1枚しか身に纏っていなかった。
恥ずかしさのあまりの赤面しテーブルに向き直る僕を見れば可笑しそうに笑い歩み寄ってくる。
「その文言は"刻の観測者"である為の決まり文句さ。要は目の前に起こり得る事実をそのまま理解し、そのまま記せ、情に流されるな。そういう類いの"試験"だよ」
笑いながらわざと僕の視界に入ればちらりと上目遣いを寄せてくる。
暗い裏路地では解らなかったが歳は18歳程度、透き通る白磁の肌に何でも見透かされそうな空色の瞳は僕の反応を楽しむように此方を捉えていた。
「これに反論でもされれば失格。いくらアタシが気に入ってもそれは覆らない。欲があれば観測者にはなれないのだから」
観測者
紫の光に包まれる時にもその言葉を聞いた。
それは一般的に変化があるものを記録していく者の事だ。
「そうさ、観測者。それは決して情に流されずそして干渉もしない。ただ移ろう変化を記憶し書き留めていくのさ」
彼女の言葉を真剣に考えれば反応が貰えず面白くないのか、それとも飽きたのか彼女は残念そうにドアへ向かう。
「そして嬉しい事に君はその"試験"に合格した。さすがはアタシの見込んだ観測者だね」
肩を落としつつもその声音は自信に満ち溢れそして嬉しげに弾んでいる。
「ようこそ、新たな"刻の観測者"。今日から君は狭間の民だ」
背を向けたままバサリッとバスタオルがストンと落ちる。
露になる艶やかな背に完全に釘付けな僕を余所に、彼女は鼻歌混じりに廊下へと姿を消した。