裏路地の占い師-2
何が物足りないのか。
それを考える程、趣味も特技もない私。
思えば周囲からも特に何かに誘われることもなく、いつの間にか30を過ぎていた。
仕事は不満があるわけでもなく、かといって楽という訳でもなかったが辞める程ではなかった。
「貴方は何が楽しいのかしらね?」
頬杖を突けば艶っぽく溜息を吐く占い師。
きっと世に男性として生まれた者なら鼓動も高鳴るようなシチュエーションだろう。
座っている為身長はよく解らないが長い睫毛と深い闇色を秘めた瞳、金髪で柔らかくウェーブのかかったセミロングの髪。
魅惑の言葉を紡ぐのはほのかにピンク色を放つ唇で占い師にしているのは勿体ない容姿だった。
二房の髪が何かグラデーションになっているのもチャームポイントといえるのだろうか。
「…人を観察している場合なのかしら?」
そんな私を察したのかジト目で見上げてくる占い師。
どうやらかなり心を読むのが上手いらしい。
観念して自分の事を考えるとする。
しかし、あまりにも何もないのだ。
自分に関する感想が。
「でしょうね。自分に無頓着もいいところよ?ここに来るお客さんっていうのは大抵、野望があったり理想が高かったりってね。高望みの人ばかりだったのだけど。貴方はその逆。何もないの」
しっかりと目を見られれば思わず目を伏せる。
それはつまりなにもないと言われているのと同じだからだ。
「そういう、運命なのかしらね?」
容赦なく上司と同じ言葉を突きつける。
全くその通りだった。
動かない運命。
自分ではもう変えられないのかもしれない。
普通のサラリーマンで趣味はテレビ鑑賞。
なんとなく恋人くらいはほしかったけれど、そんなご縁もないわけだしこのまま独身なのかもしれない。
諦めがついているのか特に悲しくもならない自分にまた思い知らされる。
生きることへの頓着がここまでないなんて。
「変わりたいとは思わない?」
変える必要性が解らない。
「それはまだ何も知らないからだと思うのだけど」
そんな冒険をしたところで根本的に変われるとは思わない。
「冒険しなければ成長もないというのに?」
身長も伸びたしちゃんとサラリーマンにだってなれた。
著しい成長ではないけれど成長してない訳じゃない。
「…屁理屈ばかりね。つまらない男」
「!」
クイッと顎を押し上げられ真っ直ぐに瞳を見抜かれる。
「あまり甘い事言ってるから何も変わらないのよ。悩む事さえ放棄したままだなんてそれこそ無価値だわ。いい加減なさい?貴方が今の状況にこだわりがない事はよく解ったわ。お蔭で貴方を引き入れる事に躊躇なんていらないことがわかったわ」
引き入れる?
なんの事だろうか。
私はこのままいつものように帰宅してテレビを見るつもりなのだけれど。
「残念だけど元の生活に貴方を帰す気は全くないわ。感情を伴わない、観測者として貴方に同行してもらう」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべれば
「喜びなさい。アタシに目を付けられるなんて滅多にないのよ?」
どうやらかなりの自信家なようだった。