裏路地の占い師
つたない文章ですが自分の作りあげる物語をうまく表現できれば、と思います。
運命はきっかけを作る架け橋でしかない。
一様に「決められた運命だ」等と好き勝手言う人間が割りを占めているけれど、僕は“なんにもしていない”んだ。
だから
「定められた運命とか言うの、辞めてもらえない?」
.........
繁華街のざわめきと立ち込めるような熱気。
賑わう喧騒は“生きる”を表したように嬉々として鮮やかな色を放っている。
そんな繁華街を横目に一筋。
寂れた立て看板に古めかしい「占い」の文字が踊る。
人は疎らで駆け足で急ぐサラリーマンの裏道となっているここでは、そんな看板もただの障害物と化している。
鞄が当たれば憎らしげに舌打ちをする程度で目にすることもない。
この「仕事に疲れた私」以外には。
「お兄さん、疲れているのかい?」
妖艶に微笑みながら声を掛けてきた「自称占い師」は信憑性も無さそうだが、今の私には何かにすがらなければ倒れてしまいそうでそっと前の椅子に腰かけた。
思えばほんの数日前までこの看板があることすら認知はしていなかった。
きっかけは昨日の夜。
上司に言われた他愛のない一言。
「32歳にもなって女の話もろくに出てこないなんて、そういう運命だったんじゃないか?」
日頃から仕事はさらりとこなし、社交的な上司は勿論自分の時間を作るのも上手かった。
幼い頃に憧れたロボットのプラモデルをようやく自分でも作る事ができた、だの高校で入っていたテニス部時代を思い返しては気づけばジムで筋力作り。
人当たりの良さから友達も多く多趣味な上司は本当に人生を“生きて”いた。
そこまで大きくないうちの会社は給料が多い訳でもなく、上司もそうお金をたくさん持っているわけではなかったが何事にも行動的だったのだ。
そんな上司にかけられたその一言。
いままで特に熱中する物事もなく、何となくついているテレビをみれば流行りものを確認する程度で自分から欲しいとはあまり思わなかったり。
かといって個性があるのかといわれれば、どこにでもいる成人男性で、普通の賃金にテンプレートな一人暮らしのアパートの一部屋。
夏になればクーラーにお世話になるし冬になれば炬燵も出すが借金なんてものもなく、納金を怠ったこともない。
自分で言うのもあれだが背は172cmで今の時代じゃそう驚かれない身長にノーマルな顔。
特徴があるとすれば眼鏡くらいか。
つまりは魅力もなければ悪くもない。
モブ的存在が女性にみてもらえるか、といわれればそういうわけでもないのだ。
そうしてはたと気づくのは「果たしてこれを“生きる”というのか」だった。
仕事で苦労していない訳じゃない。
だけどなんのために働くのかと言われれば決定的には「現状維持」。
良くもなく、悪くもなく。
もしも上司のいうようにそれが...
「運命だというのなら、どうして生を受けたのだろう?でしょ」
「!!!」
驚きを隠せない私を見透かしたように微笑む占い師はスッと目を細めて言葉を紡ぐ。
「ふふ、当たってたみたいね?あまり信じてくれてないみたいだったから少し占わせて貰ったの」
にっこり笑えば目の前の水晶玉を指差せばごめんね、と舌をだす。
「最近は劣等感を持つ輩も多いけれど、そこまで輝いた上司をみるのも希よね。だからこそ貴方がいまここにいるのだけれど」
「...やっぱり、最近はそういうのが多いものなんでしょうか」
先程心を読まれて真っ白になった頭をなんとか会話ができるところまで復旧させると占い師から目を伏せる。
きっと目を伏せたところで私のことはお見通しなのだろうけれど、このまま目を見ていては取り入れられてしまいそうだった。
私の仕事は営業で、相手の目を見て話すなんて造作もないことだった。
もちろん話すのも好きではないが得意でお客さんともうまくやっている。
だからこそわかるのだ。
興味のある話ほど“引き込まれてしまう”。
それは暗示と同じようなもので引き返せない魅力だ。
とりとめもなく溢れる自分の思い。
“この人に聞いて欲しい”...
「いつでも構わないわ。話を聞かせてくれないかしら?」
にっこり優しく語りかける占い師はさながら悪魔のような人だった。