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続・魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
魔武具騒乱編
86/181

40 〈竜の生まれし窖城〉の一大事

「魔王陛下」

 愛妻・モラーシア夫人の報告が終わり、彼女が治療を許され執務室から出るやいなや、プートは大仰な仕草でマントを翻しながら小魔王様の前に膝をついた。

 ぶっちゃけ、かがむと大きすぎる執務机のせいで、当人からは小魔王様の座っている姿など、見えなくなるに違いない。

 しかし、お子様にごつい金獅子が拝跪する、そんな様子を傍から見ている方からすると、なんかこう……シュールだ。


「真実、我が城を占拠する不届き者が、陛下より魔力を奪ったその者であるならば、我はここに誓約申し上げる。その卑怯者を陛下の眼前に、虫の息にて引きずって参ろうことを。故に、御前より暇いたしますことを、お許し願う」

 許可を求めているようで、その実、有無を言わせぬ口調だった。

 そりゃあ、何もかもなげうって、すぐにでも駆けつけたいよね。俺だって、自分の城が占拠されたと聞いたら、そうしたい。っていうか、きっとそうする。

 しかし、小魔王様の返答は――


「ならぬ」

「なぜ!?」

 獅子が牙をむいたのも当然だった。

 しかし小魔王様は、鋭い眼光にも――たぶん、机が邪魔で見えてないが――ドスの利いた声にもひるんだ様子を見せず、可愛らしい声で堂々と続ける。


「今回のことがただの奪爵であれば、ボク……」

 こほん、と、咳払いを一つ。ついでに椅子から飛び降りて、拝跪するプートにゆっくりと歩み寄った。

「予とて、すぐさま帰城を許そう。しかし、こたびの占拠はそうではあるまい。ならば、このように卑怯な手段を講じてなされた不当な振る舞いのために、そなたのように偉大な大公を失う決断はできぬ」

 おお! 子供なのに、いつもの魔王様のような台詞を!

 さっきの俺に対する怒りがきっかけで、精神まで大人に戻りつつある、とかだったりして。


「私が負けるとおっしゃるか!」

 金獅子が喉の奥からうなり声をあげる。

「その相手が真実、予の魔力を持つならば、あり得ぬ事ではあるまい」

「しかし、ならばどうせよと! 指をくわえて座していろとでも言われるか!」

 獅子は、今にも飛びかかりそうに見えた。


「行くな、とは言わぬ。だが、単独行動は許さぬ」

 小魔王様、頑張るなぁ……あくまで堂々とした態度を崩さないのだから。

 しかし、内心はきっと、めちゃくちゃビビってるに違いない。なにせ、大公たちが揃った部屋に入るのも怖がっていたくらいなのだから。

 よし、あとで頭を撫でてあげよう。


「ウィストベル」

 呼ばれた当人は、微かに柳眉を上げた。

「プートに同行せよ。そなたら二名で協力し、〈竜の生まれし窖城〉を奪還して参れ。これは君命である」

 小魔王様はまるで魔王様が乗り移ったかのように、厳かに命令を下す。いや、中身も本当に本物の魔王様なんだけれども。


「我が城を取り戻すに、他の大公の助力を得よ……それもよりによって、ウィストベルと協力せよ、とおっしゃるのか!」

「その通りだ」


 小魔王様の冷静な返しを受け、今度こそプートの鬣が怒りに震えたかのように見えた。

 当人はさぞ悔しかろうが、小魔王様の判断は至極妥当だ。

 その男が真実、強奪者であるならば、魔力の総力でプートが劣る。

 その上、こう言っちゃなんだが、プートは魔術の妙手ではない。対して、今までの話から鑑みるに、その花葉色の髪をした男は魔術の造詣が相当に深いと推測されるのだ。


「ウィストベル。そなたはどうか?」

 デヴィル族嫌い――しかも、特に獅子嫌いと推測されるウィストベルは、難しい顔で腕を組みながらも、首肯した。


「通常であれば、たった一人の相手に二名であたることは許されざること。じゃが、これはただの奪位・奪爵ではない。故に、陛下のご判断に異存はない。協力する相手が誰であれ、優先すべきは卑怯者より陛下の魔力を取り戻す、という一事のみじゃ」

 ウィストベルは半ばプートに、そうして自らに言い聞かすよう、そう言った。彼女だって複雑な心境なのだろう。プートとの共闘は好ましくないが、それでも事態の解決のためには自分が動く方が確実なのだから。


「そもそも、これは魔王陛下のご命令じゃ。それとも主は、魔力の弱い今の陛下には従えぬと申すか?」

 しっかり視線を合わせたプートとウィストベルの間に、見えない火花が散る。単なる意思の確認だけではないやりとりが、そこで交わされているようだった。


「……よかろう。陛下のご意志を尊重し、牙はむかぬ。少なくとも、今回まではな」

 若干ひっかかるオマケ付きで、プートは言葉通りに牙をおさめる。

「だが、言っておく。勝手について参ろうがかまわぬが、共闘など御免だ!」

「それはこちらの台詞じゃ」

「いいや、待て」

 収まりかけたところへ、異を唱える者がいた。ベイルフォウスだ。


「〈竜の生まれし窖城〉には、ウィストベルではなく、この俺が同行する」

「なに?」

「どういうつもりじゃ、ベイルフォウス」

 二人が怪訝な表情を浮かべたのも尤もだ。ウィストベルと同じく、ベイルフォウスだってプートとの共闘など、ごめんだろうに。


「プートがこの試練をどう乗り越えるのか、ぜひ間近でみせてもらいたいと思ってな」

 おーい、ベイルフォウス!

「貴様!」

「まあ、それは冗談にしても、だ」

 自身の首元を標的に伸ばされたプートの手を、ベイルフォウスは軽やかに避けつつ軽口を叩く。

 だが、一瞬後に見せた表情は、怖いくらいに誰よりも真剣だった。


「今回の始まりは、正々堂々、戦った上での魔力奪取じゃねぇ。相手は姑息な手段を使ってそれを成した、紛れもない卑怯者――だからこそ、これを魔王奪位と認める者はいない。だからこそ、さっきウィストベルが言ったように、卑怯者一人に対して大公二人があたることに、異論を唱える者もいないだろう」

 うーん……ロムレイドは微妙だけどね。

 それにしても、ウィストベルもそうだったが、ベイルフォウスにしても、戦う相手と想定しているのは強奪者と目される魔族、ただ一人らしい。人間は、いくらいようが数のうちにも入らないようだ。


「だが、たとえ卑怯の結果であったとしても、弱者たる兄貴を魔王の座に据え続けることを、いつまでも同胞たちが許すはずはねぇ。解決できずにいる期間が長引けば、『弱体化した魔王こそ、その原因』とする考えが高唱され、兄貴は魔王の座から退かざるを得ないだろう」

 協力は今回に限り、と言ったプートをけん制するように、ベイルフォウスは厳しい瞳を向ける。


「俺はこれ以上、兄貴の名声が地に墜ちるところを見たくない。故に、失敗は許されない。必ずプートの城を取り戻し、それ以上に、相手を絶対に捕獲しなきゃならねぇ」

「すまない……私が警戒を怠ったせいで……」

 子供になって打たれ弱くなっているらしい小魔王様が、ちょっとシュンとする。

「兄貴、反省は後にしろ」

 反省自体は求めているらしい。


 まぁ、確かに――

 俺は平和主義かつ魔王様の寵臣だから、奪われた魔力の復元を第一にという方針に反対はないが、そもそも現ルデルフォウス陛下自体を快く思っていない者たちは、今までの流れにだってすでに反感を覚えていることだろう。

 たとえばデヴィル族の中にはデーモンの魔王というだけで、憎々しく思う者もいるだろうし、デーモン族の中にだって単なる好き嫌い、あるいは女性を寝取られて魔王様を恨み――口にしてないのに、なぜかタイミング良く足を蹴られた――、廃位を望む者がいるかもしれない


 そうでなくとも単純に、『現在の実力を、そうなった方法は不問とし、強者と認める』という、ロムレイドのような者もいる。

 その状況で、再度相手を逃すなんてことになれば、ベイルフォウスの言うとおり、廃位を叫び出す者だっているだろう。


「……つまり主は大公位四位のこの私では、力不足だというのじゃな」

 ウィストベルはベイルフォウスより弱い――長年、それが真実だと通してきたのだし、ついこの間の大公位争奪戦でも、実際にウィストベルはベイルフォウスに負けた。

 ウィストベルの計画通りだったとはいえ、事実を知らないベイルフォウスが、自分が行くべきだと判断するのも無理はない。


「それとも、そもそもこうなる原因を防げなかった私の無能を憂えてのことじゃろうか?」

 うっすらと笑ったウィストベルに、俺のアソコは縮み上がる。

 心なしか、小魔王様の顔色も青ざめて見えた。


「……魔族ってのは、単独での戦いを好む。だからそもそも、他人との連携なんてうまくできねぇ」

 確かに、魔族に他の誰かと協力して――と言ったところで、「ああ、俺が今撃とうとしてたのに!」とか、「お前の魔術が俺の魔術を邪魔して!」とか、仲間割れして、却って負けそうだ。

 人間の書物とかでは「団を組織して魔獣を倒した」とか、よく見るんだけどなぁ。


「それがなんじゃ」

「特に、プートとウィストベル。ソリの合わねぇお前ら二人が一緒に事に当たったところで、足の引っ張り合いにしかならんだろう」

「それを言うなら、お主とて同じことじゃろう。それとも自分ならうまくプートと立ち回れる、とでもいうのか?」

「いいや、俺だってプートとの共闘なぞごめんだ」

 つまり、どっちが行ってもダメじゃん。


「だが、魔王大祭の最終日を思い出してくれ。俺は、ジャーイルとならタイミングを合わせられる」

 ……ん?

「あの時は兄貴が相手だったから、二人がかりでも負けたが、他の奴になら負けねぇ」

 ……んん?


 あれ、今、俺の名前が出た?

 ……いや、そりゃあ……そりゃあ確かに? ベイルフォウスとタイミングを合わせるのは簡単だった。というか、全く相手を意識せずにできて楽だった。確かにな。

 ベイルフォウスとなら、自分一人で戦うのと遜色なく、実力を発揮できる。

 それに、二人がかりなら魔王様以外――まあ、ウィストベルは別として――の誰が相手だって、勝てるだろう。ああ、プートにだって楽勝に違いない!


「彼女が来れば、どうせお前も赴くことになるだろう?」

 ……ああ、ベイルフォウスもそう考えたのか。


 魔王様は二人で協力して、と言ったが、結局は俺も含めた三名で、ということになるだろう、とは思っていた。

 ……いいや、正確には、ミディリースも含めた四人、だな。

 なぜって、相手が姿を消していたとしても、同じ能力を持つと思われるミディリースになら、それを見破ることができるだろうからだ。


「三対一か。余計に失敗は許されぬぞ」

 ベイルフォウスの思惑を知って、ウィストベルもそれならば、と思い直したらしい。

「失敗なぞ、する訳がねぇ。だいいち――」

 ベイルフォウスが俺を見る。


「ああは言ったが、お前が来るまでにとうに片がついているかもしれんしな」

「ふん! 当然であろうが!」

 プートには理解外の話だったろうが、彼は説明を求めてくることもせず、この話は打ち切りだと言わんばかりに続けた。


「誰が我に追随しようが、関係ない! そもそも、我ひとりで充分なのだからな! 来るならば勝手についてくるがよい!」

 結論を急かすように、小魔王様を見る。

 プートとしちゃあ、飛び出すのを精一杯、辛抱しているのがわかる。


「よかろう。では、プートとベイルフォウス。まずは二人で〈竜の生まれし窖城〉に先行し、不当に占拠されし城を奪還して参れ。ジャーイルはこの場に呼び出した者たちが到着しだい、これに合流することとする。大公二人、もしくは三人で、こたびの犯人を生きたまま我が眼前に引きずり帰ってくるのだ」

 プートとベイルフォウスは黙って敬礼を返し、俺はただ頷いた。


「足を引っ張るんじゃねぇぞ」

 ベイルフォウスがヴェストリプスを肩にかつぐ。

「こちらの台詞だ。せいぜいその魔槍とやらに頼ってでも、役に立ってみせるがいい」

 こうしてベイルフォウスとプートは、二人らしい台詞の応酬を交わしながら、執務室から出て行ったのだった。

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