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続・魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
魔武具騒乱編
66/181

20 さて、活発な議論を楽しみましょう!

「じゃあ、こいつの特殊な能力についても、もちろん知っているんだろうな?」


 おい……今なんて言った、ベイルフォウス!

 さっきの俺との打ち合わせはどうした。忘れたわけではないだろうな?

 君はガルムシェルトの総称は知っていても、その能力については「知らない」で通すはずだったろう?  実際、俺も君も『奪う能力』については、ウィストベルに聞くまで知らなかったんだから。なのにそんな態度だと、自分は事情通だと白状せんばかりじゃないか!


「特殊な能力、だと?」

 プートが怪訝な瞳をベイルフォウスに、ではなく、俺に向けてくる。せめて彼が冷静に受けてくれるのはありがたい。

「ガルマロスの造った武器は、すべてが魔武具になったと聞く。違うか?」

 ああ、そういう感じでいくのか。

 ベイルフォウスもさすがに「俺は知っているんだぞ」、とまで言う気ではないらしい。


「確かに。彼の武器製造人がエルフォウンスト魔王陛下のもとに属して以降、造られたいくつもの魔武具を、我は見た」

「だろうな」

「へぇ」

 ベイルフォウスが責めるようにいい、サーリスヴォルフが関心の声をあげた。


「しかし、ガルムシェルトは……我が知るところでは、ガルムシェルトだけは唯一なんの力も持たぬ、ただの凡庸な武器……彼の武器製造人が最後に造った失敗作であるはずだが?」

「ああ、確かに」

 ベイルフォウスが余計な口を挟む前に、俺がひきとった。


「プートのいうように、このガルムシェルトは一般的にはただの武器だと思われている。しかし実は、彼の武器製造人が造った他の武器と同じく、やはり特殊な能力を持った魔武具だったんだ」

「ほう」

 プートが驚いたような表情を浮かべる。


「ではなぜ、我々はそのことを知らぬのだ? なぜ、ただの武器とみなした? 奴がその能力を解説せず死んだとしても、魔武具であれば残された周りの者が気付いたであろうに」

「それが発覚しなかったのは、その能力が限られた条件下でしか発揮しないからだろう。そしてその能力が、少々問題でな」

 知っていて、知らぬフリをしているようには見えなかった。

「へぇ、問題?」

「そそられる話ですね」

 サーリスヴォルフとデイセントローズは、興味津々という風だった。


「このガルムシェルトは、『無爵のごとき弱者のための武器』だったんだ」

「どういう意味かしら?」

「つまり――」


 俺は魔王様に関連することは全て伏せ、ウルムドガルムのことだけ――それを手に入れて後の経緯を簡単に語った。

 ジブライールとミディリースの実名を明かす事無く、ただ単に無名の配下に起こったこととして、事故により弱者が強者を負傷させ、魔力の交換が行われたことを話し、そこでただの武器だと思われていたガルムシェルトの能力が発覚した、という風に結論づけたのだ。


 攻撃を受け、魔力を奪われた者が中身・外見ともに退行することは伏せておいた。それとともに、本当は俺自身では行っていない、逆の検証結果についても説明した。

 ベイルフォウスがエルダーガルムをもって自身の配下に試したことを、俺がやったように――ただし、内容はだいぶソフトにして――語ったのだ。


 ガルマロスの紋章が本来と少し違うことについては、特に言及しなかった。

 前魔王と共にその武器を見たらしいプートも、その点は指摘してこなかった。ガルマロスのことすら知らない者たちに、いちいち説明する必要もないと判断してのことだろうか。

 サーリスヴォルフのことは、必要以上に意識しないよう、気を付けながら……なにせ彼女は、〝勘がいい〟からな。


 俺が一通り話し終わった後も、しばらく誰からも発言はなかった。

 それぞれがガルムシェルトの能力の効果を、吟味しているのだろう。


「先ほどジャーイルはこのウルムドガルムのことを、『無爵のごとき弱者のための武器』とおっしゃいましたが、それは他の二点についても同じなのですか?」

 やっと出た発言は、ラマからのものだった。

「確認はしていないが、おそらく、な」

 ベイルフォウスの手元にエルダーガルムがあることについては、伏せておくことになっている。俺との打ち合わせで決めたことを、親友がまだ続けるつもりでいるのならばだが。


「根拠は?」

「ガルマロスの娘が俺の領地に属している。彼女によると、三点は全く同じ時期、同じ材料をもって、同じように造られたらしい」

 実際にアルマジロちゃんが知っているのは、その三点が全く同じ時期に造られたという、一点だけ。彼女は父の仕事中の姿を見るどころか、仕事場の中にすら、ガルマロスが生存中には入ったことがないらしいのだから。


「それにしても、そもそもジャーイルはどうやってそのウルムドが魔武具だと見抜いたの? さっきの話じゃ、持ち主だって知らなかったんでしょう?」

 それは俺の目が……って、待て!


「さっきも説明したと思うが、知っていたんじゃなくて、知ったんだ。確かに多少、疑ってはいた。なにせ、ガルマロスの紋章かと疑われるようなものが刻まれているんだからな。だが、ハッキリ魔武具と知ったのは、配下が偶然に魔力を交換した、その場面を見たからだ」

 おお、危ない危ない。


「先に図書館でウルムドのことを調べていたのに?」

「だから、言ったろう。疑っていたので、図書館で調べていたに過ぎない。それに、ウルムドは珍しい武器だ。その使い方についても、勉強していたんだよ」

「ああ、そうだっけ。ふぅん」

 勘の鋭い奴なんて嫌いだ。


「で、逆も試してみたのよね? つまり、強者から弱者へと傷つけてみて?」

「ああ。だが、何も起きなかった」

 実際には何も起きないどころか、実験に関わった強者・弱者とも、不幸な運命に見舞われたわけだがな。


「弱者が使った時だけ、相手の魔力を奪う能力を発揮する魔武具、か」

 ロムレイド――お前、寝ずにちゃんと聞いてたのか!

「けど、たった一組きり、試しただけでは――」

「一組だけじゃない。もう数組だ。ちなみに、同位の者同士の時にはなにも起きなかった」

 ティムレ伯とノーランの結果も、実績に加えておくことにしよう。


「だけど君が本当に? 配下を実験したの? たかが、知的好奇心のために?」

「俺だって、やるときはやるさ」

 実際はやってないけどね!

 そして、そんな俺の言葉を、きっとサーリスヴォルフは疑っているに違いない。

「食いついてくるとしたら、サーリスヴォルフだ」と、そう言ったベイルフォウス本人が過剰に反応するせいで、余計怪しまれてるみたいなんだけど!


 ガルムシェルトの能力について、疑いの言葉を向けてきたのは、結局サーリスヴォルフのみだった。あるいは、彼女に説明した言葉で、他の者はとりあえず納得したか……。

 とにかく、それ以上の質問が他の大公から出ることはなかったのだ。


「全く、あの武器がそのような卑怯な武器であったとは! 知っておれば、あの時、我が拳で砕いてやったものを」

 プートがガルムシェルトの能力について、さも気にくわない、というように、獅子のたてがみを逆立てる。その反応は、ウィストベルの予想通りだ。


「卑怯? どうして?」

 ロムレイドが疑念に満ちた声をあげる。

「奪うって卑怯なことなのかなぁ」

 緊張感あふれる室内に、弛緩した声が横断した。


 その声音のためか、それとも発言内容が魔族の強者にとって虚を衝くに等しいものだったためか、その場にひとときの静寂が訪れる。

 全大公の視線を浴びる中、ロムレイドはくせ毛をかき回しながら欠伸を一つし、こう続けた。


「だって、魔族って、強者が弱者を蹂躙するものでしょ? それってつまり、強者は弱者から奪うってことだ。僕も昔はよく、何でも姉に奪われました。大好きなデザートも、鹿肉のステーキも、髑髏の竜のおもちゃも、生首の小物入れも……はぁ、あれほんと、お気に入りだったのに」

 当時を思い起こしたのか、ロムレイドは情けない表情を浮かべて肩を落とす。


「そんなささいな物ばかりじゃなく、身さえ力尽くで奪われさえする。さっきの武器製造人がいい例だ。なのになぜ、ガルムシェルトが同じ事をすると卑怯と言われるんだろう?」

「なんです、その言い方。まるで武器が生き物であるかのように……」

 そこはいいだろうが!


「だいたい、あなた、ご自分で答えを出しているじゃないですか」

「どういう意味?」

「〝強者が弱者を蹂躙するもの。強者が弱者から奪う。〟それは、当たり前ですよ」

 デイセントローズが薄く笑い、小馬鹿にするような目でロムレイドを見やった。


「うーん、でも、例えばだけど、これが魔術の結果なら、何も言われないわけでしょ? 誰かの魔力を奪うのが、その人の特殊魔術の能力なら……それが弱者が強者の魔力を奪ったとしても、誰も異議を唱えない?」

 ウィストベルの視線が動き、ロムレイドを捉える。

 殺気が込められていた訳でもなく、自分が見られた訳でもないのに、ゾッとした。


「魔力による奪取と、物なぞによる強奪では、意味が違う!」

 ラマを継ぐように叫んだのは、獅子だ。

「本当に? 特殊魔術による強奪は、特別扱い?」

「当然である! 魔術はもとから、その身に備わっているもの。いわば、内的要因である。だが、魔道具はどこまでいっても外的要因! 我と我が身、我が力のみ頼ってこそ魔族の強者! それを、たかが道具などに頼って自らの増強をはかるなど、魔族の風上にもおけぬ!!」

 ひるむ様子もない虎に、獅子が食ってかかった。


「そもそも我は、通常の奪爵でも大公位争奪戦のように、魔武具を全面的に禁止すべきではないかと常々考えておる!」

「だったらその議題で〈大公会議〉を開いてみるんだな。魔武具を使いこなすのも個人の才量、素養だ。誇る技も技量もない、ただ力しか頼るもののない脳筋馬鹿だけが、お前の意見に賛成してくれるだろうよ」


 続くプートの意見に反応したのは、ロムレイドではなく、ベイルフォウスだった。

 いつものように、二人の間で火花が散り始める。

「僕はいいと思うんだけどなぁ……」

 二人に遠慮をしてか、それとも巻き込まれるのを厭うてか、今度はロムレイドも小さな声で呟くにとどまった。

 しかし魔武具によって魔力を奪い、奪われてもよいと考える者が、大公の中にでもいるということは、当然、他にも一定数存在すると思った方がいいだろう。


「さっき、前魔王の元でガルムシェルトを見たといったな。その時、その武器はどうなったんだ? まさか、砕く代わりに持って帰った訳じゃないだろうな?」

 うん、ベイルフォウスくん、落ち着こう。誰もそんなこと言ってないよね?


「我が持ち帰った、だと? そのような卑怯者の武器が、紛れもない強者たる我に、一体どう必要だというのか?」

 いよいよプートも押さえがきかなくなってきたようだ。

「言うまでもないだろう。配下の無爵にでも渡して、邪魔な相手の魔力を奪わせるのさ」


 ベ イ ル フ ォ ウ ス !

 なんでお前はプートを前にすると、そうすぐ暴走するんだよ!


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