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続・魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
魔武具騒乱編
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14 医療棟での一泊も、お勧めです

 とにかく、事情を知るジブライールが代わってくれたことだし、別件を先にすませてしまうことにしよう。


 あと二人の副司令官――ウォクナンとフェオレスも、実は昨日のうちに武器を届けにきてくれていた。

 フェオレスがやって来たのは、ノーランが帰ってほどなく、ウォクナンやって来たのは、夜も更けてからのことだった。

 自分がそんな時間にやってきたくせに、リスは白々しくもこう言ったのだ。


「おお、こんなに暗い中を帰るのは危ないですな! なにせ、竜は暗闇の中を飛ぶのが苦手ですから!」

「だったら竜は預かっておいてやるから、歩いて帰れよ」

 そう言った俺に、ウォクナンはいけしゃあしゃあと続けた。

「こんな時間でもありますし、泊まっていって差し上げます。ですので、アレスディア殿の夜伽を所望します!」

 俺はリスの前歯に手をかけた。


 そんなわけで昨日、急遽うちの城に泊まることになったのは、実はミディリース一人ではなかったのだ。ウォクナンも自身が望んだとおり、俺の城で一泊するという希望を叶えたのだから。

 もちろんアレスディアとの一夜はなく、宿泊場所も医療棟の個室だがな。

 今、俺が向かっているのは、そのリスの元だった。といっても、間違ってもお見舞いなどではない。


 実はアリネーゼにガルマロスの経歴を聞いた後、それならばとエンディオンにも尋ねてみたのだが、彼でさえガルマロスのことは詳しく知らなかった。腕のいい武器製造人が領内にあり、大公城を何度か訪ねてきていたという事実は認識していたが、その姿を見る機会さえなかったという。


 なにせ我が家令は、ネズミには随分疎まれていたそうなのだ。

 優秀であるがゆえに、今と同じように屋敷の隅々までの管理は任されていても、ネズミに直接関わるような要件からはことごとく外され、主の顔は何日も見ない状態だったとか。

 その時代は、本棟への出入りさえ禁止されていたらしい。

 全く見る目のないネズミめ!

 ごほん。


 そんなエンディオンだが、ガルマロスのことについては何も知らない、だけでは終わらなかった。彼は自分よりも遙かにネズミ大公の近くにいた人物として、ウォクナンの名を挙げてくれたのだ。


 ああ、そう言われれば確かにそうだろう。

 なんといってもこの領内で、副司令官についた時期が最も古いのは、あのリスなのだ。

 今やだらしなく涎を垂らしているただのスケベリスという印象しかないウォクナンだが、ネズミ大公の時代には、副司令官四名の中では大公からの信頼最も厚く、今はともかく、以前は副司令官の代表格であったというのだから。

 そういえば大演習会の時だって、自分がいつもヴォーグリム付きの役目を引き受けていた、と言っていたじゃないか。


 実際、ガルマロスの名を出して聞いてみると、リスはあっさりこう認めた。

「ああ、ガルマロス。懐かしい名ですな。あの武器製造人は、ヴォーグリム閣下が大公になられた折、魔武具を献上し、面白いおもちゃをつくるというので引き立てられたのですよ」

 そうなのか! 俺の時まで待ってくれればよかったのに!


「確か、ヴォーグリム大公はガルマロスの能力をいたくお気に召して、二年弱の間に、百ほどの様々な武器を造ったのではなかったですかな」

 人間と違って魔術の助けが大きいとはいえ、たった二年で様々な武器を百ほど、というのは多いような気がする。

 だって俺の知る他の魔族の武器製造人の中には、二百年の生涯でわずか二十本しか製造していない、という者だっているからだ。


「ガルマロスは手が早かったんだな」

「ああ、いいえ。閣下もご存じでしょう。なにせヴォーグリム大公は、配下が意味のないことで血汗鼻水涙を流しながら、ヒィヒィ必死に働く姿を、ゆったりご覧になるのがお好きな方でしたので。いわゆるあれですな、限・界・突・破」

 なんでウインクしやがった、このリスめ!


 しかし、そういや俺の男爵時代には、訳も分からない命令が頻繁におりてきてたっけ。

 ナニ色の鉱物を欠片でも宝石箱何個分集めてこい、とか、コレコレの花弁だけ何百集めてこい、とか、なんとかいう魔獣の垢をバケツ何杯集めてこい、とか…………アレは臭かった。

 何か意味があると思ってたのに、何にも無かったのかよ!


「ヴォーグリム大公は熱しやすく冷めやすい方でしてな。ガルマロスにも二年も経たず、飽きてしまわれて、それで先のエルフォウンスト魔王陛下に献上されたのですよ」

 それでっていうか、飽きたからはいどうぞって、物ならともかく、生きた魔族を自分の上位に譲るのもどうなんだ。

「ですがガルマロスの能力は彼の御方には好まれなかったようで、わずか数ヶ月のうちに哀れな末路を辿ったのです」

「哀れ」という割には、同情の一欠片も感じていないような、冷たい表情で。


 しかし、そこまで事情に通じているなら話が早い。

「よし、ならウォクナン。ガルマロスの親類縁者や友人が存命なら、連れてきてくれ。もちろん、この大公領内に属する者が対象だ」

 ガルムシェルトはガルマロス最後の武器――つまり、造ったのは前魔王の配下であったときのはず。それ以前の知人をあたっても、なんの手がかりもないかもしれないが、一応やれることはやっておこうじゃないか。


「クックック。よろしいですとも! ご命令通り、奴の親類縁者まで引っ捕らえ、その四肢を鎖で縛りつけ、閣下の御前まで荒れた大地を引きずり、血の路を」

 俺は凶悪そうに顔を歪ませたリスの頭をはたく。

 その衝撃で、口からリンゴが飛び出した。


「誰が引っ捕らえろといった。丁重にお越し願え」

「えー。つまらんですなぁ。首輪をかけて、四つん這いの状態を引っ張ってくるとか、見るのもするのも楽しいですぞ」

 リスめはあろうことか、床に落ちたリンゴをまた口の中に入れ直したのだ!

「一言足りないな。されるのも楽しいと言えば、今すぐ叶えてやるぞ」

 俺が造詣魔術で鎖を造ると、リスは素早く両手を後ろに隠した。


「さっさと行ってこい」

「はいっ!」

 リスはたくましいゴリラ胸の前で手を交差させると、「ウッホウッホウッホッホゥッ!」という、謎のかけ声とともに走り去っていったのだった。


 さて、そろそろ一度、昼食がてら図書館に戻ってみるか。


「あ、閣下! これ、見て欲しいです!」

 俺の姿を見るなり、ミディリースが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ここ、ここ!」

 彼女が示してきたのは、どうやら魔武具についての逸話や噂話を収集した本のようだ。

 題して、『君は知っているか!? 幻の聖宝具~武器編~』。


 ……ちなみに、書いたのは人間だ。

 とある国で大衆向けに定期的に発行されている、『君は知っているか!?』シリーズ。『魔族の身分・階級編』とかいうのを読んだことがあるが、爵位と役割がごっちゃになっていて、ツッコミどころ満載な内容だった。

 『幻の有毒魔獣編』とかいうのも読んだな、そういえば。

 あ、あと、『魔族の逸話~爆笑十選』の(1)~(10)と『魔族の逸話~残虐十選』(1)~(5)も。

 残虐が習いの魔族を書くのに、なぜ爆笑の方が多いのか、首をひねった覚えがある。


 ともかく――

「資料とするには、信憑性に乏しい本だと思わないか?」

「いいから、ここ、読んでみて! ……ください!」

 渋る俺の顔の前にくるよう、ミディリースが該当ページを開いてぴょんぴょん跳び上がる。

 かえって読みにくいので、本を受け取った。


『数百年の昔――

 魔族の残虐を阻む武器が、他ならぬ魔族の手により、世の片隅で密かに誕生した

 その名を、〝ガルムシェルト〟――』

 あれ……そのまま?


『慈悲深き魔族によって、弱き人間たちのために造られた、

 ヴォルガルム、エルガルム、ウールガルム

 魔族を打ち倒すための三種の聖なる武器である』

 んんん?

 あれ?

 個別の武器の名前はちょっと違う?

 だが、添えられた絵を見ると、ファイヴォルガルムとエルダーガルムとウルムドガルムであるようだ。


「〝慈悲深き魔族が人間のために造った〟? ガルマロスが人間のためにガルムシェルトを造ったっていうのか?」

 そんな馬鹿な……魔族と人間が、関わりをもつだなんて……いや、俺もちょっと関わりもったことあるけど。

「本当かも。だってこう続くです」

 ミディリースは息を吸い込んだ。


「〝一つはヴァルタルナ王国の聖騎士マジャスに、一つはエキリン皇国の皇女マルガリーナに、一つはガシオル王国の戦う僧侶と名高いウェットンに授けられる〟」

 三つも国の名前が出てきた! が、ぶっちゃけ一つもわからない!


「ホントにあるんだろな、そんな国。っていうか、ここまで書くなら、どこにどれがあるのかも書けと」

「ここ」

 俺の文句を遮り、ミディリースがトントンと本を指さす。小さい指の先を読んで見ると、それぞれの文章には米印がついており、かつ、頁末にその解説が載っていたのだ。


『ヴァルタルナ王国は昔、西南の方にあったけど、もう滅んだよ! ここにはウールガルムがあったよ! 今は所在不明だよ!

 エキリン皇国は今のイシリン共和国だよ! でも、エルガルムは革命の時のどさくさに紛れて行方不明だよ!

 ガシオル王国も滅びたよ! けど戦う僧侶のいた寺院はまだ同じ場所にあって、ヴォルガルムは奥深くに隠されているという噂だよ! ゾクゾクするね! 取材してみたけど、持っていないと言い張るよ!』


 親切な解説だな、おい!

 それにしても軽い、軽すぎる。ほんとに信頼できるんだろうか?


 だが、ウルムドガルムがあったのは西南の国……うん、魔王領を中心に考えると、まあうちの大公領は西南方面だし、なんなら俺の城から見て、ティムレ伯の領地も西南だ。

 エルダーガルムは……イシリン共和国ってどこだよ。

 で、ファイヴォルガルムはそのなんたら寺院にあるはずなのか……ってことは……。


「あれ? つまり、このなんたら寺院に行けばいいってことじゃないのか?」

 記述が本当なら、サクッと解決しそうだぞ!

「そもそもこの本、いつの発行だ?」

「えっとね、ちょうど四十日ほど前の……」

 割と最近だな!

 なに、このタイミング……。


「で、その寺院はどこにある?」

「えっとね……」

「ついでに他二つの場所も」

「えっとね、場所については魔王様が……あれ?」


 そういや小魔王様、姿が見えないが……

「魔王様ー? 魔王様ー?」

「まさか、かくれんぼしてるんじゃないだろうな。ついに中身まで子供になったとか」

「まさかぁー」

「まさかだよな、あはははは」


 俺は冗談のつもりでそう言ったのだった。

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