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続・魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
魔武具騒乱編
155/181

109 挑戦的なお姉さんが引き起こしたもの

「我が配下が、我の城への攻撃手を探し当てられなかったことは、報告の通りだ。というのも、この公爵がその者をすでに処断していたからである。そして我が探していることを知り、申し出て参ったと言うわけだ」

 ウィストベルに続いてアギレアナのことを語ったプートは平静そのもの、デーモン族に対する敵意など、一つもにじませてはいなかった。


「待ってくれ。プートの城に向かって、あの光線を撃ったのがリシャーナだというのか? そんなバカな……いくら公爵の魔力を奪ったとはいえ、彼女にその力量はない」

 俺は二度の攻撃を目撃した当事者として、発言する。

 そうだとも。対峙した時に認めたリシャーナの魔術は、どれも稚拙なものだった。あの光線を撃つ技量はない。それに――


「そもそも一度目は、他ならぬリシャーナが撃たれたんだぞ」

「そのことは私は知りません。ともかく、私はただ、プート大公の城を攻撃した者を処断しただけのこと」

 俺の追求に対して、アギレアナはしれっと嘯いた。澄ましたその様子が、どこからどう見ても怪しい。


「つまり、この者の申し出によると、こうである。ジャーイルの領地で消滅したと思われるリシャーナが、我が領にて復活を遂げており、自身が受けたと同様の攻撃を会得し、移動中の我が城に向けて放った。しかし、近隣にてその場をたまたま目撃していたこの公爵が、相手を強者とみなすや即座に戦いを挑んで勝利し、問答無用とばかりにその首をとったそうだ」

 なんという胡散臭い話だろうか。そう思ったのは俺だけじゃないらしい。


「問答無用とばかりに、ですって? つまりあなた……アギレアナ公爵、でしたか? あなたは戦いを挑んだ相手が誰であったのか、知らなかったと主張するのですか? 相手が誰かも確認せずに、殺したのだと?」

「問題なのは、相手が強者であるか否かだけ。戦ってたのしいかどうかだけ。素性など、問題になりますまい。奪爵が目的ではないのですから」

「首だけをわざわざ残しておいて?」

「それは私が、斃した相手を蒐集する癖があっただけのこと」


 斬首蒐集癖……つまり弟と同じ趣味ということか。そういえば前にロムレイドが、お気に入りの首を姉に取られたのなんのと言っていたっけ。

 その弟は、次姉ならず長姉も苦手なようで、なんとか相手の視界から逃れたいと思っているらしく、大きな体を無駄に縮こませて居心地悪そうにしていた。


「聞けばこの罪深き女はプート大公への攻撃だけでなく、世界を混乱させた原因でもあるのだとか。はからずもコソコソと這い回る害虫を処分でき、ようございました」

「つまり自分は何も知らん、その混乱には関わってもいねぇ、偶然にリシャーナを討ったのだ、と主張するわけか?」

 ベイルフォウスが厳しい口調で問い質す。懇ろな間柄の妹と違って、そういう関係にはないのかもしれない。そう思えるような素っ気なさだった。


「私は先の大祭の終盤から、ずっとプート大公領の友人宅に世話になっておりました。愉しくこもっておりましたので、恥ずかしながら、世界に混乱が満ちていたことも知らず、この度、プート大公にお伺いして、ようやく事の次第を把握したような状態です」

「よくもまあ……」


 ウィストベルが低い声で呟いたのを、俺は聞き漏らさなかった。

 どうやらこれまでの対応を見ても、同じく自身の配下とは言え、ウィストベルは重用している妹と違い、姉の方にはいい印象を抱いていないようだった。それも、その発言に信を置いてもいない。

 気持ちはよくわかる。俺も自分の配下がこんな挑戦的なら、とても仲良くはできないだろう。


「もしや私の挙動をお疑いなら、領境の記録でもお調べになられるがよろしいでしょう。諸大公方にはその権限と能力がおありなのですから。私が領地を移動した記録は、魔王大祭の以前で止まっているはず。しかし、裏を返せば私が世間の混乱を知らなかったというのは、閣下方の問題解決が迅速であったということでしょうから、そこは誇られてよろしいのでは?」

 なんとも人を食った主張だった。

「よう、わかった」

 あくまで強気なアギレアナに、ウィストベルが繊手を振る。


「自身は何の関係もないと主張をしに参ったのであれば、目的は果たせたであろう。知らぬ存ぜぬしか申さぬのなら、ここにおっても無駄じゃ。とっとと帰るがよい」

 すると、初めてアギレアナは好意的ともいえる笑顔を女王様に向けた。

「それは、本当にお役に立てずに申し訳ありませんでした。私としては、諸大公に相まみえる機会をちょうだいでき、幸運でありました。ところで、そちらの首は持って帰っても?」


 机上に白目をむいて置かれたラマの首を、アギレアナは指さす。

「当然、置いてゆくがよい」

「……そうですか。花瓶にでもしようと思っていたのですが、残念です。万が一、不要にでもなればご返却ください。それまではお預けいたしますので」


 最後まで、堂々と――というか、慇懃無礼さしか感じさせない態度を貫いて、アギレアナは退場した。よくこの短気な大公たちが――当然、俺を除く――怒気を我慢したものだと思うほどに。

 それと、気にすることでもないかもしれないが、それでも気にかかったことが一つ……徹頭徹尾、彼女は魔王様の存在を無視するかのように、ふるまっていたのだ。ただの一度も、魔王陛下と呼びかけなかったのだから。

 まぁ、魔王様自身もずっといるのだかいないのだかわからないほど、黙っているけれども――とはいえ、もちろん、存在感はある! ありますからね、魔王様!


「あれを、どうみる」

 アギレアナが退室して暫く沈黙が続いていたが、プートがそう口火を切った。なにせ彼は、この会議の主催者なのだ。音頭を取るのが当然ではある。

「なるほど――今回の主題は『プートの城を攻撃した者』であったな。主の提示した議題の意味が、ようやく理解できたわ」

 ウィストベルの言葉に対して、デイセントローズが怪訝な表情で尋ねた。


「どういうことです? その、二度目の光線……ですか。その攻撃手が、リシャーナであると認めるというのですか?」

「俺が言ったろう。それはあり得ない」

「では、あのアギレアナとやら……ロムレイドの姉が、嘘をついたということですか? 一体、何のために」

 デイセントローズの言葉に、ロムレイドへと視線が集まる。


「ロムレイド、姉についてなにか言いたいことは?」

 ベイルフォウスの問いかけに、ロムレイドは困惑の表情を浮かべた。

「僕は嫌われているので、あまり交流もなくて……多分、弟とも認めてもらえてません。ただあの人は、退屈しのぎに他人からなんであれ、奪うのが好きな人で……他人の苦しむ姿とか、慌てる姿とか、困った姿を見るのが大好きな、怖い人、です」

 声に張りがないのはいつものことだが、いつも呑気な虎耳まで、力なく見えた。


「……つまり、どういうことです?」

 デイセントローズがやはり首を傾げて問いかける。

「俺には、この私が堂々と姿を見せてやったのだから、これ以上の追求はなしにせよ、どうせ何一つ理解できまい、と、言っているも同様に感じたな」

 ベイルフォウスくん、察しの悪い息子さんへのご教授ですか。でも、正直まだ、息子さんピンときてないようですよ! 疑問だらけって感じの表情が浮かんでますよ!


「仮にそういう意図があったとして、それならば余計に真相を追求もせず放免したのはどうなのかな?」

 サーリスヴォルフが、いつもの含み笑いを浮かべながら言った。

「真相もなにも――ロムレイドが申したであろう。あの娘は気まぐれに、退屈しのぎに残虐を行うのじゃ。そこに確たる目的など、なくともな。それも、自ら動くばかりではなく、愚者を操って破滅においやろうとする。今回もあらかた楽しんだので、ラマの首一つで終幕としよう、とでもいうのじゃろう。あれだけ堂々というのじゃ。挙動を調べたところで、プート領から移動した記録など、みつかりはすまい」

 ウィストベルが不機嫌を隠さず、見解を述べた。それに対し、またもサーリスヴォルフが茶々を入れる。


「本当に? 彼女は君の配下だ。まさかまた、何か意図的に隠して、自分の同盟者たちだけで事を運ぼうというのじゃないだろうね? 陛下が子供に戻っていたことを、我々デヴィル族には秘そうとしていたように」

「……ありえぬ」

 最初、魔王様の若返り状態を内緒にしようとしていたのが事実だけに、ウィストベルも怯んだようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うっわあ、挑戦的ーー。 諸大公どころか魔王さままで会する席でよくもまあこんな態度がとれるものだ。
[一言] 限りなく黒に近いグレー……こんなに無駄に働かされたのに主犯をつぶせないとかイラっと来る大公が多そう。
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