表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・魔族大公の平穏な日常  作者: 古酒
魔武具騒乱編
135/181

89 プートさんの奥さんの一人は副司令官です

 通信術式には現在、家僕や家扶を通信士として交代で任にあたらせてある。

 その通信士にはロムレイドの連絡以降、俺がいなくとも発信先の既知・未知を問わず、許可無く応答してよいということにしてあった。

 我が城では本棟の執務室近くの空き部屋を、通信室にと定めていたから、執務中はすぐに俺が駆けつけられるようにもなっている。

 その部屋に寄ったところ――


「プート大公閣下から、伝信がございます」

「プートから? なんだって?」

「折り返しいたしましょうかと申し上げたところ、そうせよ、とのことでしたので、ご用件はうかがえていないのですが……」

 申し訳なさそうに、通信士が言った。


「なんだろう……ヨルドルに何かあったとかかな」

 俺は早速、プートの城を呼び出してもらう。

 向こうも専任の応答役をつけているようで、少し待ってから、プート本人が画面の向こうに現れた。


「ヨルドルに何か?」

『む? あの男のことなぞで、いちいち連絡はせぬ!』

 ですよねー。

『だが、存外役には立っておる! しかし筋肉が足りぬゆえ、稼働時間が短すぎる! ゆえに急務として、毎日、筋トレを課し、体力の増強を図っておる!』

 ……ヨルドルが筋肉ムッキムキになるのは確定のようだ。


「では、用件は?」

『我が城の正式名称が決定した! 気にしていたようだったので、親切にも教えてやろうと思ってな!』

「……わざわざありがとう」

『うむ! 礼には及ばん!』

「それで、結局どっちの膂力城にしたんだ?」

『それよ! 結局城名は、〈爪牙煌めき咆哮高鳴る城〉とすることにした。魔王城に届け出た故、正式な文書で通知があろう』

 膂力城はやめたのか! 膂力城(そう)でなければなんでも普通に聞こえる!


「城主を象徴するかのような、いい名前だな!」

『うむ。竣工の暁には、落成祝賀披露宴を開催するゆえ、そなたと妹御を招待してやってもよい! その折にはもちろん、妹御には侍女がついてこられるのであろうが』

 いや……仮に俺とマーミルを招待してくれたとして、アレスディアは連れて行かないから!


 もっとも、こういう問題は、本人がどう思っているかが肝心だ。そういえば彼女に直接、プートの印象とか、聞いたことがなかった気がする。一度確認しておかなければ……。

 もしもアレスディア自身が大公妃の地位を望むなら、それを邪魔する権利は俺にもあるまいし。

 ただ……アレスディアにその気があれば、とっくになんとかしろとせっつかれてる気はするんだがな。


「そういえば、俺もちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

『なんであるか』

「確かプートって、副司令官に奥さんいたよな?」

 確かってなんだよ、俺。目の前で瀕死の奥さん見たじゃん! しっかり知ってる癖に!


『モラーシアが何か?』

「その後、怪我の具合はどうかなと思って……」

『うむ! 腹の穴も塞がって、すっかりいつも通りである。魔王城の医療員はなかなかに腕がよい』

「それはよかった」


 いつもは迫力満点の獅子も、話が妻に及んでは、温厚な笑みが浮かぶ。

 アレスディア、アレスディアと言ってはいても、なかなかの愛妻家でもあるようだ。魔王城では重傷の妻に対して厳しすぎるように見えたが、内心、心配でたまらなかったのかもしれない。

 そう考えると、微笑ましいではないか。


「奥さんが副司令官だと心配にならないか? やっぱり魔族の強者って、いつも命の危険にさらされているわけだし……」

『心配とは、意味がわからぬ。モラーシアは強者ゆえ、副司令官まで上りつめたのだ。それを、私が心配してどうなる! 強ければ生き、弱ければ死ぬだけのことよ! 魔族はかくあるべきである! 誰であれな。我は支配者ではあるが、強者の庇護者ではない。妻は妻で、独立した一己の弱者に対する支配者である!』

 なんともプートらしいではないか。


「副司令官ってことは、一緒に住んだりはしていないのか?」

『ここ数日は大事をとって我が居住棟で寝泊まりしておったが、普段は同居しておらぬ。妻は自身の公爵城で暮らし、職務をこなし、番にやってくることになっておる』

「番?」

『我と同衾する番である!』

 ああ、へぇ……五人も奥さんいると、共寝にもちゃんと順番があるらしい。


『しかし、なぜ急にそんなことを聞く?』

「いや、別に……この間の怪我した副司令官が奥さんだって聞いたから、ちょっと気になっただけで……」

『ほう? わが妻を心配してのことと?』

「そりゃあそうだよ」

『ほう……』

「……」

 ……鋭いとか、やめてくれよ。

 だがしかし、アレスディアへの態度を考えてみれば、プートは意外に色恋沙汰には敏感なのかもしれない……。


「そうだ、連絡をもらったついでみたいで悪いんだが、ヨルドルと話すことはできるかな? ちょっと確かめたいことがあるんだが……」

 俺は話題を変えることにした。

『それは、今回の魔王陛下魔力強奪の件に関与することか?』

「大きくはそうだが、魔王様のというより、俺の領地で起こったリシャーナ絡みの件で、彼に心当たりがあるかどうか確認したいことがあるんだ」

『そうか。ならば、待っているがよい。呼びにやらせよう』

「助かるよ。ありがとう」

『うむ。私は忙しい身ゆえ、外すが、今後も相談に乗って欲しければ、そちらから通信してくるがよい! 妻とのことといえども、遠慮することはない!』

 いや、相談とかしませんけども! ちょっと聞いてみただけですけども!


 俺はやってきたヨルドルに、二、三、確認したかったことを尋ね、プートの城との通信を終えた。

 その通信では、たった一日見なかっただけなのに、疲れ切って別人のように見える、生気の薄いヨルドルが確認できたのだった。


 ***


 さて、副司令官を集めての会議である。

 このところ立て込んでいるので、俺は珍しく、その会議は昼食をとりながらのこととしたのだ。


「大公城の料理人、腕がいいから楽しみなんすよね!」

 一番に到着したヤティーンが、子供のようにはしゃいでいる。

「あ、ちょっと待て、ヤティーン」

 俺はいつもの席につこうとしたヤティーンをとどめた。


「なんすか?」

「一つずれて座ってくれ」

 副司令官の着席順は、着任した順と決まっている。最長老だったウォクナンの退任が決定となった今、全員席を一つずつずれる必要があるのだった。


「ああ、そういやウォクナンの奴、やらかしたらしいっすね。んで、副司令官辞めるんですっけ?」

 俺の席から見て右に回り込もうとしたヤティーンだったが、左手の手前に座る。

 実際に小ウォクナンと会ったジブライールやフェオレスと違って、驚くのではないかと思っていたのだが、一応、ヤティーンも概要は掴んでいるようだ。


「辞めるというか、まぁ、勤められなくなったが正しいんだが」

「フェオレスが副司令官になったのが百年前くらいっすから、顔ぶれが変わるのは久しぶりだなぁ。次、誰にするか決めたんすか?」

 割と事もなげにいう。あっさりとしたものではないか。


「いや、まだだ。今回、それも含めて、君らにも相談しようと思ってな」

「え。俺たちに相談するんすか? 大公閣下が?」

 え? いけない? だって実力も重要だけど、みんなともうまくやっていける人物を選ぶ方がいいよね。


「閣下、ホント変わってるっすよね」

「ヤティーンはヴォーグリムを基準に考えすぎじゃないか。あいつってば、大公の中でも結構、傍若無人な方だと思うんだが」

「かもしれませんね。でも、いうて俺、閣下の他にはネズミ大公にしか仕えたことないんで、わからないっすわ。てか、他の大公閣下でも大差はなさそうに見えますけど」


 そんな話をしているうちにフェオレスが、最後にジブライールがやってきたのだった。

 俺が説明せずとも、フェオレスはヤティーンを、ジブライールはヤティーンとフェオレスを見て察したらしい。新しい位置に並んで着席する。ジブライールが俺のすぐ右手、フェオレスがその奥に。


「全員そろったところで、始めよう」

 楽しみにしていたヤティーンには悪いが、会議をしながらの食事なので、給仕はいないし、おかわりもなしだ。

 各人の前に並べられたスープからデザートまでの一通りの品の他は、飲み物が自由につぎ足せる位だった。

 もっとも十二品も並んでいるのだから、十分だと俺は思う。


「まずは、君たちにもっとも関わりの深い、ウォクナンに関することから。彼が子供になったのは知っての通りだと思うが、元に戻す手段もなくなってしまった。そこで、副司令官の後任を決める必要があるんだが、誰か、任せるにふさわしい人物に心当たりのある者はいるか?」

 俺がそう口火を切ったときだった。


「失礼いたしますわ」

 その断りと共に会議室の扉が開き、とある女性が入室してきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誰かと婚姻した場合の夫婦生活の先例の確認ですね、解ります ただまあ、メインは大公の城だとして副官の城にもたまには通う手もあるかと愚考致します 大公城には未成年者もいますし…ねえ?
[良い点] バイバイ、リス!元気に暮らせ! ヤティーンがジャーイルのことどう思ってるのか気になるな〜 新しい??人!次話が楽しみです! [一言] 新任から何十度目かの読み返ししてたんですが、あっという…
[一言] 城の名前、言ってた通りプートが自分で考えたのかなぁ?公募はしないまでも奥さん5人から参考意見位は聞いてそうな気がする ダレガキタンダロウナー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ