闇の剣士アリス
お疲れ様です。SARUです!
ようやく本格的にBrain Projectが始まったことをまずはお伝えします。今回のお話はタイトル通り、闇の剣士(笑)が出てきます。あんまり前書きが長いのは好きではないので、早速お楽しみください!
第2章〜終わり無き戦い
第3節、闇の剣士アリス
このゲームに閉じ込められてから今日でちょうど一ヶ月が経つ。この間どのくらい攻略が進んだかというと・・・全く進展していなかった。
一ヶ月前、俺、シズク、サクヤの三人は例の紙をコピーして、ほかのプレイヤーにばらまいた。プレイヤー達は意外にもクリアまでの道のりは、そう長いものではないことを知ると、一気に士気が高まり、皆、時の声を上げて攻略に向かった。そこまでは良かったのだ。ではなにがこんなにも遅々として攻略が進まない原因になっているのかというと、このゲームで痛覚という概念が発生したことだ。
今までは例えモンスターに腕を切断されようとなんら痛みを感じることはなかった。だが俺達をこのゲームに閉じ込めたあのハッカーが、痛覚に関するシステムをいじったのかどうか定かではないが、ともかくこのゲームに痛みという新要素が追加されてしまったのだ。
そしてこの痛みは半端なものではなく、ほんの少しのかすり傷でも目もくらむ程の痛みが走り、腕を切断されようものなら痛みで立ち上がれなくなり、浅い呼吸を繰り返すような羽目になる。
極めつけはデスペナルティで、俺はこの一ヶ月一度も死亡していないが、死亡した奴の話によれば、三日間も蘇生できないらしい。その間の意識は勿論あり、死亡した場所でただひたすら蘇生の瞬間を待つのだという。更にそのプレイヤーが持っていたアイテムは、モンスターにやられた場合は全ロスト、プレイヤーにやられた場合は、すべてそのプレイヤーのものになるというから、たまったものではない。
これらの要因が攻略の壁となり、ほとんどのプレイヤーは、俺達のようなハイレベルプレイヤーに丸投げしてしまった。
現在、俺のレベルは398、シズクが395、サクヤが393だった。対して全プレイヤーの平均は100ちょっとと言ったところだ。明らかに俺達のレベルは抜きん出ている。
「イツキ!向こうでネームドモンスター三体に囲まれてる人がいるんだ。助けようよ!」
ハッと我に返った。どうやら物思いにふけってぼんやりしていたらしい。シズクの叫びからは必死さが伝わってくる。まずい状況のようだ。
「ああ!今行く!」
走って声のした方に行く。自慢ではないが俺はステータスをATKとAGIに多く振っているのでスピードには自身がある。
「おい、大丈夫か!?」
到着して現場を見ると、確かに全身を真っ黒な装備で覆った剣士が強力なモンスターに囲まれているようだ。だが、その剣士はかなりハイレベルプレイヤーのようだ。恐らく俺よりもレベルが10は高いだろう。と、そのとき初めて黒い剣士が口をきいた。
「問題ない。私にはこの程度、相手にならない。」
内心ナニィ!?と思う。その剣士は見たところ使用武器が片手剣だ。いくらハイレベルだといっても、片手剣は複数の相手をするのには向いていない。それに相手もこのフィールドではかなり強力な部類に入るモンスターだ。
「よせ、無茶だ!逃げ・・・!」
「デッドリー・ラブ!」
その直後、まるで剣筋は見えなかったが、ものすごい轟音と黒いライトエフェクトと共にスキルが放たれ、モンスター三体はあっけなく爆散した。
「な・・・っ!なんだ今のは!?凄い、凄いぜ!」
久しぶりに俺より強い剣士を見て素直に凄いと思った。だがその剣士は、俺の賞賛の言葉など意に介さぬと言わんばかりに完全に無視して歩き出した。
「あ、おい待てよ!せめてさっきのスキルの名前を教えてくれ。」
「うるさいわね、呪うわよ?さっきのスキルは
《デッドリー・ラブ》。八連続技よ。」
「《デッドリー・ラブ》?聞いたことないな。ひょっとして上級職業にでも就いてんの?」
俺の好奇心からくる質問に遂に答えるのが面倒になったのか、
「分かったから、私のプレイヤーカードをあげるからそれでも見てちょうだい。」
そう言って無造作に俺にプレイヤーカードを渡すと、さっさと歩いて行ってしまった。
「なんなの、プレイヤーカードって?」
すぐにシズクが聞いてくる。プレイヤーカードはこの世界の常識だと思っていたが、どうやらそれは俺の思い込みだったらしい。あるいはシズクが知らないだけなのか。
「プレイヤーカードっていうのはその名の通り、そのプレイヤーについて書かれたカードだ。プレイヤー名、使用武器、レベル、職業が書いてある。まあ、今読んでやるから静かに聞いてろって。」
あの黒い剣士から貰ったプレイヤーカードには、こんなことが書いてあった。
プレイヤーカード
プレイヤー名・・・・アリス
使用武器・・・・・・片手剣
レベル・・・・・・・415
職業・・・・・・・・暗黒騎士
使用武器まではなんてことない、普通のプレイヤーカードだった。だが、まずはレベルが異常に高いのが気になった。俺はまだLv,398なので確証が得られたことではないのだが、Lv,400からそれまでよりも遥かに、レベルを1上げるだけでも苦労するらしい。
このゲームは、脳に埋め込まれたチップが顔や体型などの情報を得て、現実の自分を忠実に再現したアバターを生成する。あの黒い剣士、アリスは見たところそんなに俺と歳に差があるようには見えなかった。つまりこの俺よりも更にこのゲームの中毒者だということだ。
これが驚いたこと一つ目。
二つ目は職業だ。この暗黒騎士という職業は、かなり長くこのゲームをプレイしている俺でさえ知らなかった。
通常はこのゲームを開始したときに選択できる職業に就いている。種類は沢山あるが大抵は使い勝手の良い
《剣士》、《魔術師》のどちらかに就く。
既存の職業ではないということは、恐らくは上級職業だと思われる。詳細は俺にも分からないが、特定の条件を満たすと解放される職業らしい。
なんでも超強力な専用スキルがあり、ステータス上昇の効果もあるらしい。こんな性能があるはずないので今までは単なるデマだと考えていたのだが。
「つまり、すごく強いプレイヤーなんだ。アリスさんは。」
サクヤの言葉に反応してやる。
「強いどころか下手すれば俺達三人をあいつ一人で片付けられるかもしれない。」
俺の言葉に二人は驚きと恐怖が混じったような顔を返した。実際自分よりも強い相手に一方的に斬られるというのは、かなり怖いものだ。特に痛覚が発生する今の状態では尚更なのだ。
次にアリスに会ったのは更に一ヶ月が経った頃だった。このゲームが始まって二ヶ月が経つが一向に進展はなかった。この事態を重く見たある有名なプレイヤーから俺達は呼ばれ、かなり巨大な都市である《水都》の中央広場に集められたのだった。
「うわぁ、凄いね。僕達だけだと思ってたけど多分30人くらいはいるみたいだ。」
シズクが素直な感想を漏らす。俺もうんうんと頷きながら、こんな数のプレイヤーをあの人が集めた理由を考えてみる。
周りを見渡すとほぼ全員が何度か見かけたことのあるプレイヤーだった。つまり、俺達は基本的に攻略をしているので必然的にここにいるプレイヤーは全員、俺達と同じハイレベルプレイヤーであり、攻略をしているということになる。
「ついにボス攻略でもしようってか?」
ほかのプレイヤーのつぶやきが聞こえてくる。なるほど、一理ある。だがボスの正体が分かったという情報はまだ無いし、そもそもボスに挑むにはうんざりするほど膨大な数のクエストをこなす必要がある。ボス攻略の可能性は薄いだろう。
「今日ここに来てくれたプレイヤーの諸君、ごきげんよう。」
突然あの人の声が聞こえ、皆黙り中央広場は静寂に包まれた。
「初めましての方は初めまして、私の名はカミュといいます。」
そう、あの人の名前は《カミュ》。この世界にいる者なら誰でも知っている有名人だ。なぜ有名なのかといえば、誰もが答えに困るだろう。曰く、《世界最強の剣士》、曰く、《このゲームをクリアする者》などと最強という称号を貰ったプレイヤーだ。レベルも相当
高いという話だが、驚くべきは彼のプレイヤースキルの方にある。数値的な強さのみではないというのが、また彼の最強ぶりを後押ししているのだろう。
「さて、今日皆さんに集まってもらったのは・・・ギルドを設立しようと考えたからです。」
カミュがそう言った瞬間、ザワザワと周囲がざわめく。当然だろう、こんなこれからの行動に大きく関わるような発言をされれば誰だって動揺する。
「皆さんもよくご存知かと思いますが、このゲームが開始されて早二ヶ月、ほとんど攻略は進んでいません。そこで、個人個人で攻略を進めていくのに反対している訳ではありませんが、ここらでギルドでも設立して、集団で進めた方が効率が良いかと思いまして、今回ギルド設立に至ったわけです。」
「だが、誰がギルドリーダーを務めるんだ?」
俺が少々強引に、口を挟む。
「それはもちろん私が務めよう。言い出したのは私だしね。」
そこまで言うとカミュは声を大きくして、
「まぁ今日答えを聞くつもりはありません。明日もう一度ここに集まってもらい、そこで一人一人答えを聞こうと思います。」
と言うと身を翻して、歩いていってしまった。
途端に今まで緊張に包まれていた広場に元の喧騒が戻る。俺も緊張気味だった肩をぐるぐる回しながらシズクとサクヤに話していると、見覚えのあるプレイヤーを見つけた。
「おーい、アリス、待ってくれよ!」
アリスに話しかける。俺はアリスというプレイヤーにとても強く惹かれていた。俺よりも強くソロで戦い続ける彼女に。
「よう、久しぶりだな。アリスはギルドに入る気はあるのか?」
「あるわけないでしょ。そもそも入るメリットが皆無じゃない。」
相変わらずぶっきらぼうに返される。
「まぁ何事もやってみないと分かんないだろ?それにソロで難しいことでもパーティ組んでりゃ簡単なことだってあるんだぜ?」
「なぜあなたにそこまで干渉されなければいけないの?私とあなたは別にそこまで親しいわけではないでしょう?」
痛いところを突かれる。俺はあなたに憧れているんです、なんて言えば斬られるかもしれない。
「ま、まぁそうだけどよ。」
となんとも微妙な返事をする。するとアリスは一層鋭い目で睨み、
「ならもう用はないわね。次、またどうでもいいことで話しかけたら、殺すわよ?」
と言って歩いていった。
「どうだった、イツキ?」
すぐにシズクが話しかけてくる。
「アリスはギルドに入る気はないってさ。それよりも、俺ちょっとアリスをつけてみるよ。」
「はぁ?尾行するってこと?やめときなよ。」
シズクがそう言うとサクヤまで、
「そうだよ、どんだけアリスさんが好きなのよ。」
と呆れたように言う。
「いや、別に好きとかじゃねーから。」
そう、別に俺はアリスという女性に恋愛感情は無い。確かに物凄く美人で艶やかな黒髪だし、俺のタイプだが俺は剣士として興味があるだけだ。
「とにかく行ってくるよ、あいつの剣士としての強さを俺は見たいんだ。それじゃ!」
そう言って俺は、面倒なことを言われないうちにさっさと二人と別れた。
一時間後、俺は道に迷っていた。アリスが向かった方向から予想して俺が今いる《迷いの洞窟》に来たのだが、名前の通りここは冒険者を迷わせるためのダンジョンらしい。
「さて、どうしたものか。」
とりあえず四十分くらいは彷徨っているので、落ち着いて考えてみた。
「えーっと、たしか入ってすぐに右に曲がって、その後左、また左・・・・・・。そういえば最近、シズクの奴俺より剣が上手くなってきたよな・・・。」
とどうでもいい方向に思考がシフトしかけたそのとき、
「あと二人は確実に息を止める!さぁ死にたい人からかかって来なさい!」
とアリスの叫び声が聞こえた。
「アリス!くそ、今行くぞ!」
俺は声の聞こえた方に全力で向かった。恐らくアリスの言葉の内容からしてPKに遭っている。またそのPKは複数人で行われているようだ。そんな非道な真似はさせない。
そんなことを考えているうちに現場に到着した。
「アリス!どうし・・・・・・!」
そこまで言って俺は言葉を失った。まずアリスの左腕と右足が、完全に付け根から切断されてしまっている。アリスは完全に尻をつき右腕のみで剣を持って戦っているようだった。更にプレイヤーキラーは四人もいるようだ。
「あんた、なにやってんの!早く逃げて!」
アリスが俺に向かってそう言い、俺はようやく我に返った。俺は内心アリスにもそういう慈悲の心があることにニヤリとしつつ、威勢のいい言葉を放った。
「おいお前ら!四人で一人、それも女の子を襲うなんて、ちょっとダサいんじゃねぇか?」
見たところそのプレイヤーキラーの集団は、そこまでレベルの高そうなプレイヤーには見えなかったが、全員統一した真っ黒のローブを着て微動だにせず、こちらに短剣を向けているところを見ると単なるPK集団ではなさそうに思える。
しばらく睨み合いを続けていると、一人がギラギラ光るナイフを下ろし、
「おい、一旦退くぞ。」
と言い、ほかの連中もそれに従い、走って逃げていった。
途端に体の緊張が解け、一息つく。
「その・・・一応、ありがとうと言っておくわ。」
アリスにそう言われ、ようやく俺はアリスのことを思い出した。
「あ、わりぃ。すぐに治癒魔法をかけるよ。」
「いいわよ別に、これくらいなんともないわ。」
アリスはそう言うが実際はかなり痛むはずだ。事実、強がっているがアリスの顔はちょくちょく苦痛で歪んでいる。
「まぁそう言うな。」
そう言って俺は部位欠損治癒魔法をかける。すぐに左腕と右足が再生した。
「わざわざどうも。」
アリスが立ち上がりながら言った。どこまでも挑発的な言葉を放っているのを見ると、少しおかしくなってきて、つい吹き出してしまった。
「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い。言っとくけど助けられたからって、今後あんたへの対応はなにも変わらないわよ。」
そう言ってプイっと顔を背けてしまった。
「ああ、分かったから。とりあえず一緒に脱出してくれないかな?俺、道に迷っちゃって困ってんだ。助けたお礼ってことで、どうかな?」
助けたことにつけこんで頼む俺のセコさに呆れられるかと思ったが、意外と
「ま、まあ今日はあんたにはちょっとだけ世話になったしね、仕方ないわね。」
と言って、承諾してくれた。
「え、そ、そうか!よし、それじゃあ出発だ!」
そう言って俺はアリスと一緒に一番近い街、《コッコタウン》に向かった。
その途中、またギルドに入るか入らないかの話や、これまでどんなことをこの世界で考えたのかなどいろんな話をしたが、俺が何度も冷ややかな目で睨まれたかは言うまでもない。
お疲れ様でした!ご覧頂きありがとうございます。
前回の後書きでイツキ、シズク、サクヤの三人の「心理描写を頑張って描きます!」とか言ってたんですが、すみません!シズクとサクヤ空気です。まあその代わりと言ってはなんですが、新キャラアリスと、ほんの少しですが最強のキャラクターであるカミュも登場しました。この二人は物語に大きく関係するので是非注目しておいてください。
今回も書いていてとても楽しかったです。楽しみながら書けるというのは今後のモチベーションアップにも繋がるので頑張ろうと思います。
それでは最後にもう一度、ご覧頂き本当にありがとうございました。
それでは次回、アサシンギルド《影法師》でお会いしましょう!