六話め。ピンが駄目ならコンビでGO! 即効コンビ。筋バカラビリンス。
部屋の片隅で本を読む。
いつもと変わらない日常。
皆楽しそうにクラスで騒いでいる。
だけど皆の瞳に私は写っていない。
それでいいの。
寂しいとかは無いの。
私は幽霊だから。
だから見えなくて当り前なの。
なのに。
何で彼は私を真っ直ぐ見るの?
私はいないのに。
彼は私の目の前にいる。
何度も何度も私の目の前に立つ。
今度は二人。
一人は大きな体を持った人で、河合君と良く居る人物の一人。
そんな目立つ二人が私の前に現れたものだから、周りの視線が集まる。
私にまで集まる。
私は幽霊なのに、視線が集まる。
自身に満ちた河合君の輝いた瞳が。
嫌。
相変わらず心にグサっと来る無表情っぷり。
そんな表情に最早苦手意識すら付きそうで、この女の前に立つだけで心にグサっと来てしまう。
折角筋肉バカとコンビで来たのに、驚きの表情すら見せやがら無い。
ちっきしょう。
だけどよ……今度は一人じゃ無いんだ!
俺と筋肉バカとで練りに練ったネタで爆笑させてやるぜ!
「行くぜ相棒!」
俺の掛け声に筋肉がニヤッと笑う。
「おうよ相棒! 俺の筋肉が出番はまだかと嘶いなないている!」
なんで筋肉が嘶いななくのかとか、それ最早筋肉別の意識あるよ、とか思ったけども細かい所はスルーするとして。
行くぜ!
「どーもー! 僕達筋バカラビリンスでーす!」
コンビ漫才!! これならまだ挑戦していないネタだ!
フハハハハ! 今回こそ笑いをゲッチューだぜ!
ちょっと古いとか思っちゃったけども細かい所は気にしない気にしない!
しかし一発目の印象は。
見た感じ全く持って無反応で。
素敵に無表情で笑えて来るくらいにピクリとも表情が動く気配はせず。
よもや頭を傾げて意味不明という感じまで出してやがる。
……ま、まだ勝負は始まったばかりだ。
「いやー! 最近あっついですねー!! 河合さん!!」
……この野郎。
漫才中でも名前変えずに言いやがってクソ筋肉め!
俺の表情はヒクヒクと頬が引き攣って見えているだろう。
い、今は我慢だ。
「そーですねー! それとは関係無いですが私、折角の暑さを利用してダイエットをしようと思うんですよー!」
「おー! いいですねェー! ダイエットと言ったらやっぱ筋トレですよ~」
……なんでネタと違う話出してんだよ、何で漫才しながら筋肉ポーズしたりしてんだよ。
若干漫才と違うのに少しばかし苛立ちが出てしまうが……。
ま、まぁいい。
「ほぉほぉ、じゃあどんな筋トレとかがいいですかね?」
「そうですねー!やっぱ最初は筋力をつけるわけですからいっぱい食べてですね」
「いやダイエットだって言ってんじゃん?!」
寧ろいつもの具合な突っ込みになっていたが、それでも俺の的確な突っ込みが筋肉の胸へとペチン、という具合に、手の甲をぶつけた。
幽霊娘の表情に小さな反応!
片眉が上がるという、笑いの感情とは全く違う解っていない感じだが、少なくとも反応は示した。
いいぞ!いい流れだ!このまま出しきれ!
しかし、突然俺の突っ込みの手は払われた。
え?、と思っている俺に筋肉バカが真顔な表情を向ける。
「俺の大胸筋に触れるな」
筋肉がさっきまでの明るい感じから一気に真顔に変貌、え、なにこれ。
え、打ち合わせと違うくない?
え、え、えぇー……。
一瞬の沈黙が流れるも、慌てて口を開く。
「ま、またまた~! 何真面目に怒ってるんですかっての!」
何とか笑みを引きつりながら堪えると、筋肉の腕を軽く叩こうとしてみる。
「俺の上腕二等筋が穢れる」
そう言いながら俺の手を再びパシッと払いのける。
「え、あ……ゴ、ゴメン……」
素の顔に、こっちまで素で謝ってしまう。
「……」
「……」
二人して俯く。
って、いやいやいやいや!!
「何気まずい雰囲気出してんのさ! 打ち合わせと違うよ!? 漫才ってのは突っ込みでドッ! と笑い取るんじゃないの!! 何台無しにしちゃってくれてんの!?」
「す、すまねェ! つい俺の美しい筋肉に触れられて怒っちまった! 全くクールな俺を怒らせる何て罪な筋肉さんだゼ……」
勝手なこと言って勝手に見惚れてやがる。
「だーかーら! その自分の世界に入るのを止めてって! 言ってんの!!」
怒りの叫び声を発した後、チラっと幽霊女の方を見てみる。
馬鹿らしいと言わんばかりに欠伸をしている。
……一応は見てくれているようだが。
っく! これじゃピエロも良いところだ! パターンBで行くしか無い!
「もういい! 俺がボケるから突っ込みやってくれ!」
「おお! 今度こそ任せろ! 俺の筋肉を活かして突っ込みで笑いの波を作りだしてやんぜ!」
突っ込みに果たして筋肉が居るのかどうか全く持って理解に苦しむが今はそんな事どうでもいい! 頼むぜ筋肉馬鹿!!
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