表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/57

四十八話め.白い世界


 ここは、何処だ?


 何も無い。

 真っ白な世界。


 何処を見ても白。


 こんな世界、俺は知らない。



 何故こうなったのか、何故こんな所に居るのか。

 少し考えてみる。


 ……ああ、思い出した。


 俺はあの男に殴られ続けて、それから?


 あれほど痛かった痛みは、今は無い。


 もしかして、あれは夢だったのか?

 違うか……寧ろこれが夢?

 そっちの方が信憑性はありそうだ。

 夢にしては妙にリアルだな。


 わけがわからねぇ。


 ……もしかして俺は死んだ、とか?




 流石にそんなわけ無いか。



 叩かれた頭を恐る恐る触ってみる。

 血が出ている様子も、割れている様子もない。


 視線を送った先に、自分の腹部を擦っている手が目に入った。

 俺の手はこんなに小さかったか?

 思わず両手をマジマジと見つめてみる。

 そして、頭や顔を両手で触ってみる。


 あれ?


 ……小さくね?


 周りが真っ白で正直はっきりとは解らない。


 辺りは白いまま。

 どれほどの広さなのかも解らない。

 それほどに白一色。


 ぐるっと見渡す。

 最初に目に映った物があった。


 同じように白だが、それは形を作っていた。

 壇上に続くそれは。


 ……階段?


 白い階段は何処までも上へ、上へ続いていた。

 何だこれ?一番上が見えない。

 小さい体の様だが俺の頭の中は変わらないようで。

 上ってみよう。

 単純にそう思った。

 恐る恐る、一歩上る。


 ……特に何かが起こるわけでは無い。

 胸を撫で下ろして、階段の上をもう一度見上げる。

 やはり、真っ白で、輝いているようで見えない。


 二歩、三歩。

 白い空に上っていく。


 一体これは何処まで続いているんだろう。


 白い世界は変わらず。

 何処までも何処までも。




 あれ。

 これ何だろう。

 顔を横に向けると、白かった世界に色が付いていた。

 それは大きな映画を見ているような感覚になる大きな映像が映っていた。

 他にもチラホラと空中に大小のスクリーンが映っている。

 どれもが違う映像で、どれもが見覚えがあった。

 不思議には思うけど、驚きはしない。

 ここに来てから自身の感覚も何だかおかしい。


 その内の一つに目が留まる。

 写る映像は小さな男の子と、女の子を写していた。

 男の子は如何にもワンパクと言った具合。

 女の子は小さな髪の毛をピンクの髪飾りで二つ結びにしている可愛らしい子。

 女の子は蹲って泣いていた。

 すんすんと、小さな声を上げて。

 それを見ている男の子は困ったように女の子の周りをウロウロとしていた。


 俺は、この子達を知っている。


 この小さな男の子は俺だ。

 今の俺の見た目も、この写っている小さな俺ぐらいなんじゃないかな。

 何故かそう思った。


 男の子は女の子に何か話している。

 必死なその様子は、泣いている女の子をどうにか泣き止ませようとしていて。

 本当にただ必死だったのを覚えている。

 頭の悪い子供だった俺は単純な答えに行き着く。


「ヒーローけんざん! 涙が出ちゃう妖怪は俺が倒してやるんだ! とう! ほぁ!」



 笑わせれば良いんだ。

 ふざけた様子でビシィ! とポーズを決めている。

 その姿はバカっぽく、実に子供っぽく。

 単純な答えは二つ結びの子の泣き顔を確かに止めた。


 ポカンっとした表情をした後、女の子は声を上げて笑う。

 それを見た男の子も笑う。

 嬉しそうに。

 それを見て、俺も笑ってしまう。


 俺が人の笑顔に固執するようになったのは、この時からだ。


 この、女の子の笑顔が忘れられない。

 小さな女の子と遊んでいたのは良く覚えてる。

 あの子が今何をしているのかは知らない。

 だけどあの子のおかげで俺の中の強い意思が固まった。

 ……感謝している。



 おっと、つい足を止めてしまっていた。

 上らなければ。

 何故かそう思う。


 進む度に白い世界が色を変えていく。 

 それは俺の知っている景色で。

 俺が生きてきた世界だった。

 一歩進む度に景色が変わる。

 どの景色に行っても馬鹿やってる俺がいる。


 ガキの頃からずっと俺は同じ事を繰り返していて。


 4,5……7……


 気のせいじゃない。

 一歩進むたびに体が大きくなっている。

 階段を上るのが楽になっていってる。

 手も大きくなっているみたいだ。

 それは景色の俺と合わせる様に。


 階段を上りながら、頭の中でぼうっと考えてしまう


 一体ここは、何なんだ?


 …………解ってはいないけど。

 何となく、何となくだけどそうかなって思ってる。

 あんだけぶん殴られて、気づいたらココにいるって言うんなら。

 妄想になりそうだが、ここは死後の世界って事になるのか?

 この階段は生きてきた段数、景色は上る度のその年の景色。走馬灯みたいなもんで。



 …………。


 まさかな。

 無理矢理頭の中の考えを振り払う。




 大分上った、見上げると階段の終わりが見える。

 また景色を見ると、スクリーンは変わっている。


 中学2年生に成り立ての俺がそこにいた。

 学校の裏。


 俺がふざけてばかりの世界から、突然のシリアスな世界。

 血だらけで、ガラの悪い男達が倒れている中に立つ男が一人。

 オールバックにしているその男は、大きく。

 眉間に皺を寄せ、怒りをあらわにしている男は殺意を込めた視線を中学生の俺に向ける。


 この男を俺は知っている。

 中学生とは思えないその体格も、高校生まで薙ぎ倒す力強さも。


 知っている。


 あの筋肉馬鹿に出会ったのが、この年だった。

 制服は違う。

 この時は学校が違った。


 何人も病院送りにしている喧嘩屋に俺は笑いかける。

 この時の台詞も良く覚えている。


「ほーれほーれアホ筋肉~悔しかったら笑ってみろよ! そんな顔してっから友達いねーんだよバーカァ! ウヒャヒャ!」

 その台詞と共に筋肉馬鹿が雄叫びを上げて俺に向けて走り出す。

 それを見た俺はまた思いっきり笑う。

 笑顔で筋肉馬鹿に向かって走る。

 この先の未来も知ってる。


 都内で喧嘩最強とまで噂されているコイツに勝てるわけでも無く。

 それでも毎日毎日こいつを笑わせる為に付きまとった。

 アゲハと同じように。


 いつのまにか一緒につるむようになった。

 アイツも喧嘩をしなくなっていた。


 こんな事もあったなぁ……よし上るか。



 少し上る。 

 そこでまた止まってしまった。

 景色はまた見覚えのある姿に変わった。

 15歳。

 中学三年生。

 学校の中。

 珍しく俺は笑わずに睨んでいた。

 睨む先はフードを被った男。

 フードから覗く顔立ちは綺麗で中世的な男だ。

 こいつも知ってる。

 計算高くて頭が良くて、それで顔が良い。

 睨む俺に対してコイツは笑顔を返して来る。

 ムカつく笑顔だった、形だけの仮面。

 仮面の裏で誰も彼もを見下している。


 翻弄されて、見下されながらもコイツにしがみ付いた。

 何度しがみ付いてもかわされた。

 その仮面の裏を見たくて必死に。

 人間嫌いで、自分以外の全ての人間を見下していたコイツの。

 本当の笑い顔が見たくて。


 コイツの事は正直未だに解らない。

 だけど妙な絆が出来たのも確かだった。

 いつのまにか、二人目の悪友が出来ていた。


 また止まってしまった。

 上らないと行けない。



 暫く上ると終わりが近づく。

 上りきった後、目の前には真っ白い西洋風のドアがあった。


 何だこれ?


 先ほどのように階段を上らないと行けない、という執着のような物をドアには感じない。


 寧ろ妙な嫌悪感を感じるぐらいだ。

 開けたくないと思うなら、開ける必要は無いかぁ。


 俺はその場で座り込む。


 座ったまま、景色を眺める事にした。 


 辺り一面の白い世界は、色とりどりに変わっていく。


 写っているのはアゲハと俺ばかり。

 ずっとアゲハを笑わせようとしている俺と、笑わないアゲハ。


 映像はそればかりで。



 ……そればかりで。



 映像に、魅入ってしまう。



 俺が俺らしく、アイツがアイツらしくて。





「やっぱり……アイツが死ぬのは、嫌だなぁ」

 無意識に零した声は、その世界では響く事もなく。

 誰に聞こえるわけでもなく。

 自分に言っているようで、言葉は消えていく。

ツイッター @adainu1


オンラインシャッフル

http://ncode.syosetu.com/n0035dm/


暴力熱血女と貧弱毒舌男

http://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/51079/


女子高生と七人のジョーカー

https://novel.syosetu.org/95041/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ