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三話め。幽霊娘


「ふぅ……」

 小さな声が漏れた。

 無意識に出た声は疲れから出た声。

 こんな簡単な運動でも苦しくなってしまう

 階段を上るだけで息が荒くなる。



 昼休み。

 一人私は屋上に来ていた。

 小さなベンチに腰掛け、空を仰ぐ。

 燦々と照り付ける天気に目を細め、今度は辺りを見渡した。

 誰も居ない屋上はとても静かで、世界が止まった様な錯覚にすら陥る。

 しかし、そんな筈が無いのが解っているのは、手に持つ小さな文庫が風で揺らぎページを勝手に捲るから。


 教室では突然変な男が話しかけて来たから急遽非難。

 私なんてほっといて欲しい。

 静かに、そっとしておいてくれたらいいのに。


 そんな風に思う私の思いを裏切る様に、屋上のドアが開かれた。

 大きな音に屋上の静穏が汚される。


 ドアを開けたのは、先程私が変な男と言った張本人。


 嫌らしく笑うこの男に対して、何の気持ちも込めない視線を向ける。

 私に何を期待したんだろう、この男は。



 イケメンの情報で女は屋上に上がったと聞いた。

 猛烈な勢いで階段を駆け上がると、そのままの勢いでドアを思いっきり開けた。

 大きな音が木霊し、明るい日の光が差し込まれる。

 その先にベンチに腰掛ける少女が居た。

 ついクセである嫌らしい笑みを浮かべてしまう。


 ターゲット、確認!


「よー! さっきぶり!」

 づかづかと彼女の前まで近づくと馴れ馴れしく話しかけてみる。

 何気無い会話から笑いへ繋げてやる!


「……」

 俺の元気な挨拶に返す事もせず、感情の無い視線を向けられてしまった。

 こ、困る反応するなコイツ。


「いきなり急所蹴り上げるなんざヒッデーよな!」


「……」


「俺! 一宮いちのみや 扶郎ふろう! 宜しくなー!!」


「……」


「イヤー! さっきはいきなり下半身出した俺も悪いよな~、もっとソフトな笑いが好きだった?」


「……」


「……なんで一人で居るんだ? 皆と楽しく騒ごうぜ!」


「……」


「……な、なァ」


「……」

 か、会話のキャッチボールが出来ねェ!! 俺の会話というボールを全てスルーしてやがる!!せめて取って!!

 何気無い会話から笑いをと思ったのに、会話すら成立していない。

 これは一筋縄じゃいかない!!


「や、あ、あの……君さー可愛いよねー! そんな俺の苗字は河合かわい!!」


「……(ペラッ)」

 うぉぉ!? 本読み始めちゃった!

 完全に無視かよ! っていうか慌てすぎて変な事言っちゃったじゃねーか!! 別に俺河合じゃねーし!

 クッソォ! どうしたら良いんだ!! 笑わせる依然に話が通じなきゃ不可能じゃね!? このなんちゃってクールビューティーめ!

 こうなったら物で笑わせてやる! 俺はモノボケまで出来る完璧芸人さッ!

 そう思いつつ何か無いかと辺りを見渡してみる。

 流石は屋上……何もねぇ!


 ん? 屋上の薄く開いたドアから見える二つの影。


 悪友の二人組みだ。

 まさか俺が笑わせれるかしっかりと監視しているのか!?

 クソ野郎共め!


 一人は誰も見て居ないはずなのに上半身裸でポージングを決めていた。

 もう一人は隠れているつもりがあるのか携帯で電話をしている。


 あの馬鹿二人とも何も見てねェ! 何しに来たんだあいつ等!


 いや別に関係無い! 俺はこの女を笑わせねば!

 慌てて少女の方に向き直る。

 お、おおう……本のページが結構進んでいらっしゃる。


「お! おい! 人が話しかけてんだからちょっとは反応しろよな!!」

 つい気の強い言葉を掛けてしまった。

 すると、女は再び顔を挙げて俺の方を見た。

 透き通った二つの瞳。

 覗き込むように俺を見る。

 幾ら頭の悪い俺でも女の子に真っ直ぐ見られれば弱気になってしまう。


「な、なんだよ……」


 少し意地を張るような弱弱しい声になってしまうが気にしないで欲しい。


「河合君、私に何のよう?」

 え、俺、河合じゃないんですけど。確かにそう言ったのは俺ですが。

 取り合えず話しかけてくれたのは一歩前進だ! 今は河合でも何でも良いや!


「仲良くしよーゼ!」

 そう言って元気良く親指を立ててみる。


「……?」

 軽く小首を傾げられてしまった!

 なんて子だよ! ストレートに言ったら「ヤッダなにそれ~」とかクスリ的な感じなのを期待したのに!


「えっと……君さ」

 話しかけようとする俺に、少女は少し考える素振りを見せ、片手を本から離した。

 離した手で自分を指差し小さな声を溢す。


「アゲハ……」

 あ、ああ……名前ね。

 君って名前じゃないもんな。

 しかし珍しい名前だな。


「アゲハは、さ……さっき俺の股間に攻撃してきた時みたいな感じの方がまだやり易いんだけど」

 少し間を空けて、アゲハは口を開いた。


「あれは驚いただけだし……」


 驚いただけで男の急所攻撃するって酷くね!?

 もうお化け屋敷とか言ったらお化けさん達が常に危篤状態になるわ!

 ま、まぁいいや今は話聞いてくれるだけでありがたい。


「それとも……股間を蹴られたいの? 不思議な人……」


「別に蹴られたくはネーよ!! 何だ! そうまでして俺をMに仕立て上げたいのか! 仕舞いにゃホントに目覚めるぞコラ!」


「目覚めるんだ……」


「目覚めねーよ!」


 喋りだしてくれたのはいいが……何だろうかこの子は。

 とても会話が読み難いんだが! 笑いを取る前に、つい素に戻ってしまう。


「……そう」

 簡単に言うと彼女はまた視線を本に落とした。

 あ、あれ、お、怒らしたのかな?

 折角話しかけてくれたのに。

 何て扱い難い子なんだよォ……。

 再びあっちが返してくれるまで会話投げから始めるんかい! いつ取ってくれるか解らない会話をまた投げ続けなきゃイカンのかィ!! 独り言みたいに喋り続けるのがどんだけ辛いか!!


 そんな風に不安でワタワタしていると、本に視線を落としながら彼女が小さく零した。


「ねェ、河合君」


 お、喋ってくれた。っていうか俺河合じゃ無……。

 俺の気持ちなんて露知らず続ける。


「お化けって、信じる?」

 アゲハが始めて俺に投げた会話。

 それは、良く、解らない話題だった。


 ……は? 何だそりゃ?


 単純に意味が良く解らなかったが、俺はポジティブに捉える。


 ギャグか? 電波ギャグなのか? なんだソッチ系のギャグならいけるのか!?


「信じるも何も俺が幽霊だからな!」

 そう言って親指でビシィ!と俺を指差す。

 歯を見せてニヤッと笑って見せる。


「…………」


「…………」

 あ、あんれ。

 そっち系なら受けるんじゃないの?

 ヤダ何この空気!?

 屋上の肌寒さがリアル過ぎて辛いんですが!!


「……え、ホント?」

 ワンテンポ遅れてアゲハは俺に視線を向けた。

 あれ!? そこ反応する所? 俺派手に滑ったんだよ!? 突っ込もうよ!


「河合君が頭ぶっとんでるのって幽霊だからなんだね……」


「今そこはかとなくキツイ事言われた!!」

 っていうか俺の名前は河合で決定なんだ。何か未来永劫的な致命的なミスをした気がする。


 俺の言葉にアゲハが首を傾げた。


「幽霊なのに傷ついてるんだ?」


「いや俺ってば幽霊じゃねーし」

 溜息を零しながらそう返す。

 滑ったギャグを続ける位なら直ぐに新しいパターンに切り替える。

 そのつもりだったが。

 幽霊娘は何故か明らかな落胆を見せていた。

 表情は変わっていない。

 だけど、雰囲気的に寂しそうな、そんな風に受け止めた。


「何だ……違うんだ」


 いや当り前だろ! という俺の心の突っ込みを他所にアゲハが続ける。

 何でボケ役の俺が突っ込みばっかやらされなきゃならんのだ!!


「私と一緒だと思ったのに……」


「ん? え? 何?」

 何言ったこの女?


「私と……一緒の幽霊だと思ったのに」


「……ああ! 幽霊! へぇー!アゲハってお化けなんだー!!」

 アゲハが小さく頷く。


「幽霊って足が無いアレだろ?」


 アゲハが小さく頷く。


「そんで夜に出てきてうらめしや~って言うあれー!」


 アゲハが小さく頷く。


「へぇー幽霊かー! へぇー幽霊! へぇー……」


 アゲハが小さく頷く。


「……んなわけねェじゃん!!」

 4行分いっぱい使ってノリ突っ込みをさせて頂きました。

 難攻不落の笑わない少女は、自称幽霊だとほざく電波女でもあった。

下記の物も宜しくね!( `・∀・´)ノヨロシク


オンラインシャッフル!!

http://ncode.syosetu.com/n0035dm/


暴力熱血女と貧弱毒舌男

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女子高生と七人のジョーカー

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