二十九話め.伝えたい
え、なにこれどういう状況?
先ほどまで馬鹿をやっていた二人も端っこで正座をしている。
ベッドの上で寝ている俺の横に……幽霊娘が立っている。
なにやら俯いた感じで立っている。
先程、いきなり入ってきてかれこれ5分間は突っ立っている。
最初はふざけていたイケメンと筋肉も、一切無視を貫くアゲハに寂しくなって来たらしく今は大人しい。
そして俺とアゲハは、こんな風にまともに顔を合わせるのはあの時以来……俺に面白く無いと言い、アゲハが医者を助けた時以来。
つまり、気まずいッ!!
しかし諦めたくない俺は決心した窓の外からで勢いで気まずいのも誤魔化しちゃえ大作戦は失敗し。
今、大変、冷静な状況で。
真横にいらっしゃられます。
はい、背中の冷や汗が止まりません。
まさか本人からこんないきなりポンッと来ると思っていなかったので絶賛動揺中。
未だに何も喋らないアゲハに対して根負けしたのは俺のほうだった。
1秒も黙れない俺からしたら寧ろ頑張ったほうなんじゃないかと思う。
というより、こういう空気が死ぬほど嫌いなんですよ!!
「あ、あのー……お、お久しぶりですアゲハさん……どどどどういった用事なんでーしょうかー……」
「…………」
……え!? スルー!? ボケでも何でも無いのにスルー!? 俺思いのほかに嫌われてるね! 泣きそうですよ!
アナタ本当に何しに来たんですか!?
俺を全力で傷つけてるんですか!?
「…………」
何も言わない。
……ほほほ本当にどうしたんだろう?
そこで気づいた。
良く見たら……アゲハの視線がチラチラと動いていた。
俯いていながらも視線が動いているのだけは解る。
その視線は、隅で正座をしている二人に向けてだ。
……ははぁ、二人に抜けて欲しい感じか?
俺と二人でしか出来ない話?
は! まさか告白では無いだろうか。
男女が二人で居るとするなればそういうシチュエーション。
イヤ、ナイナイ……告白されるより俺が暗殺される方がまだ信憑性あるな。
取り合えず、喋ってくれるなら今の状況よりかはマシ。
少しでも進展を願い、それとなくイケメン達に視線を送ってみる。
すると丁度顔を上げたイケメンと眼が合った。
なぜかイケメンっはッグ! と親指を立てると立ち上がり、筋肉の首根っこを掴みさっさと部屋を出て行ってしまった。
予想していたのかと思うほどのあまりにも素早い行動に一瞬呆けてしまうも、直ぐに意識を取り戻す。
な、何だその親指は。
あの親指全力でスクリューしてやりたい。
……それでも取り敢えず出て行ってくれたのは助かった。
これで進展する筈だ。
……彼女は言葉を発さない。
そのまま数分が経過する。
彼女はまだ、何も喋らない。
……背中の汗がとんでもなくなってきたんですけど。
何となく彼女の顔を見上げてみる。
…………?
彼女はギュッと、目を瞑っていた。
それはいつも見せている表情とは違って。
覚悟を決めているような、そういう風に捉えていいのだろうか。
感情が動いている、というのとはまた違う小さな動作に何となくでしか捉えられない。
簡単に解れれば既に笑わせれている。
こういう小さな動作が見えるようになっただけでも俺としては成長していると思いたい。
表情を見せない彼女を知っていれば、小さな動作だろうと、こんな顔をするのは珍しいのだという事は良く解る。
……彼女が何かを伝えに来たのは解った。
それがなんなのかなんざ俺には解るわけがないのだけれど。
彼女が、そういう風に行動をしたのなら。
俺は……待つことにする。
あの、彼女が。
そういった行動をしたのだ。
きっと大きな勇気があったのだろう。
その勇気に答えるのも……男らしいいじゃないだろうか。
どんだけ笑わせようとしても笑わなかったんだ。
待ち続ける方がまだ楽だっての! 冷めた目で見られない分全然マシだね!うん!
彼女も、何か行動をしようとしているのだろうか。
こんな彼女は、酷く新鮮だった。




