二十話め.結構懇親の出来の被り物、うん、皇帝ペンギン!
「って、今日も起きてないのかよ!! 話とチゲーよ爺ちゃん先生よー!」
俺の不満タラタラの声に白髪だらけの、人が良さそうな老人は困った顔をする。
白衣を着たこの人はお医者さん。
アゲハの主治医をしてくれている。
通う度に爺ちゃん先生とは仲良くなっていった。
笑い上戸の爺ちゃん先生は笑わせ我意があって非常に楽しい(俺が)。
年を召されているので偶にやり過ぎて痙攣している。
「そう言われてものー……」
歯切れの悪い爺ちゃん先生に俺は涙で訴える。
「アイツが起きてくれなきゃ! 俺が製作したギャグ用の被り物はどうしたらいいんだよォォォォ!!!」
ちょっと熱を入れて説得してるのに爺ちゃん先生の視線が冷たいのは何故かしら。
「……その被り物は前に私に会った時に被っていたリアル過ぎるペンギンかい?」
「そうだよ、ビックリし過ぎて心筋梗塞起こした奴だよ」
何か凄いビクビクして面白かったね爺ちゃん先生☆
っていうか病院じゃなかったら死んでたゾ☆
「笑わせるのだったら……お勧めしないね」
若干表情が引き攣っている。
思い出したのだろうか。
「爺ちゃん先生よー……毎度笑いすぎで死にかけるんだったら退職した方が良いんじゃない?」
「私を笑い死ぬさせよーとして来るのは君だけだよ……」
何だろう、今のは褒められたのかな?
俺なりに心配しているのだが。
「俺は別に爺さん笑わせたいんじゃネーんだよ。幽霊む……アゲハを笑わせる為にだな」
俺の言葉に爺ちゃん先生は少し肩をすかせて見せた。
「……熱心に毎日通う君に免じて本当の事を言おう」
何だろう? というか今迄嘘をついていたのか?
「彼女は昨日、君が来た頃には既に目を覚ましていたんじゃよ……」
その言葉の意味を捉えられずに俺は一瞬固まる。
軽く首を傾げてしまう。
ん、ん~? な、何故に?
起きていたのなら会わせてくれればいいのに。
固まっている俺に、医者は答えを教えてくれる為に続けてくれる。
「彼女が会いたくない、と言っておっての……それに彼女が君の友達なら見たくない光景も」
話は途中から聞いていなかった。
あんの、クソアマめ。
人様が誰の為に、必死に病院まで運んでやったと思ってんだ。
誰の為に毎日毎日毎日毎日だな。
そら素敵なナース様は毎日見れましたけど、嫌そういうのじゃなくて。
クソアマ幽霊無愛想無機質アホ女めェェェ。
俺の怒りは有頂天。
「爺さん俺ちょっと行ってくるわ!」
目的地は奴の病室。
「い、いや今は診察中で」
止めようと俺の腕を取ろうとする爺ちゃん先生から手を振り切った。
「待ちなさい!」
「はい変顔ーー!!」
それでも止めようとする爺ちゃん先生に、振り向きザマの俺懇親変顔!
「っぶ! ぶわっひゃっひゃっひゃっひゃ! や、止め! アヒャヒャヒャヒャ!!」
「スイマセーン! また先生が笑い死にしそうになってまーす! 看病したげて下さーい!」
近場にいた看護師の女性にそう言うと、『先生、またですか……』と半ば呆れ気味。
看護師には最近仕事が増えるから止めて欲しいと言われていたが今回ばかりは許して欲しい。
これで心置きなく病室に行ける。
「ま、待ちなさ……プクク……その子を止め……」
笑いで死にそうになりながらも看護師に俺の事を伝えようとしているようだが……そうはイカン!
「はい! 尻で割り箸割りマース!」
「ブッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
まだやってないんだけど……まぁ良い。
これで奴の息の根を止めァ!
ビクビクしてる☆
ダッシュで俺はアゲハの病室に急いだ。
この自家製のリアルペンギンで爆笑の渦だ! ちょっとリアルに作り過ぎて鳥人間みたいになるけど。
しっかりペンギンを被って勢いよくドアを開けた。
「北極とか寒過ぎてやってらんねェぞコラァ!!」
わけのわからない台詞は相変わらずのご愛嬌!
久しぶりに全快で行くぜ! 何でペンギン!? 無駄にリアル! ペンギンが寒さでキレるって可笑しくない!? どんな突っ込みにも完全対応!!
今は君の笑顔だけが俺の心をあっためるのさ!
来い! ビッグマウンテン!(笑いの山)
しかし。
そこで被り物の穴から見た光景は。
俺の心を北極よりも氷付けにする物だった。
白いベッド。
そこでアゲハが寝ているのはいつも通り。
感情のない瞳もいつも通り。
問題は。
そんな彼女の上に覆いかぶさっている白衣の若い男。
眼鏡がエリート感を匂わせる。
な、何やってんだ?。
若い男がアゲハの手を押える様にして身動きを止めている。
まるで男がアゲハを襲っているように見える。
俺と目が会うと、アゲハは久しぶりだというのに。
『河合君か……』という感じ。
この状況で何で君はそんな冷静なんでつか!?
そして次は若い白衣の男に目線をやった。
誰だコイツは!? 一週間この病院にアゲハの様子を見に来ていたがこんな奴は一度も見てなかったぞ!?
そしてどういう状況だ!? 幽霊娘とどういう関係だ!? お父さんは認めませんよ!?
予想外の状況に頭の中がぐるぐると回る。
「何だ君は」
その形のまま眼鏡に話しかけられた。
っていうか態勢変えないのかよ。
「今は診察中だサッサと消えろ」
言い方に、このメガネが最悪の奴だと認識。
ペンギンの被り物をしたまま、俺は眉をひそめる。
なんだコイツは失礼な奴だなオイ!
ペンギンの被りものして人の部屋に無断で特攻している俺も大概だが。
何も言わない俺にメガネは苛立った表情を見せると、やっと立ち上がった。
ツカツカと俺の近くまで来ると俺の方を睨んでくる。
「フザケタ奴め……出て行けと言っているだろう? 気持ち悪い奴だ」
え。
え、気持ち悪い? え、気 持 ち 悪 い ?
笑イニ生キル人間ニ気持チ悪イハ、ゴ法度デスヨ!?
気づけば腕を上げていた。
「はいドーン!!」
「ぶひょぉ!?」
妙な効果音と共に医者の顔を思いっきり殴っていた。
医者も合わせてくれたのか面白い効果音を口から出していた。
「ムカつく奴のクセに面白い事言えるじゃねーか」
褒めてやっているのにクソメガネめ寝てやがる。
本当に礼儀がなってないなコイツ。
「あのね……それ面白い事言ったんじゃ無くて河合君が殴ったから変な声出ただけ」
あれ、バレてる。
驚かすつもりだったのに……。
「お、俺は河合なんてナイスガイではネーゾ!? 環境に反抗する不良ペンギンだ! っつーか河合じゃねーって!!!!」
憤慨している俺に。
久しぶりなのに、アゲハは凄く呆れていらっしゃる。
「そんな馬鹿な事するの河合君だけよ……しかも自分で言っちゃってるし」
そこまで言ってから、アゲハは俺の目を真っ直ぐに見据える。
「それよりも、とんでも無い事してくれたね」
何がとんでもない事なんだろ?
「その人は有名な医者のご子息で……私を研究に使っているのよ」
「っへー、このメガネぼんぼんなのか余計にムカつくな」
道理で見た瞬間気に食わないと思ったわけだ。
「……この病院も、潰されちゃうよ。貴方のせいでこの病院も私も大迷惑」
感情が篭っていないその台詞。
しかし俺の心を動揺させるには十分。
ま、まじかよ!
そんな大変な事だったなんて!!
流石に勢いで行動しすぎた!
状況を把握して焦りだす俺。
「そ、そんな事言われても知らなかったし、っていうかコイツ今お前襲ってたんだぞ!?」
俺の様子を見ても、彼女自身が慌てる様子は無く。
いつもの無表情無愛想でゆっくりと口を開く。
「また明日来てくれる? 幸い顔もバレて無いし」
そう言うと、子供に言うように付け加える。
「解った?」
「……解った」
流石に状況が悪いって奴だ。
俺は大人しくその言葉を受け入れる。
彼女を後にして病室を出る。
久しぶりなのに、大した事も喋らずに終わってしまった。
折角久しぶりだってのに、いや別に良いけどさ?
廊下を歩きながら、何となく心の中で呟く。
……なんだよ。
角を曲がったとき、爺ちゃん先生とぶつかった。
「あ、爺さん。アゲハの部屋にいたアイツなんだよ!」
……俺の顔を見た形で固まってる。
ど、どうしたんだ? 話聞いてる?
「ぎ、ギャァァァァァ!!」
凄い雄叫びを挙げて爺ちゃん先生はぶっ倒れた。
あ。俺ペンギンの被り物、被りっぱなしだった。
いっけね☆
フフ。また痙攣して……ン? 泡まで吹いちゃって……!?
「か! 看護師さーん! 誰かー! 爺さんが泡吹いてるよォォ!! 今迄ココまでは行かなかったよ! 爺さんが死んじゃう! コレ死因どうなっちゃうの!? っていうかコレ俺が殺したことになるの!? 誰か助けてェェェェェェ!!!」
……爺さんは今迄で一番危なかったが一命は取り留めた。
ちょっと次から爺さんにはもうちょっと優しくしよう。
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