十八話め.やり返す
「……え?」
俺は思いっきりアゲハの手を掴む。
そしてアゲハが先程やったように、今度はアゲハの手を思いっきり俺の胸に当てた。
「よー! 聞こえるか! 俺の鼓動!」
「……何するの、痛い」
「聞こえるかって言ってんだよ!!」
声が荒れてしまう。
それほど俺は必死になっていた。
なんでこんな事に必死になってるかわかんねーけど。
俺は否定しなきゃ駄目な気がするんだ。
お前が幽霊である事を。
誰かが幽霊だと言っても。
俺だけは認めない。
絶対に。
「聞こえる……うるさいくらいに」
観念したかのようにアゲハは小さくそう零した。
それを聞いて、俺はニッと、思いっきり笑う。
お前なんか怖くない、何て言うように。
笑えているだろうか。
引きつってしまっている気もするが気にしない。
「コレはな、お、お前の胸触ってこうなったんだよ!!」
自分でも最早何言ってるか解って居ないのが正直な所。
ほら見ろ、アゲハの表情が訝しそうに変わってんじゃねーか!
「残念な事にテメーでドキドキしてんだよ! 俺は!! お前みたいな幽霊娘にな!!」
「……何言ってるの?」
うるせぇぇぇぇ!! 俺も最早何言ってるか謎状態なんだよコンチキショー!!
「健全な高校生が!! がっつり可愛い女の子に反応してんだよ!! 幽霊だったら反応するかバーカ!! そんな事で証明されたと思うなよボケナス! 諦めねェ! 絶対諦めねェ!! そんな寂しい目する奴一人にするかよ!!」
お、俺は馬鹿だから。
証明とか難しい言葉わっけわかんねーけど! こんなんで証明になるかしらねーけど!
言ってる事は! ま、間違ってネーだろーが!!
「寂しい? 何言って……」
珍しく戸惑ったような様子を見せるアゲハに畳み掛ける。
「うるせーうるせー! テメーの証明は却下だ!! 心臓動いてなかろーが俺が違うって言ったら違うんだよ!!」
も、もう俺もわけが解んネーよ!!
あ゛ー! クソッタレ!
「何ソレ……暴論……ゴホッ……っていうか、さり気に……プロポーズ……してる……」
奇妙な咳をしながらアゲハは妙にゆっくりと喋る。
なのに、俺は焦りでそんな所まで考えが及ばない。
「はァ!? ププププププププロ……しししししてネーよバカ!!」
「さっき、一人に……しないって……」
「こ、言葉のあややややだよ!!」
必死で叫び声を上げているがアゲハの手は握ったまま。
何か熱籠っちゃって汗とか付いたらどうしよう、なんて地味に冷静なことを考えてしまう。
あれ? そういやアゲハふらふらしてね? っていうか顔赤くね? そういや冷たい筈の手からも熱を感じる気がする。俺の熱だけじゃ無いのか?
「何……ソレ……変な……の」
言葉が虚ろだ。
瞳が半開きになって目もトローンとしている。
な、なんていうか凄く色っぽい。
「へ、変じゃネーよ、うん……へへへへ変じゃねーよ……」
そう言って一人で頷いていると、突然体重が掛かってきた。
「ア、アゲハ!?」
アゲハが突然もたれ掛かってきたのだ。
傍から見れば卑猥なことをしているように見えてもおかしくは無い。
っていうか俺等二人しかいないんだからこの状況はまずい!!
「アゲハ! アゲハ! こ、心の準備ってのがあああってだだだだだ」
髪の毛の良いにおいがする。
柔らかいアゲハの柔肌が俺の全体面積的な感じで触れている。
や、ヤバイ! この状況は本当にヤバイ!!
一人で慌てていると、アゲハに何も反応が無いことに気付く。
「……アゲハ? おい。アゲハ!!」
俺の返事に反応しない。
アゲハは荒い息を繰り返すだけだ。
お、おかしい! 馬鹿野郎! 幽霊のクセに具合悪くしてんじゃネーよ!
必死でアゲハの名前を呼び続ける。
だが、荒い呼吸だけで反応してくれない。
クソ! 病院に!! いや、心臓動かねー奴なんか診てくれんのか……?
いや、取り敢えず病院だ!!
アゲハを背に背負うと、俺はアゲハの家を出た。
必死で足を動かす。
荒い息が後ろから聞こえる。
……苦しそうだ。
「世話焼かせるんじゃネーよ! 絶対に助けてやるからな!!」
背中から来る温もりはアゲハが生きている証だと思った。
幽霊だとか言うんだったら、ちゃんと幽霊しやがれ!!
「河合君……ぁりが……と……ね」
後ろで何か呟いているようだが、急いでいる俺には聞こえなかった。