十六話め.幽霊の証明
少し間を空けて、俺は口を開いた。
「で? 何で俺呼んだわけよ」
俺の言葉に幽霊少女は無表情のまま、また可愛らしく首を傾げる。
「……ちょっと話があってね」
そりゃそうだ。
この女が俺を家に上げるなんて、何か用事がなかったら有り得ないわけだ。
嫌われてると思ってたんだが呼び出す程とはよっぽどだな。
「何だよ」
単刀直入に聞く。
多分言いたい事は解る。
「私に関わらないで」
やっぱりか。
「鬱陶しいの、メンドクサイの。ムカつくの。面白くなんか無いの。」
んーだよ。結構流暢に喋れるじゃねーか。
何も言わない俺にアゲハは少し間を空けてまた口を開く。
「怒った?」
別に心配して、というわけでは無いようだ。
寧ろ嫌われた方が解りやすいというぐらいだ。
それを解った上で口を開く。
「テメーの意見だけどよ、シンプルに答えりゃー」
「?」
俺はいつもの笑みを浮かべる。
これくらいの事で凹む俺じゃねェ。
へこたれねーんだなコレが!!
「イヤだね」
「ふーん」
俺の言葉にアゲハの片眉が、また上がる。
無表情なコイツの表情を読み取るやり方も解ってきた。
「悪いがよ、何を言われようが俺はお前に関わるぜ? それがイヤだったらサッサと笑えよ電波女。俺はテメーが幽霊じゃ無いって証明してーだけなんだからよ」
「何それ。変なの」
アゲハが呆れた声を溢しながらお茶を啜る。
「俺みたいなのに付き纏われて同情するよ」
そう言いながら俺は軽く笑って見せる。
この女が返して笑う事はやっぱり無いみたいだけど。
アゲハが口からお茶を離したのに合わせて今度は俺がお茶を啜る。
しかし解ってたことだけどやっぱ相当嫌われてんなー俺。
なんだかんだでやっぱ凹むわ。
「……河合君は私の事が好きなの?」
「ぶぼぁ!?」
勢いよく飲んでいたお茶を噴出してしまった!
こ、こここここの女は行きなり何を言い出すんだ!?
ば、バカじゃネーの!? す、スキなわけネーじゃん!! はぁ!? ホワッツ!? アイドンチュー!?
「ば、バカ言ってんじゃねべばるばれらもん……」
や、やべェ動揺してんのバレてねーよな!? クールに行けてるよな!?
「……口が周ってないとかよりも、まず口に含んだお茶をぶっかけた事には何も無いの」
「あ、悪い」
思いっきり目の前にいるアゲハにお茶掛けてた。
あらコレって間接キスになるのかしらテヘ。
「……もし今変な事考えてたら靭帯切断するから」
「か、考えてネーよ!! しかも何でリアルに生活に支障が出る攻撃しようとするかな!?」
話ズレてるわ……。
何だっけ? 俺が、お前が好き?
……いや、そんなの考えた事ねーし。
「す、好きかどうかなんてシラネーよ……」
「うん冗談は良いとして」
…………俺の心の中の殺意がだな。
お前冗談言えるのかよ。っていうか冗談なのかよ。
お、お前みたいな無愛想女こっちから願い下げじゃボッケー!!!
心の中で悪態を付きまくっていると、アゲハがまた口を開く。
「本題はね。」
突然アゲハが俯いた。
何だお前のボケにはもう反応せんからな。
「本当に私が死んでないと思う?」
……は? なんだそりゃ?
ボケには反応しないって言ってんでしょーが。
「そりゃそうだろ。今こうして喋ってんだからよ」
「見えてるし喋れるけど、それでも幽霊の可能性……あるよね?」
「ネーよ。っつーかお前がそういう事言うから幽霊じゃねー証明しようとしてんじゃねーか」
「私が死んでる証明があるとすれば?」
っはァ? 何だそりゃ。
それは本当に証明かよ。
わけがわかんねーな。
「そこまで言うなら見してみろよ」
「ウン、今日は納得してもらう為に来て貰ったから……納得したらもう関わらないで」
「いーぜ。納得したら、な」
死んだ証明なんてあるわけが無い。
安直な俺は承諾した。
証明の仕方なんて、何も浮かばなかったからだ。
アゲハにちょいちょいと手で呼ばれる動作をされる。
目の前にいるのに、これ以上に近づかなきゃ行けない証明なのか?
取り合えず言うとおりに立ち上がるとアゲハの横にまた座る。
胡坐で座る俺と対照的に正座で座るアゲハ。
流石に本当に目の前だと若干緊張してしまう。
何だかんだでこの子は美人だ。
いや、何考えてんだ俺。
アゲハの白い腕が俺に伸びたかと思うと、右手を捕まれた。
冷たい。
あまり言いたくないが、死人のように本当に冷たい。
だが、それが死人としての証明なんだとしたら。
浅はかとしか思えない。
体が冷たい人間なんて幾らでもいる。
手が触れている事には心臓が動いてしまうシャイボーイな俺だが、そんなのじゃ幽霊の証明にはならない。
そう思っていると。
俺の腕を取ったまま、アゲハはそのまま腕を自分側に持って行った。
……は?
思考停止。
……っは、っは!?
ふくよかな感触。
男からしたら夢と希望が詰まっているアレ。
持っていた先はアゲハの……
その右手は、アゲハの胸の上にあった。