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十五話め.何でもイメージ通りってわけじゃないらしい。

「……あがって」

 短い言葉でそう言われる。


「あがれって言われてもよー」

 見上げたのは古ぼけたアパート。


 以外だった。


 寡黙の窓側美少女はきっと。

 家柄も腹が立つような金持ちだと思っていたからだ。



「……どうしたの?」

 不思議そうに俺を見つめる幽霊少女。


「あ、ああ、悪い……おっじゃましま~す」

 古ぼけた玄関に入る。

 汚いわけでは無い。

 だが人が住んでいるという感じがしないのは何でだ?

 っというか。


 ……っというか!!


 ととととというか!

 今この状況を理解してしまった!

 幾ら幽霊女と言っても可愛らしい女の子。

 俺みたいなシャイボーイがこんな女の子の家に上がるななななななんて。

 何となく後退あとづさる、声が裏返る。


「そ、そーいやよ! ご両親は~、ど、どうしたんだよ!?」

 幽霊少女は再び可愛らしく小首を傾げる。


「……いないよ?」


「い、いないって、それってお前と俺のふ、二人だけって事!?」


「そうだけど」


 お、お前なんでそんな冷静なんだ!?

 へ、変に意識しちまう。


 慌てている俺を他所に、アゲハは淡々と、当り前かのように言葉を吐いた。


「親は両方死んじゃったから」


 さも当り前のように、感情を込めるべき所を無表情に。


「……そっか、邪魔するゼ」

 慌てていた俺の心は酷く冷静になる。


 ……別に感情を込めろとか言う気は無い。

 それでも無表情な、お前はさ。


 ……。


「うん。入って」


 俺の表情が曇った事には気づいた様子だが。

 それでも彼女は何かを言うわけでも無い。


 家に上がるとスグに居間があった。

 小さいアパートだ。



「……座ってて」

 ちゃぶ台に座らされると、幽霊女は小さな台所に消えた。 


 生活観の無い部屋だ。

 あるのは小さな箪笥と無色のベッド、そしてこのちゃぶ台。

 居間ってのはもうちょっと花があるもんだと思うんだが。

 ま、人それぞれだ。

 別に良いんだけどよ。


 何もする事がせず、部屋を再び見渡す。


 良く見たら箪笥の上には写真立てがある。

 いや、倒れて見えねーから写真倒れ?


 気になって立ち上がる。

 どうせ何かやってる幽霊娘が来るまでは暇なんだ、これぐらい見てもバチは当たんねーだろ。


 倒れている写真を立て掛けてみた。


 ……これは。


 立てかかっていたのは幸せそうな家族の写真。

 豪快な笑みを向けている父親っぽい人が小さな女の子を抱き抱かかえている。

 その男性の隣に居る綺麗な女性もこちらに向かってニコやかに笑いかけていた。

 アゲハのー……親御さんかな?

 つまり抱いている女の子はアゲハ、かな?

 白いワンピースが似合う可愛らしいおかっぱの女の子。

 小さな少女は満面の笑みで笑っていた。


 とても綺麗な。

 可愛らしい笑顔だ。


 ……んだよ。笑えるじゃん。



 素敵な。良い笑顔だ。



「……何してるの お茶淹れたよ」

 後ろから突然話しかけられた。

 少し驚いたが、冷静な感じを出しつつ振り向く。

 お盆にお茶を乗せながら少し不満そうな表情をしているアゲハが居る。

 良く見なければ解らない程度ではあるが、肩眉がヒクヒクと嫌がるような動きをしている。

 よっぽど見られたのが嫌だったのか。

 ……そんな様子のアゲハにニヤけてしまう。


「よー、お前笑えるじゃん、しかもスッゲー可愛いし」

 バカにしたような言い方にアゲハは、表情は変わらないが、再び方眉がヒクッと動く。

 コイツが感情っぽいの出すと嬉しいらしい俺。



「……その時の私は生存中だから……今は幽霊だし」


 あ、またそれかよ。

 そこまで行ったら呆れるわ。

 どんだけ幽霊大好きなんだよ。どんだけ幽霊マニアなんだよ。


 取り合えず呆れながらも写真立てを元の位置に戻した。


「……悪いけど、箪笥の中に、写真入れて……」

 無機質な声に少しだけ籠った不満の色。

 これ以上写真を見せたくないという意味合いだろうか。

 女の子の家に来て箪笥を開けて良い物なのか?

 まー入れといてって言うんだから良いんだろう。

 さして重くもない箪笥の一番上を開けた。


 ……閉めた。


「……お、おおおおまままままままま、ど、どういうつもりだよ」

 俺の言葉の意味が解って居ないのかアゲハは不思議そうに首を傾げる。


「何が」


「し、下着が入ってる箪笥なんか開けさすんじゃねーよ!! あれか! 純粋な俺のリアクションでも楽しもうとしてたのかコラ!!」

 俺の怒りの声にアゲハは少し考えた素振りを見せた。

 その後、ちょっとだけ目が泳ぐ。


「ヤダ……河合君エッチ……」


「ぐは!?その言い方もポイント高いっすよ!? じゃなくて!! アゲハって結構胸大きいんだな……とかでもなくて!! ええと、ええと……白い下着が多かった……でもなくてェェェェェェェ!」

 慌てまくっている俺を他所に、彼女は無表情なまま続ける。


「箪笥って言ったら……普通一番下だよ……バカ」


「一番上だろ普通!! あー!くっそ!結局良いリアクションしちまったよ! チッキショ……一番下だな!?」


「……次見たら脳髄引き釣り出すから」

 今凄い怖い事言われた気がします。

 丁寧に、震えながら下の箪笥に入れた。  


 何とか任務を全うし、ちゃぶ台に座り直した。

 俺の前にお茶が置かれる。

 幽霊娘もちゃぶ台を挟んで俺の前に座った。


 取り合えず会釈して一服。

 合わせる様にアゲハも会釈してくる。


 あ、温かい。

 普通に美味い。


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